1学期の終わり
英雄高校の黒々とした校舎は夏の青空のしたで威圧的に見えている。
黒い外観の近代学校建築は、最初は仰々しいと感じることが多かったが、いまはすっかり見慣れてしまった。
7月4日。英雄高校は朝から騒がしかった。
早起きに定評のあるこの赤谷誠が部屋の外の騒がしさを確認するくらいだ。
見やれば男子寮のものどもが、大きな荷物を手に部屋から出てくる。
まだ数は多くないが、たぶん昼にかけてどんどん増えていくのだろう、と推測できた。
帰省ラッシュだ。
英雄高校には全国から生徒が集まっている。
あるいは外国からやってきた生徒もおおい。
外国資本の教育機関であるためか、海外っぽさを強く感じつつ、ただ日本っぽい雰囲気をもる、実に和洋折衷なこの学校だが、夏休みに関しては欧米式のようだ。
夏休みの期間は実に2か月。たっぷり休めそうだ。
俺はポイントミッションを開いて、朝のうちにこなすことにした。
「さてと、今日のは……『金属製のヴィルトフィギュア』……仕方ない。ポイントミッションが作れっていってるなら仕方ない」
俺は午前中たっぷり時間を使ってヴィルトフィギュアを制作する。
胸部の丸みとおパンツには並々ならぬ情熱を注ぐ。一度、やってしまったせいか、恥ずかしさとか遠慮より作りたい衝動がまさった。クリエイター魂というやつだろうか。
完成したヴィルトフィギュアのパンツを存分に眺めたあと「これじゃあまるで変態だ」と我に返った。
あと少しで完成だ。色をつけるためフィギュア研究部をたずねた。
「やあ、赤谷少年。君はずいぶんこの部屋を気に入ったようだね」
「縛堂先輩は帰らないんですか」
「ん。そうかそういえばもう1学期が終わったのか。まあ帰っても帰らなくてもぼくのやることは変わらないからね」
自由人だとは思ってたけど、案の定って感じか。
「そういえば、君の親友の薬膳もあんまり帰る予定はないっていってたかな」
「親友じゃないです」
どうでもいい情報ありがとうございます。
俺はフィギュア研究部の塗料をつかって、以前教えてもらったように色を塗っていく。
ちょこちょこ縛堂先輩に手伝ってもらい、指導もいただく。こんなことに付き合ってくれる先輩がやさしい。この先輩は変なひとだが、悪い人ではない。
昼下がり。俺は最大の集中力でフィギュアを完成させた。
ずっしり重たいヴィルトは腰に手をあて何考えてるかわからない無表情でまえを見つめている。
「先輩チェックお願いします」
「おパンツ、えっち、合格」
「ありがとうございます」
師匠も認めた品質です。
「それにしても君も暇だね。みんな帰省ラッシュだというのに、1日かけて同級生女子のスカートのなかを作りこむなんて」
「誤解を生む言い方やめましょうよ。これは作りこみのうちに入らないです」
「そうかい?」
「なぜならこのフィギュアヴィルトのパンティは、本物の下着を確認して塗られてないからです」
「訂正しよう。君はもう後戻りできない変態くんだね」
自分の変態を棚にあげて、よく俺のことを言えたものだ。先輩らに比べれば俺なんて可愛いものだ。
「それじゃあ俺はこれで」
「じゃあね」
縛堂先輩とわかれ、ヴィルトフィギュアを大事に部屋にかざり、だらだらしたり、トレーニングにでかけたりした。
本日開放したのは『発展体力』『発展神秘』『発展精神』だ。ステータスは以下のように「変化した。
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【Status】
赤谷誠
レベル:0
体力 9,316 / 40,000
魔力 17,844 / 40,000
防御 30,000
筋力 100,000
技量 100,000
知力 10,000
抵抗 20,000
敏捷 20,000
神秘 20,000
精神 20,000
【Skill】
『スキルトーカー』
『発展体力』×4
『発展魔力』×4
『発展防御』×3
『完成筋力』
『完成技量』
『発展知力』
『発展抵抗』×2
『発展敏捷』×2
『発展神秘』×2
『発展精神』×2
『かたくなる』
『やわらかくなる』
『くっつく』
『筋力で飛ばす』
『筋力で引きよせる』
『筋力でとどめる』
『曲げる』
『第六感』×3
『瞬発力』×3
『筋力増強』×3
『圧縮』
『ペペロンチーノ』×2
『毒耐性』
『シェフ』
『ステップ』×2
『浮遊』
『触手』
『たくさんの触手』
『筋力で金属加工』
『手料理』
『放水』
『学習能力アップ』
『温める』×4
『転倒』
『足払い』
『拳撃』
『近接攻撃』
『剣撃』
『ハンバーグ』
『聖属性付与』
『闇属性付与』
『』
【Equipment】
『スキルツリー』
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食事は自分でペペロンチーノを作って食べる。
スキル『ペペロンチーノ』を2つにした効果があらわれており、祝福効果は増大し、美味さもその先にたどり着いていた。
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『最高級のペペロンチーノ』
最高の料理人による一皿
とてもおおきな祝福効果を持つ
【付与効果】
『攻撃力上昇 Ⅳ』
【上昇値】
体力 0 魔力 0
防御 0 筋力 0
技量 0 知力 0
抵抗 0 敏捷 0
神秘 0 精神 0
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黄金に輝くガーリックとオイルが絡んだ麺を頬張って、窓ガラスのない開放感のある窓辺に座って沈みゆく夕日を見ながら、キンキンに冷えた怪物エナジーをあおりのんだ。
「今日、喋ったのは縛堂先輩だけか……」
夕日を眺めながらそんなことを考えた。
学校があるときは志波姫と顔をあわせるたびに敵意で傷つけられ、ヴィルトに正直で傷つけられ、林道には暴言で傷つけられていた。
夏休みがはじまればそんなこともなくなるだろう。2か月は平穏がおとずれる。今日のその最初の1日目。
まるで英雄高校がやってくる前にもどったかのようだった。
最高な時間だ。誰にも邪魔されない。いいじゃないか。
「…………みんなもう帰ったかな」
なんとなく部屋をふらっと出てみた。
人の気配がすっかり薄くなった廊下。
男子寮をでる。建物の外にも人影はない。
俺はだれかを探すようにトボトボ歩き、第一訓練棟へもどってきた。
さっきまでポメラニアンを爆散させたり、訓練場でスキル鍛錬してたり、ボクシング部でジャブ漬けしたり、素振りしたりしてた。
今日は志波姫やヴィルトの姿を見てない。たぶん彼女らは帰ったんだろう。
ロビーで座りこむ。
ウェポンショップの電気はついていない。
バイトで店員やってる生徒が帰ったんだろう。
自販機の低い駆動音は鳴っている。それ以外の音はしない。すっかり人気がなくなった。
「普段なら剣聖クラブの時間か」
3階にあがって部室を目指した。
心のどこかで期待しながら。
スマホでコードキーを発行し、扉をあける。
ビッと空気が締め付けられるような緊張感が走った。
木刀が空を斬る。そのひと振りだけが静謐を破る権利をもっている。
黒袴姿の少女は瞳を閉じ、木刀をふりきった姿勢のまま動きを固めていた。
ゆったりした所作で木刀と身体の硬直を解除する。洗練された美しい一挙手一投足から目を離せなかった。
黒い瞳がそっと開かれ、ちらっとこちらを確認する。
「まだ学校にいたのね。はやく湖沼に帰りなさい」
「帰省予定のナマズじゃねえんだ」
俺はぼそっと言葉をかえす。
蔑まれてるのに喜びを感じるマゾヒストではないが、不思議とすこし安心した。
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