赤谷誠 VS 志波姫神華 2 前編

『第六感』が赤谷に伝える。1秒後の未来の展開を。


(弾いて切り返してくるのか。弾かれるのならば先に志波姫の剣から俺の剣を離してしまえいい)


 志波姫の木刀は赤谷の剣をはじくつもりだったような挙動をみせるが、わずかに宙をもちあげるだけに終わる。

 動きを先読みされればさしもの志波姫も大きな隙をさらすことになった。


 ここだ、この勝負いただいた。

 赤谷は鬼の首をとったように威勢よく、握りしめた木刀を志波姫のこめかみに走らせた。


 だが、おかしなことに本来訪れるはずの赤谷のターンはやってこなかった。

 志波姫のほうが先に動いていたのである。


 赤谷は『第六感』で得た情報により、志波姫の対応力をあざわらうように封殺したが、それにたいして志波姫はすぐさま修正の動きを加え、赤谷の足首をまえから鋭く押しこむように蹴ったのだ。


 どうしてそんなことが可能なのか。赤谷は考える暇もない。

 だが、彼にはまだスキルが残っている。


 当然、これも『第六感』で見えているので、志波姫の前から押しこむような足払いも、狙われてるほうの足を持ちあげて回避。赤谷に嬉しさはない。どちらかというと不満がつのる。


 内心では「攻めてるの俺のはずなのに、志波姫のカウンターと対応速度が高すぎて、いつのまにか俺が対応しなくちゃいけない側にまわってんだけど。俺のターンなのに……」と理不尽さを感じていた。


 そんなことを思ってると、三度攻撃が飛んできた。はやくも3つ目の『第六感』を消費して避けさせられてしまい、最後には人を殺す勢いで頭を脳天から打ちおろされて赤谷は崩れ落ちた。


「うぎゃあああ、どうしてだよぉぉおお、いつになったら俺のターンくるんだよぉぉおぉ!」


(速攻で処理されて恥ずかしくないのか赤谷誠!? あんな息巻いといてこんなあっさり!?)


 赤谷は頭をおさえて悶絶する。

 高校最後の夏の大会が、一発目で終わったような切なさであった。


「赤谷君のターンなんて永遠にこないわ。さあ、赤谷君が学校に残ってる理由、話してもらうわよ」

「そんな約束してたか!?」

「道理を通すんでしょ? あなたが勝った時の報酬ばかり要求して、わたしが勝った時は無報酬だなんてそんな虫のいいこと言わないわよね」


 志波姫は晴れやかな顔で肩にかかった黒髪をはらい、赤谷を見下ろす。

 薄い笑みを浮かべているのは気のせいじゃないだろう。


(ぐぬぬ、おのれ、志波姫神華、はかったな!)


 赤谷の心中を屈辱がめぐる。

 

(なんだこのインチキちびは。勝ち誇った顔で見降ろしてきやがって。なかなか嬉しそうだな! やだやだ! 負けてたまるか。負けたくない負けたくない! やだやだやだ! 剣ではいま負けたけどそれで俺を判断してほしくない! 俺はもっとできるんだ!)


 往生際の悪い赤谷は、すぐさまレギュレーションを撤廃した無差別マッチを申し込んだ。

 木刀を投げ捨て、『筋力で飛ばす』突風を起こし、部室のガラスが粉砕しながら、志波姫を窓の外へ弾きとばす。

 志波姫はふっとばされるも、縁を手でつかんで身が投げ出されるのを防ぎ、窓の上方向へきえた。


 その表情は「そういう感じでくるなら別にいいけれど」という余裕があった。

 赤谷はポケットにつっこんであった『打撃異常手甲ストライクフィスト』をすかさず装着し、窓の外へおいかけた。


 窓から飛び出すなりうえを見やれば、垂直の黒壁をあがっていく志波姫の姿があった。

 右手に水流を渦巻かせ強力に圧縮しながら、『浮遊』を自身に付与し、足で訓練棟外壁に『くっつく』を発動。息をするように垂直の壁を地上とほとんど変わりない自由さでかけだした。走りながら左手は志波姫へ向けられており、その手は絶えず『かたくなる』で空気を固めており、『筋力で飛ばす』で撃ちだされる。スキルコンボ『見えざる弾』は視認性が悪く避けるのは困難に思えたが、志波姫は垂直の壁をのぼりながら身軽にかわす。


 赤谷は『筋力増強』を発動し、火力を底上げしつつ『見えざる弾』を放ち、撃ちながらもそのいくつかに『筋力でとどめる』を付与し、ディレイをかける。右手でチャージしていた『輝かしき粘水槍スティッキーハイドロジャベリン』が発動する。鋭く発射される槍。体育祭や人体実験につきあわされた経験から、その性質に気が付いている志波姫は、回避に徹する。


 赤谷はさらに訓練棟の外壁へ手を近づけ、その壁を『圧縮』で削り、球塊を生成しはじめた。


「これくらいバレないだろ」


 廃工場で培った簡易『防衛系統・衛星立方体ガーディアンシステム・サテライトキューブ』とし、あえて視認可能な弾幕を追加する。


(目に見える弾と目に見えない弾を混ぜる。志波姫の対応力は異常だ。組み立てないと攻撃を当てることはまず不可能)

(こざかしい技ばっかり。でも赤谷君らしい)

 

 固められた空気と目に見えるがゆえに意識を引くおとりの圧縮球塊、とどめる作用によって、赤谷が設置してディレイをかけて放たれる空気の球、喰らえば大幅に移動能力を制限してくる粘水槍、これらにはすべて『曲がる』を使うことで軌道修正をおこなうことが可能であり、たとえ避けたとしても『筋力で引きよせる』により、回避直後に死角からの攻撃すら可能になっている。


 厄介なのはすべての攻撃の火力が大ダメージを秘めていることだ。

 あの手この手で圧をかけ、赤谷は志波姫の思考力を奪い、そのなかで必然の被弾をうみだし、体力を削る。


(この質量、手数。すべてを避けきるのは不可能だと思うが……どうするんだ、志波姫)


 赤谷はだいぶ勝ちたがっていた。

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