金属製のヴィルトフィギュア その1
薬膳先輩とわかれ、男子寮にもどり、ポイントミッションに挑む。
本日のミッションはやや難しい課題である。
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【本日のポイントミッション】
毎日コツコツ頑張ろう!
『金属製のヴィルトフィギュア』
ヴィルトフィギュアを作る 0/1
【継続日数】57日目
【コツコツランク】ゴールド
【ポイント倍率】3.0倍
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「『金属製のヴィルトフィギュア』……猫フィギュアから一気に難易度上昇しやがって」
このヴィルトが示しているのが、あのアイザイア・ヴィルトなら、その造形難易度は猫の比ではないだろう。
昼下がりの自室、静かな室内に作業用BGMにケルト音楽詰め合わせセットを流しながら、鋼材にむきあう。
俺がこれまで手掛けてきたさまざまな表情とポーズをもつ猫フィギュアたちが机のうえで見守ってくれている。俺はこれまで毎日のように『金属加工』の練習をしてきた。『筋力で金属加工』という素晴らしいツールを手に入れてからは、さらに加工精度は上昇した。
技量の数値があがるにつれて、さらにスキルコントロールは増した。また猫フィギュアという課題にまじめに取り組んでいるからか、球体や立方体、あるいは杭や円盤などの基礎的な成形や、ワイヤー状などのすこし手の込んだ成形も、一定の図形はもちろん、細かい成形もかなり素早く成形できるようになっている。
「いまの俺なら高難易度の課題もこなせるはずだ。それだけのものを用意してきた」
2時間の死闘の末、ついに完成したそれを掲げる。
何度も成形しなおした美少女の輪郭は、生命の息吹がやどっているようで、胸部の丸みにいたってはつくってるだけで楽しかった。
熱を宿さない瞳と表情は静かに正面を見据え、腰裏にまわした手とすこし前かがみなポーズはスマホでフィギュアの画像を参考につくった。けっこう可愛くできていると思う。
だれがどこから見ても完全で究極の美少女である。目にいれても痛くない。
しかし、問題点もあった。
英雄高校の制服は見慣れたものだが、身体の流線的な挙動にあわせて形をかえるのはむずかしい。
またネットで検索した画像を頼りにつくったのだが、角度的に判然としない部分があり、デザインが正しい自信がない。
「わりと雰囲気でごまかしてるが、まあいいか。妥協も必要だ」
スキルツリーを生やしてポイントミッションの達成を確認する。
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【本日のポイントミッション】
毎日コツコツ頑張ろう!
『金属製のヴィルトフィギュア』
ヴィルトフィギュアを作る 0/1
【継続日数】57日目
【コツコツランク】ゴールド
【ポイント倍率】3.0倍
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妥協は許されなかった。
ポイントミッションは細部の造形にうるさいタイプみたいだ。
仕方ない。こうなれば外部の協力を仰ぐほかない。
スマホを取りだし、ヴィルトに電話をかけようとし、ふと思いとどまった。
実物を見ながらつくれば完璧、だと思ったのだが……俺がヴィルトのフィギュアをつくっていると知られれば、どう思われるかを想像してしまった。
答えは言うまでもない。きもがられること請け合いです。
ただでさえ林道にキモイキモイ言われてるのに、ヴィルトにまで真顔で「赤谷ってキモイね」とか言われたら、普通に爆散して砕ける自信がある。
「だめだ、ヴィルトだけはだめだ」
それじゃあほかに制服姿を見せてくれるような女子はいるだろうか?
俺は沈思黙考のすえ、薬膳先輩に電話した。チチロリン♪ チチロリン♪ ──あっ、でた。
「どうした同志赤谷。俺といっしょに学校を平和にする準備ができたのか」
「いや、薬膳先輩みたいな変態といっしょにしないでほしいです。実はですね、同級生の女子の1/8フィギュアをつくっていまして」
「…………同級生の女子のフィギュア? まじか、ははは、とんでもねえ変態と同じ時代に生まれたものだな」
「戯言はいいんですよ」
「だいぶ戯言をいってるようだが……?」
「いいところまではできたんです。同級生の女子に協力をあおいで細部を詰めれば完璧なんです。でも、協力を仰げる女子友達が俺にはいません」
「たしかに赤谷の変態的な趣向につきあってくれる者などいないだろうな。それで頼れる俺になにか解決策がないか電話したと」
「いえ、先輩なら女子生徒の盗撮画像くらいもってると思って」
「持ってると思うのか?」
「流石にもってなかったですか」
「持ってる」
終わりだよ、この人。
「憎き雛鳥ウチカの写真だがな」
「もう好きじゃないですか」
「ヴァカめ。俺はやつの策略にハメられているといっただろう」
「写真送ってくださいよ」
「そんなことするか。足がつくだろうが」
「それじゃあ、ちょっと男子寮の1階にきてくれますか? お手数ですがお願いします」
「俺も暇じゃないんだがな!」
言って、電話を切った。
俺はフィギュアを布に包んで男子寮の1階に降りた。
薬膳先輩がすでにいた。絶対に暇だったと思う。
「どれ、見せてみろ。おぉ、なるほどこれはまたなかなか。いい出来なんじゃないか」
「そう思いますよね? 初めてにしてはめちゃくちゃ上手くできてると思いますよね?」
「初めてつくったのか? 初めてでこれ? とんでもない天才、いや、変態というべきか」
「素直に天才でいいんですよ」
「しかし、一流の変態といえども、細部はごまかして逃げているように思える。これでは真にいいフィギュアとはいえない」
やはりそこを見抜かれてしまうか。
「スカートの折れ目もぺったりしてる印象だ。なにより、むむ、信じられん!」
薬膳先輩はヴィルトをさかさまにして、スカートのなかをのぞくなり渋い顔をした。
「まさかスカートのなかを作ってないなんて。パンツくらい履かせてやれないものか?」
「流石にそこまでつくったら怒られそうな気がして」
「すでにこんなキモイ趣味をしてるのになにを言ってる」
それはそう。反論できない。しいていうなら趣味ではない。課題だ。
「フィギュア作りと言えば、俺の人脈にツテがある。そいつはフィギュアの達人といってもいい。俺もフィギュアに詳しくないが、お前には知識面が不足しているのは明らかだ。達人のもとでフィギュアについて学ぶべきだ」
達人……たしかに、独学で見よう見まねでやっていたが、学ばせてもらえるのならそれに越したことはない。
「薬膳先輩、その達人のところに連れていってくれますか?」
「よかろう。ついてこい」
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