パーティを組むのが下手な男

 保健室で『白衣の天使』島江永先生に治療してもらった。


「ダメだよ、まったく。連日、似たような傷で保健室にきて。これ志波姫さんがやってるんでしょ」

「挑戦を受けてくるから理解させているだけです」


 はい、どうも赤谷誠です、理解させられました。


「まあ力を行使したくなる気持ちは十分にわかる。この学校のみんなは天に選ばれた祝福者だからね。それに思春期まっただなかの少年少女。みんな自分だけの特別な力をつかっていろいろしたくなるものだ。……でも、大きな力にともなう大きな責任があることを忘れちゃいけないよ」

 

 大いなる力には大いなる責任がともなう、か。


「朝っぱらの教室棟前なんてだめだよ。もっと見えないところでやりなさい!」


 いや、そういう問題かい。


「治療ありがとうございました」


 5分ほどの治療行為ののち、保健室をあとにする。

 ちなみに志波姫は俺を運搬したのち、さっさと登校したので隣にはいない。

 

「これは遅刻だな」


 この時間の感じだと。朝のホームルーム終わりに俺は教室にたどりつくことになるだろう。

 急げばホームルーム中に間に合っただろうが、途中で教室にはいるのは俺のポリシーに反している。

 ので教室棟1階の自販機前のスペースで怪物エナジーを呑みながら時間をつぶしているのだ。


「朝から流血沙汰なんて志波姫のやつ容赦がない。いやでも、貫くと同時に瞬間冷凍してるから血は全部凍って流れてない……これは流血沙汰じゃない?」


 俺はまだ痛む手のひらを怪物エナジーで冷やす。

 

「志波姫にはまだ届かなそうだな……はぁすっかり自信なくなっちまった」

「クハハハ、こんなところで会うとは奇遇だな、ミスターアイアンボール」


 俺だけの自販機前空間にやかましい乱入者がはいってきた。

 見やれば灰色の髪の二枚目の男子が不敵な笑みをうかべてこちらを見ていた。


「────いや、それとも代表者競技を制した者、とでも呼べばいいかな? あるいは天に近づきし者」


 朝から絡むにはカロリーの高すぎるやつがきたな……。


鳳凰院ほうおういん、だっけ? もう朝のホームルームは始まっていると思うが」

「ホームルームなどオレ様には些事よ。いまここでお前と邂逅したことにこそ意味がある」

「そうか。んじゃ俺はそろそろいくわ」


 さっさと立ち上がり退散する。もう教室いくか。


「待て、赤谷誠。ここで会ったのもなにかの縁だ。お前もまた孤高の道を歩むもの。どうだ。今日のDレベル検定、オレ様と勝負をしないか」

「勝負だと?」

「そうだ。本来なら如月坂とパーティを組もうと思ったが、気が変わった。運命の風を感じる。こんなシナリオはどうだ。1年生段階での最終成長目標Dレベル6の認定を受けること。今日、1年生の受けられる最高難易度の検定で、オレ様とお前で課題に挑む。そこで雌雄を決する。討伐数でな」

「その勝負に負けたらどうなるんだ」

「敗者には屈辱しかない」

「それじゃあ勝ったらなにがもらえるんだ」

「お前に『漆黒』の二つ名をくれてやる」


 いらねえ、てか、どっちかっていうと勝ったほうが罰ゲームじゃねえか。


「あいにくと俺はもうパーティが決まってるんだ。ほかをあたってくれ」

「そうか。それは残念だ」


 ──翌朝


 今日は期末テストの実質的な2日目。

 ただし座学の試験はすべてが終わっている。

 行われるのは今朝、鳳凰院もいっていたDレベル検定だ。

 

 この2週間くらいたびたび第二訓練棟で過去門に挑んできた。

 準備は十全である。

 

 しかし、ひとつ困ったことがおきてる。

 

「ごめん、赤谷、実は真紀と彩夏とパーティ組んでるんだ!」


 第二訓練棟に集合した1年生たちのなか、俺は探し出した林道にパーティを断られていた。

 

「いや、ダメなら別にいいんだ」

「赤谷、ほかに知り合いいるの?」

「舐めるなって、パーティくらいすぐ見つかる」


 Dレベル検定はさまざまな受験方法があるが、今回のところは3名のパーティを組むことになっている。

 

「悪いわね、赤谷くんの席はないわ」


 志波姫という絶対ボッチをたずねたところ、ヴィルトと高身長イケメンで3名のパーティを組んでいた。

 

「私が志波姫に誘われたんだ。そしたら八神もいた」

「八神……?」


 ヴィルトがぼそっとこぼした名前に、俺は高身長イケメンのほうを見やる。

 黙したまま俺と彼──八神は視線を交差させる。


「そういえば赤谷くんのことを探してる男がいたけれど」

「俺のことを?」

「ええ。パーティを組めずにかわいそうなことになってるあなたにとって最後の希望だと思うわ。ちょうどあそこにいるけれど」


 志波姫の視線の先、鳳凰院ツバサの姿を見つける。

 運命は収束するとでもいうのか。

 俺は奇妙な力を感じながら、ほかにあまっている生徒がいなそうなことを確認し、非常に不本意ながら鳳凰院に話しかけた。


「これがシナリオの解答か。オレ様たちの道は交錯するようになっているらしい」

「あっ、体育祭のネバネバ男……」


 鳳凰院の隣、黒髪に赤いメッシュの女子が敵意をあらわして睨んでくる。

 こいつはたしか騎馬戦の時、”闇”を使ってかく乱してきた女子だったか。ピアスしたり眼帯してたりでわりと痛い恰好してるので覚えている。


「福島、落ち着くのだ、俺たちは今回のところは仲間ということになる」

「しゃー……っ! ネバネバ男しゃーっ!」


 福島凛に威嚇される。

 変なやつらといっしょにDレベル検定に挑むことになっちまった。

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