期末テスト
期末テストそれは以前の俺にとってはなんでもなかったイベント。
ただ過ぎ去る時間の目安でしかなく、ちょっと嫌だなくらいにしか感じていなかったもの。
今の俺は違う。高校デビューを果たし、優等生として生まれ変わった。1年生の入学式からまじめに取り組んできた。探索者として自分が雑魚ということが判明し、才能皆無だったから勉強に打ち込んだという経緯もある。
俺は本気になればやれるんだ。
そう思っていた。でも、そうじゃなかった。
中間テストでは無様な姿をさらした。
みじめな気分だった。
でも、いまの俺は違う。
何の才能もないことは認めよう。
だが、俺には一握の幸運があった。
スキルツリーを宿したことだ。
不運なことばかりの俺の人生でこれだけは間違いなく俺に与えられたチャンスだと確信できる。
今日にいたるまで俺は必死に毎日のようにスキルツリーを育て、鍛錬をしてきた。
勉学においてもだ。勉強というのは一度おいていかれると死ぬほどやる気がなくなる。
そのことを知っている俺は、少し遅れたら先頭に追い付けるように修正し、少し遅れたら修正し毎日のように、自分が最新の進行度に追い付いている自信をつちかってきた。
習慣が人をつくる。
俺はすでにアリストテレスの弟子といっても過言ではない。
『学習能力アップ』、知力10,000、この俺に死角はない。
「諸君、ついにこの日がきた。期末試験、長い一日になるが、頑張って乗り越えよう!」
オズモンド先生は言って、腕時計を眺める。
生徒たちはノートPC、あるいはタブレット端末でスカラーパスポートのページを開いて待機。
スカラーパスポートは生徒の出席状況や授業の連絡、課題提出、成績管理などを一括におこなっている英雄高校のサイトだ。
中間テストや期末テストなどの定期考査もここで受けられる。
しばらくの沈黙のあと、オズモンド先生の「It’s showtime!」という陽気な声が響いた。
俺はその合図を受けて、ノートPC画面の『問題スタート』をダブルクリックした。
──翌朝
もうすっかり夏だ。
6時前だというのに窓の外が明るい。
エアコンの効いた部屋で砂糖とミルクがたっぷりはいったコーヒーを片手に、PCの画面を眺める。
カチカチ、カチカチ
6時を過ぎたと同時に、テスト結果が学園アプリを通して返却される。
そこには順位も記載されている。
学年順位確認。19位。
「……やった」
俺は目元を手で覆い、こみあげる笑いをこらえる。
19位。この数字が意味することがわかるだろうか。
俺は学園において19番目に優れた頭脳をもつ生命体ということだ。
いや、生物として賢いかはともかく、紛れもなく、俺は勉強ができるほうの人間になったといえる。それもちょっと勉強ができるではない。めっちゃ勉強ができるほうの人間と言っても過言ではない。
「それも、173人中の19位ではないか」
この前まで180人くらいいた気がしたが……まあ何人か辞めることもあるか。
「国語と地理と政治の配点が高いな。俺のなかの文学的思考が強化されたとみえる。だが、まだ19位、か。ワンチャン、学年1位の座を手に入れたかと思ったが、思ったよりみんなちゃんと勉強してるんだな。腹立たしいな、勉強しすぎだろ、もっと青春してろよ、こっちはこんなに頑張ってるのに……」
19位ではまだ志波姫神華にマウントをとることはできないだろう。
どうせあの超人のことだ。今回も1位の座を防衛しているに違いない。
「やつに俺の頭脳の発達をつたえるのは、俺が1位になってからだな」
画面の19位という数字を2時間ほど眺めて、ニヤニヤしたり小躍りしていたら登校時間になった。
いけない。準備をしなければ。
シャワーを浴びながらスキルツリーを生やす。
ちなみに昨日は『応用抵抗』×3で取得しておいた。
実験により魔法抵抗力を高める効果を体感できたので、迷うことはなかった。
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【Status】
赤谷誠
レベル:0
体力 20,000 / 20,000
魔力 40,000 / 40,000
防御 20,000
筋力 40,000
技量 40,000
知力 10,000
抵抗 10,000
敏捷 10,000
神秘 2,000
精神 3,000
【Skill】
『スキルトーカー』
『発展体力』×2
『発展魔力』×4
『発展防御』×2
『発展筋力』×4
『発展技量』×4
『発展知力』
『発展抵抗』
『発展敏捷』
『応用神秘』×2
『応用精神』×3
『かたくなる』
『やわらかくなる』
『くっつく』
『筋力で飛ばす』
『筋力で引きよせる』
『とどめる』
『曲げる』
『第六感』×3
『瞬発力』×3
『筋力増強』×3
『圧縮』
『ペペロンチーノ』
『毒耐性』
『シェフ』
『ステップ』×2
『浮遊』
『触手』
『たくさんの触手』
『筋力で金属加工』
『手料理』
『放水』
『学習能力アップ』
『温める』×4
『転倒』
『足払い』
『拳撃』
『近接攻撃』
『剣撃』
『ハンバーグ』
『聖属性付与』
『闇属性付与』
『』
【Equipment】
『スキルツリー』
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抵抗ステータスも10,000まで成長した。
魔法系スキルを恐れることはもうない。
19位という輝かしい成績と充実した基礎ステータス。
世界が変わったような気さえする。
「よお、志波姫、いい天気だな」
教室棟のまえでたまたま志波姫を見つけたので声をかけた。
普段なら声をかけることなど絶対にしないが、今日の俺はちょーご機嫌だ。
周囲の生徒が「志波姫にあんな舐めた感じで話しかけたぞ……」「赤谷誠、命知らずなのか……?」とざわめいているが、なんのことはない。俺はちょーご機嫌だから。
「なんだか面倒くさそうな雰囲気をまとっているわね、赤谷くん」
「そうでもないだろう。それより志波姫、今日も刺してくれよ。おっと、ここで忠告だ。お前も攻撃はもう俺には効かないかもしれない。でも、落ち込むなよ~? お前が弱いんじゃない。俺が強くなっちまってことだからな」
「はぁ、今朝はいつにもましてウザいわね……そんな酔っぱらったみたいな状態で、こんな朝っぱらから絡んでこないでほしいのだけれど」
志波姫はちいさくため息をつき、手元に氷の短剣をつくりだし、俺の手のひら向けて軽く突き出してきた。
切っ先は俺の手のひらに刺さり静止した。
「ん」
志波姫は眉をひくっとさせる。
当然だろう。昨日までは俺の手を貫通して、そのまま保健室送りにしていたのだから。
「志波姫、今日の俺は昨日よりも強いんだ」
「ふむ。すこし硬くなったのかしら。──ふんっ!」
ぐいっと刃先が押し込まれ、氷刃は俺の手を破って貫通する。
凍てつく霜が手首まで飲みこんで、焼けつく痛みが神経を串刺し、手のひらの感覚が一瞬で失われた。
「ひぅうぎゃああ────!? ヴぁかなぁあ!?」
「なんだ無効化してるわけじゃないのね」
俺の悲鳴と、野次馬たちの悲鳴があがるなか、俺は志波姫におんぶされ、朝から保健室にいくはめになった。
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