リソース理論

 翌日、第一訓練棟訓練場。

 俺は昨日につづき、新しい能力『形状に囚われない思想』の研究を進めていた。

 地面をたたいて効果範囲めいいっぱいに効果を適用する。


 俺が地面をたたいた衝撃はやわらかくなった地面に波紋のように広がり、硬い大地に津波のような現象を発生させた。波の動きをとらえその瞬間に硬化を適用する。

 すると、訓練場には水面に水滴を落とした瞬間を、写真できりとったような、いびつで不可解な地形が誕生した。


「これは……軟化と硬化した地面じゃ力の伝わり方がちがうみたいだな。とすれば、軟化度を調整すれば、狙った地形変化を起こせるかもしれないな」


 これもスキルパワーが上昇したのと硬化と軟化がひとつのスキルで運用できるおかげだ。

 2つのスキルのそれぞれの影響をこれほどまでに緻密に操作するのは難しい。


 今日の研究は、ほかの能力との合成ではなく、スキル単品での可能性模索がメインだ。

 まずはスキルに慣れるということもあるが、俺のなかでリソース問題が浮上しているのが主な理由である。


 いわゆるリソース理論というやつである。

 小峰先生が教えてくれた話だ。

 このリソースというのは主に2つの意味をもっている。


 1つ目は、スキルの複数同時使用などの時につかう処理能力のこと。オーバーヒートに関わっているのはこれだ。知力ステータスの上昇で処理能力はあがるらしい。


 2つ目は、覚えられるスキルの量のことで、メモリーなんて言われ方をする。これは昨日、スキルツリーちゃんが言っていた「メモリーの節約」という言葉のことである。これも小峰先生に聞いたところ、欲しかった答えをすぐ返してくれた。


「メモリーの節約? あぁメモリーの限界のことか。メモリー限界に達した祝福者は、それ以上新しいスキルを覚えることができなくなる。探索者活動をつづけていて、3年間新しいスキルが覚醒していなかったら、メモリー限界に達していると言われているな。メモリーは神秘と精神のステータスの影響を受けるらしい」


 リソース理論では、2つのスキルを同時に運用するより、1つのスキルを使うほうが脳の処理能力に負担をかけないのだという。


 メモリーの節約をすることは、覚えられるスキルの数を増やすだけでなく、処理能力を保つためにも効果的ということだ。


 ちなみにだが、『やわらかくなる』と『かたくなる』がひとつになった結果、たぶん俺のメモリーに1つの空きができた。その証拠にステータスに『』(空スキル)が1個増えていたし。


「しかし、俺って何個までスキル覚えられるんだろうなぁ。限界来たらキモイクルミ食べてスキルツリーで新スキル覚えることできなくなっちゃうのかな」


 オーバーヒートといい、メモリー限界といい、スキルぶっぱ勢も無条件に最強ってわけにはいかないようだ。現実はきびしい。


 まあいいこともあった。

 この先の見通しがたったことだ。


 具体的には、『スキルの種』の収穫頻度があがったこともわかったし、それによりスキルの融合ができるともわかった。副次的に『』(空スキル)が手に入ることもわかった。

 

 つまりいままで俺が控えていた『スキルトーカー』でスキルを記録して、他人のスキルを自分のスキルにしちゃうムーヴができるようになったということだ。


 実はいままで『』の入荷の目途が立っていなかったため、俺はこいつにスキルを入れることを躊躇していたのだ。だって『』に一度スキルをいれるとやっぱなしってことできないんだもん。変なスキルいれちゃって、なんにでもなれる枠を消費しちゃったら後悔しそうじゃん。ソシャゲの星5キャラ配布で、自由に選んでいいよって言われても、ちゃんとキャラ評価とか調べてから選ぶのと同じよ。


 選択肢は使ってしまったら終わり。

 保持しているうちは無限の可能性になれる余地がある。


 そんなわけで最後の『』をしばらく使えずにいたが、いまは『』の入荷の目途がたったので、けっこう気軽に使える。なので本日はちょいと収穫しにいこうと思う。はてさて、夏休みの校舎にはあんまり生徒がいないだろうが、どんなスキルに出会えるのでしょうか。


 ──しばらくのち


 昼下がり、英雄高校敷地内にある一回も足を踏み入れたことのないような建物にやってきてワックスがけやら清掃やらを行う。

 今日の現場では知ってる顔がせっせとモップでワックスを広げていた。


「くく、まさかお前がいるとは『第三の男ザ・サード』!」

「福島だっけ。お前もアルバイトとかするのな」

「実家に帰ったけど、学費稼いでこいって言われてはやめに戻ってきたの!」


 福島は片手で眼帯をした目元をおさえながら得意げな表情でいう。

 英雄高校の生徒は基本的に学園外でのアルバイト禁止だ。

 その代わり学園内にはいくらでもアルバイトがある。


 当初はこのシステムを不思議に思っていたが、もしかしたらすべてを学園内で完結させることで、生徒がトラブルに巻き込まれるのを防ぎたいのかもしれない。

あるいはトラブルを起こしたものに、確実な処罰をくだすためか。 


 むむ、そういえば福島ってけっこうカッコいい能力使ってたな。

 彼女の必殺技『闇との対面ブラックインストール』は体育祭でグラウンドに黒い霧を広げていたっけ。

 俺もほしいなぁ。いいなぁ。チラチラ。くれないかなぁ。チラチラ。

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