Dレベル検定、Dレベル6認定 前編

「しゃー!」

「福島、落ち着け、今日に限ってミスターアイアンボールは敵じゃあない」

「でも、こいつは!」

「ミスターアイアンボール、すこし時間をもらうぞ」

「別にいいけど」


 鳳凰院は福島といっしょに少しはなれて、こちらに背を向ける。秘密の会話か。


「鳳凰院、この男は例のネバネバマンではないかっ!」


 えー、聞こえます。


「あぁそうだ。我々を打倒した叛逆者。オレ様がこの学校で認めている数少ない人間のひとりだ」

「こんなネバネバマンを信用できるかいっ!」

「クハハハ、あぁ信用などできないとも。しかし、ミスターアイアンボールは賭けた。この勝負に負ければ、オレ様の右腕として卒業まで務めあげるとな」

「おぉ! それじゃあ、『闇夜の騎士団ダークナイツ』の第三の男としてこき使えるということっ!」

「そういうことだとも、福島」


 顔をつきあわせて密談を終えた福島と鳳凰院がくるっとこちらへ向き直ってくる。もちろん全部聞こえてます。


「こほん。くっくっく、いいだろう、ネバネバマン、今回ばかりは共同戦線を張ってやろう」


 福島はきりっと得意げな顔をして薄い胸をはった。


「これはいわば入団試験のようなもの。くっくっく、第三の男、いや、『第三の男ザ・サード』、その力試させてもらおうっ!」


 眼帯をしている目元を手でおさえ、不敵に笑みながら彼女は言った。

 なんか『闇夜の騎士団ダークナイツ』とかいう絶対に入りたくない組織No1に加入させられそうになっている。

 鳳凰院に負ければ面倒くさいことになりそうだ。この戦い、負けるわけにはいかない。


「討伐数で勝負するんだったか」

「そのとおり、福島はサポートの超新星。こいつは中立的に討伐数をカウントする」

「くっくっく、任せるがいいっ!」

「任せられるか。どこも中立じゃねえだろ」


 こんな変な女にまともにカウントを取らせるわけにはいかない。

 

 俺はオズモンド先生を見つけて交渉し、カウントを任せることにした。


「討伐数で競うとな。あんまり推奨される行動ではないがね。探索者はチームで挑むものだ。単独で戦うんじゃないからね」

「まあそれはたしかに……」


 普通に正論でかえされた。


「しかし、まあ突出した力をもっている探索者はソロで偉業を成し遂げることもある。実力以下の試練に挑む時は、個人の力を押し付けるような戦いかたのほうが理にかなっていることもある。君たちなら、まあ、問題はないだろう」


 オズモンド先生は俺と鳳凰院を交互に見て、うんうんっとうなづく。

 実力を認められているのは地味にうれしい。


「君たちが受けるのは……1年生の最初のセメスターで受けられる最高レベル、Dレベル6の検定かね?」

「そうですね」

「すこし手ごわいかもしれないぞ。6階層を想定した課題だからね」

「大丈夫だと思います。6階層のモンスターならたぶん。ちなみにDレベル6の検定受けてるのはどこのパーティなんです」

「志波姫とヴィルト、あと八神のところくらいじゃないかな。まだ全員受験し終わってないから、このあと受けそうなパーティもちらほらいるが」


 待合室にはまだ1年生たちがたくさんいる。

 第二訓練棟の複数のダンジョンで、同時に受験は進行しており、みんな自分たちの受験の順番を待っているのだ。


 ようやく俺たちの番がやってきた。

 Dレベル6の待合室にはほかの生徒たちの姿はまったくなく、疑似ダンジョンから出てきた志波姫たちとすれ違うだけだった。

 ヴィルトと視線があう。


「合格、したか?」

「うん」

「そうか」


 会話は一瞬で終わった。

 あまりにも当然の返事だったし、予想もできた返事。


 ヴィルトの横、スンッとしてる志波姫と、もうひとりの八神とかいう男子を見やる。

 このふたり、雰囲気が似ている、というか、なんか……。


「なにか用か」


 八神はちらっと視線を向けてくる。


「いや、別になんでもない、ごめん」


 反射的に返事してしまう。

 イケメン相手には本能的に負けを認めてしまう己の情けなさが恨めしい。


「制限時間2時間以内にレバーを倒してくださいね。攻略能力は討伐数や、討伐時間、罠を回避した回数、宝箱を見つけて開けた回数など複数の項目でつけられます。では、がんばってくださいね」


 控室前にいた見慣れない先生にうながされ、俺たちは疑似ダンジョンのなかへ。


「ちょっと待ってて」


 ダンジョンにはいった直後、福島はそういい、手をこちらへかざす。


「暗黒の使徒よ、わが呼び声に応じて、古き契約を遂行せよ──」


 肘当たりから拭うように煙状の闇をまとめてこちらへ投げつけてくる。

 闇は俺と鳳凰院それぞれの身体にまとわりついた。重さも触感も感じない。


「なんだよこれ。まとわりついて離れないんだが」

「くっくっく、それこそ私の魔導の力の一部。名を『黒夜を纏うブラックカーディガン』」

「福島の闇は対象者を一定量のダメージから守るシールドを付与できるのだ」


 鳳凰院が通訳してくれる。


「そしてこれっ!」


 福島は今度は逆の手から闇をぬぐって、再び俺と鳳凰院にまとわせた。

 闇は足元にふわふわ滞留する。不思議と身体が軽くなった気がした。


「今度のは?」

「くっくっく、これは暗黒の使徒と契約をかわした私だけに許された禁忌の魔導……名を『黒夜を駆けるブラックスプリント』っ!」

「これは暗所での移動速度を上昇させるスキルだ。明るいところでもさきに『黒夜を纏うブラックカーディガン』を付与することで、暗い所扱いになって速度をあげることができる」


 翻訳ないと福島とは喋れないかもしれないな。

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