黒魔導継承の儀

 福島はハッとして「そういえば」と話をきりだした。


「えっちな話じゃないなら、さっきなにを言おうとしたの?」


 話がそれてしまったが、こいつにスキルをもらおうとしていたんだった。


「実はだな、俺は他者のスキルをコピーできるスキルをもっているんだ」

「え、スキルを? 相手のスキル盗んで、サードが使えちゃうってこと?」

「そういうことだ」

「強くない?」

「強い。条件もわりと緩くて、実は福島の闇をだすスキル『黒い靄』もいまスキルトーカーに記録できてるんだ」

「うわああ! 泥棒!」

「おちつけ」


 俺は俺の能力を説明し、それが相手のスキルを奪うものではなく、複製するものだと理解させた。福島としては自分のスキルをそのまま持っていかれると思ったらしい。


「よかったぁ、そんな残酷なことがまかり通らなくて……」

「世の中にはそういう能力もあるのかな。あったら怖いな」

「本当そうだよ……それで、サードは許可を私にもらおうとしてるってこと?」

「そういうことになる」

「はぁ。なんというか、サードってそういうの黙ってみんなから奪いまくるタイプだと思ってた」

「俺そんな感じにみえるかよ」

「見える!」


 見えたらしい。


「なんだか変に誠実だね」

「褒められたいわけじゃない。負い目をおいたくないだけなんだ」

「そういうところも誠実だよね」


 福島は半眼になってニヤニヤとしている。むずがゆい応酬をはらいのけ「くれるのか、くれないのかどっちなんだ」と問いただす。


「くっくっく、我が魔導、継承する覚悟はあるか?」

「あるある」

「この道はつらく険しいものだ。闇の力に呑まれれば己を失うかもしれないよ。それでも?」

「もちろんもちろん」

「よかろう。それじゃあ、私の弟子になることを条件に、我が魔導の力を伝授しよう」


 えぇ……弟子? 

 これから先この痛々しい子に師匠面されるのか?

 それで絡みも増えちゃうのか? 流石の俺にも友達を選ぶ権利はほしい。


 俺は3秒ほど思案する。

 結局、この重症厨二病患者と仲良いとまわりに思われたくない気持ちが勝った。


「うーん、じゃあ、面倒くさそうだからいいや」

「そうかそうか、では、今日より我が門下で魔導の修行にともに励も……はえ!? ちょ、ちょっと待ってよ! いらないの!? 闇の力だよ! 簡単に諦めていいのかな!?」

「いいよ。そこまで欲しいわけでもないし」

「もっと欲しがってよ、私の能力すごいんだからね!」

 

 面倒なのは御免なので諦めようと思ったら、今度は「くっくっく、私のスキルをもらうまで逃がさないよ!」とか息巻いて、闇の壁で建物のなかに閉じ込められて、1時間粘着された結果、押し売られる形で『黒い靄』を覚えさせられてしまった。あと弟子にもさせられた。


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『黒い靄』

アクティブスキル

黒い煙霧を放出する

【コスト】MP10

これは視界を塞ぐだけ

まったくそれで十分なのです

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 アルバイト終わり、福島と一緒に血の樹の中庭にやってきた。

 芝生の生い茂る広場の真ん中で、福島はびしっと手をこちらへ向けてきた。


「我が弟子、覚悟はいい?」

「いいぞ」

「弟子、師匠にむかってその言葉遣いはどうしたのかな」

「……あい、師匠、いいですよ。覚悟はできてます」

「よろしい。それではこれより黒魔導継承の儀をおこなう! うおおおお! ……うおおおおって言って」

「そういう感じなんですか? 魔導の継承とかってもっと粛々っと技の確認とかして、免許皆伝が行われるイメージなんですが。これでは部族の若い戦士たちが己の勇気を示すために、太鼓と踊りと炎のまえで、村一番の戦士に挑むみたいなテンションじゃないですか」

「たしかに弟子の言う通りかもしれないね。師が弟子の力をたしかめて免許皆伝をあたえるほうが継承の儀にはふさわしいかな」


 福島はスンッと気取った顔で広場を示す。


「まずはあっちに闇を広げてみなさい、弟子。まずはテニスコートを覆うくらいまで広げられたら合格だよ」

「それって難しいのか?」

「弟子」

「難しいのですか?」

「やればわかるわ、弟子」


 俺は手をかかげスキルを発動する。

 スキル『黒い靄』が解放され、闇が前方に放出された。

 しかし、闇は俺の手前に薄く広がっただけだ。

 とてもとてもテニスコートを覆えそうにはない。

 

「師匠、俺の『黒い靄』不良品じゃないですか」

「ちょっとケチつける気!? 見てなさい、『闇との対面ブラックインストール』」


 福島がキリッとした顔で手をかかげると、彼女の足元から急速に闇の波動がひろがった。そのまま世界を飲み込みそうな勢いだ。


 これは……ふむ、熟練度の差だろうか?


「くっくっく、私はこの領域にたどり着くまで2年かかった。弟子も修行に励めばこのレベルにたどり着けるようになる。頑張りなさい」

「コツとかありますか、師匠」

「コツは連打だよ、弟子」

「連打?」

「ふっ、これ以上は自分で考えること。魔導の修行は一朝一夕でなるものではないもの」


 その夜、俺は第一訓練棟訓練場で『黒い靄』にむきあった。


「そういうことだったのか。いや、考えてみれば当たり前だったか」


 連打の意味は理解できた。

 同時に俺にはこのスキルを福島と同じように使うことはできないとも理解した。

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