Dレベル検定、Dレベル6認定 後編
Dレベル検定がはじまった。
ステージは志波姫たちと過去問でやった暗く湿ったダンジョンだ。
ライトドローンを1機解き放って、道を照らしながら進んだ。
「課題は迷宮型、暗所、洞窟、スタンダード、変異ダンジョン……か」
「出た! 育ちすぎたイクラだっ! 4匹もいるっ!」
「クハハ、赤谷、オレ様が教示してやろう。育ちすぎたイクラは1階層から6階層に出てくる物理攻撃に弱いモンスターだ。斬撃も刺突も1.2倍で通る。ただし、打撃属性に対してだけは0.8倍の高い耐性をもっているから──」
隣でごちゃごちゃ言ってる間に、俺はシステムを起動する。
「『
「おぉ……っ!」
福島が目をキラキラさせてくるなか、俺はトランクを開け放ち、9つの鉄球を起動状態に移行させ、すぐさま撃ちだした。
出てきたイクラは鉄球を喰らうなりはじけ飛び、ぱぁん! っと風船のように破裂して跡形もなくなる。
なお『重たい球』は方針の変更で常に『
それでも威力十分だ。一撃で沈んだ。
「体育祭の時より鉄球の数が増えているな……」
「まぁな。もっと増やす予定だ」
「そうか。クハハハ、どうやらオレ様もすこしは楽しめそうだな。『十
鳳凰院の背中あたりに異次元の扉が開き、そこから2枚の黒翼が出現する。
翼がはためくと、ダンジョンの壁も地面もがりがり傷つけながら、通路の直線上にいた、イクラ3匹がまとめて烈風に砕かれて散った。
「おっとすまない、オレ様はすこしムキになってしまったようだ。これでは勝負はあったようなものだな」
なるほど、やはり強力な能力者だ。
だが、この赤谷誠、負けてやるわけにはいかない。
「クハハハ、赤谷誠よ、おとなしく『
「おいおい、もう勝ち誇ってるのかよ。まだ勝負ははじまったばかりだ。あとそんな約束してないだろ」
「さあなにを言ってるか聞こえないなぁ!」
鳳凰院は翼をはためかせ、もうスピードでダンジョンを飛行しはじめた。
「あいつ! 暗いなかでも飛べるのか!」
「鳳凰院は『夜目』をもってるから……!」
ええい、身勝手なやつだ。
殲滅能力では鳳凰院の攻撃性能に軍配があがるかもしれない。機動力もある。
だが、俺だってそれくらいもってる。
「福島、気をつけろよ──『
「はにゃ?」
『筋力増強』×2+『ステップ』×2
福島とライトドローンを小脇にかかえて、大地を踏みぬき、俺はダンジョンを駆けだした。
風を破り、風となり、風を生みだし走りぬける。誰も俺をとめられない。
「あばばばばば!?」
福島をかかえたまま、鳳凰院においつき並走する。
鳳凰院はこちらに気づき、驚愕の表情をうかべた。
「このダッシュは、ギルド対抗リレーの時の……!」
「お前の飛行能力も大したことないな!」
「くっ!」
『
なにより福島の施してくれた『
俺が気持ちよく走っていると、目の前に壁が出現した。
勢いあまってそのまま突っ込んだ。あとから鳳凰院もつっこんできた。大クラッシュだ。
「ごへえ……速すぎた……」
「く、首がぁあ……! ネバネバマンに、殺される……!」
「オレ様も、速すぎた、ようだ、コーナリングに、難あり、か……ぐはぁっ」
ギリギリブレーキをかけていた鳳凰院は、ちょっとはやく復帰して、再び飛びだし、イクラたちを倒しはじめた。
互いにコーナリング性能は低いが、速さで優る分、俺のほうがクラッシュのダメージがえぐい。
「だが、負けてたまるか」
俺はぐてーんとした福島をかかえて、復帰し、ダンジョンを駆けだした。
走りながら鉄球を放つ俺と、飛びながら一度とまって風を翼で放つ鳳凰院。
鳳凰院のほうは黒い烈風をはなつのに、翼を使うらしく、一度立ち止まってからじゃないと攻撃ができないらしかった。
彼は優れた能力者だが、足で移動しながら鉄球を放てる俺のほうが、イクラ発見から討伐までがスムーズだった。
俺と鳳凰院はすこし速度を落とし、疑似ダンジョンを右へ左へコーナリング決めながら駆け、イクラたちを駆逐し、ついにレバーを発見する。
「そこだ」
前方20mの距離にレバーを見つけたタイミングで俺は鉄球を放ち、レバーを弾き倒した。
そこで俺たちの戦いは終わった。
「くっ……!」
鳳凰院は拳を握り、歯噛みしていた。
疑似ダンジョンが解除され、俺たちは控え室にもどる。
控え室に戻るとオズモンド先生が待っていた。
タブレットを見ながら、俺と鳳凰院を順番に指さす。
「ふたりはDレベル6の認定。福島はDレベル3認定だな。もっとまともなやつらとパーティを組んで挑めばDレベル4もいけそうな雰囲気だ」
「ちょっとオズモンド先生、俺がまともじゃないみたいに言われるのが心外ですが?」
「いまの検定は十分まともじゃなかったように思えるが」
「そんなことより、討伐数はどうなったのか、教えてもらえるか」
鳳凰院はすこし拗ねた風に催促する。
「赤谷が51体の、鳳凰院が17体だ」
「どうやらこの勝負、俺の勝ちのようだ」
「くっ、またしても敗北を味あわされることになるとは……ミスターアイアンボール、これで終わったと思うなよ?」
「もう挑んでくるなよ……」
「それはできない相談だな。……それより福島は大丈夫なのか? さっきからぐてーんとしているが」
福島をそっとおろしてやる。
床に手をついて青ざめた顔で睨みつけてくる。いまにも吐きそうだ。
「いや、ごめん」
「赤谷、誠、ゆる、さない……ぐへっ」
鳳凰院は「保健室につれていってくる」と、福島をつれて、そのままいってしまった。
またいらねえ恨みをかってしまったな……これ復讐とかされるのか?
オズモンド先生は俺の肩に手をおいてポンポンッと叩いてきた。
「よかったじゃないか。友達が増えたな」
「復讐者の間違いでは」
「そんなことより驚いたな。1年生1学期の時点でDレベル6の検定を遊んでクリアできるとは」
「あぁそういえばDレベル6を受験したんでしたっけ。あと遊んではないですよ」
「まったく。驚かされるよ。トラブルマグロとしてでなく、実力者という意味でも君はすでに特別であることを証明してしまった」
先生の話によると1年生1学期の時点でDレベル6の検定に受かる生徒は、年に1名いるかいないかのレベルだという。
「今年は本当に豊作だよ、HAHAHA」
オズモンド先生はあごをなでながら愉快そうにそうつぶやいた。
豊作のひとりに数えられていることは、わりと嬉しいことだった。
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