Dレベル検定 1
剣聖クラブが終わり、部室をあとにする。
「それじゃあいこう、赤谷」
「あぁ、待たせて悪かったな」
「気にしてないよ、映画見て時間潰してたから」
イヤホンしてスマホの画面をずっと眺めてたが、あれは映画を見ていたのか。
「ヴィルトさんと赤谷、どっかいくの?」
林道は目をぱちくりさせて意外そうにたずねてきた。
「第二訓練棟。アプリで権限を更新してはいれるようになったんだよ」
「ヴィルトが案内してくれるらしいんだ」
「そうなんだ」
「琴音も一緒にくる?」
「いいの?」
「大丈夫だと思う。赤谷がよければ」
「赤谷、一緒にいっていい?」
「断る理由はねぇかな」
「赤谷はいいって言ってるよ、琴音」
わざわざ翻訳しなくても伝わると思うが。
「やった! それじゃあ一緒に……あっ、志波姫さん」
部室にロックをかけて去ろうとする志波姫の背中に林道が声をかけると、ちいさな後姿が足をとめ、こちらへふりかえる。
「第二訓練棟、ヴィルトさんが案内してくれるから私も一緒にいこうと思って! 志波姫さんも一緒にどうかな……?」
林道は自信なさげにたずねる。
志波姫は俺とヴィルトのほうをチラッと見てくる。
「別に構わないわ。第二訓練棟にはDレベル検定を受けにいくつもりだったし」
「そっか! よかったあ!」
林道は嬉しそうに志波姫のそばにより、その手を握った。志波姫は顔を背け、身をのけぞらせ、見るからに鬱陶しそうにしてみせた。うーん。悪くないですねこの絵面。赤谷思います、もっとくっついてもいいと。
「それじゃあ行こう」
ヴィルトに導かれ、第二訓練棟にやってきた。
外観からしてすでにただの訓練棟とはおおきさが違う。
それと出入りしている生徒も上級生が多いように感じる。
「2年生、3年生がおおいように感じるな」
「第二訓練棟は新しい訓練棟なんだよ。こっちの疑似ダンジョンは古いほうの訓練棟よりも深い階層を再現できるようになってて、モンスターの種類とか迷宮の構造も選べるんだとか」
「こっちの訓練棟のほうが便利そうね」
「でも、こっちの建物は疑似ダンジョンに力をいれてるみたいで、そのほかの訓練設備はないんだよ」
疑似ダンジョンを増設する目的でつくられたのが第二訓練棟ということだろう。
トレーニングルームや訓練場、ウェポンショップなどの設備関しては、豪華なものがすでに訓練棟のほうにあった。技術と需要の進化によって、より高度な設備をそなえた疑似ダンジョンが要求されるようになったと。
しかし、豊富な種類があるというが、疑似ダンジョンを何個も作ることなんてできるんだろうか。
「Dレベル検定の過去問はアプリで予約をする必要があるようね」
志波姫はスマホを見ながらつぶやく。
「予約ならもういれてある」
ヴィルトは自分のスマホをかかげてぼそっと言う。
「さっき4人分で予約をしておいたんだ」
「手際がいいのね。でも、どうして4人分も?」
「みんな誘っていくことになるかなって思った」
「ヴィルトは優しいな。どこかの誰かと違って人の心を感じる。なあ志波姫」
「濁すくらいならこちらを見ながら言うのやめてくれるかしら。あなただってたいがい人の心を失っているでしょうに。人間のふりはやめさない、ナマ谷君」
ナマ谷君。ちょっと卑猥な響きに感じてしまうのは気のせいでしょうか。
俺は相変わらず傷を受けながら、Dレベル検定を受けるため、待合室にやってきた。
大きなガラス張りの向こう側に広々とした体育館のような施設が見えている。待合室とは言ってるが、実際は観戦席のような場所だ。
「そもそもの話なんだが、Dレベル検定がなんなのか俺よくわかってないんだが」
「Dレベル検定はダンジョンレベル、つまり探索者の攻略能力を数値にしたものよ。探索者はお世辞にも安定した人材とは言えない。それぞれが特殊な技能を修めていて、異なった戦術を身に着けている。ひとりでは無力でも、それぞれ違う役割をもった2名がコンビを組めば強力に輝くこともある。デコボコの特殊技能集団たちの能力を、わかりやすく視覚化するのがDレベルなのよ」
つまるところ『それってダンジョンで役に立つの?』というひとつの質問に『はい』か『いいえ』の解答を作らせるのがDレベル検定ってことかな。
俺たち探索者は結局のところ、モンスターを倒せて、ダンジョンで迷わず、途中でスタミナ切れせず、無事に帰ってくる。そこを目標に、自分のもってる技術やスキルを調整することが重要なんだ。
「いまから受けるDレベル検定はDレベル2の認定で、去年の1年生1学期期末に出された過去問だよ」
ヴィルトはガラス張りの向こう側を見やる。つられて視線を向けると、異様な光景を目にした。
体育館のように広々とした空間が波打つ湖面のごとく脈動し、体育館内に建物を形成していくのだ。
「な、なな、なんだ……!?」
「異空間化したんだよ。読み込んだ設定にそってダンジョンとモンスターを生成し、質量が狂い、因果の法則を外れた」
「ヴィルト、お前詳しいな」
「まあね」
ヴィルトは無表情ながら、腰に手をあて、ちょっと自慢げにしてみせた。鼻高々といった感じだ。
「それじゃあいこう。今回はこの4人でパーティってことで。検定クリアできるといいね」
「うわ……私だけ圧倒的に力不足な感じが……っ」
「大丈夫よ、林道さんと赤谷君の分はわたしが補うわ」
「俺まで使えない判定するんじゃねえ。クソ雑魚は林道だけだ。俺は活躍できる」
「言い方ひどすぎなんだけどっ!?」
待合室から階段をくだると、扉があった。
押し開けると、むわっとした湿度が顔をたたいた。
そこは先ほどまでの体育館ではなく、暗く濡れた洞窟がひろがった。
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