第二訓練棟オープン
『』こと白紙に秘められた潜在的な力はとてもおおきなものに思える。
「『』は一度スキルを宿したら、もう白紙には戻らないようだな」
スキル『聖属性付与』に変化した『』はそれ以上の変化を見せることはなかった。
スキルトーカーでのスキルコピーは一時的なものだ。かつてチェインや扉間ひぐれたちのスキルをコピーし、やつらに抵抗したことがあったが、彼らのスキルは俺が気絶して次に目覚めたときには、すでに俺のなかから消失していた。消失の条件は具体的には不明だが、もともとのスキルの持ち主から一定距離離れるか、一定時間経過で失効するか、ここら辺が制約としては濃厚である。
この白紙のスキルと『スキルトーカー』があれば、一度記録し、スキルを失効せず、そのまま俺の所持スキルにすることができる。
「神の力だ……」
惜しむべきはこのスキルコンボが次に『』を獲得するまで使えないことだろうか。
「いろいろできることが増えそうだな」
俺はさっそく寮を飛びだし、訓練棟訓練場へと駆けこんだ。
「聖属性付与」
手甲を『
林道がたびたび得物に光を纏わせているのを見たことがあったが、それと似ている。「斬撃! ライトエンチャント!」とか叫んでた気がする。
俺はいくつか検証を行って『聖属性付与』の性質について理解を深める。
まずは手に持っているものしかエンチャントできないこと。スキルコントールの向上次第では飛び道具にも付与できそうな感じはなくもない。
効果時間は気にしなくていい程度には長い。素手に直接付与することもできるみたいだ。そのかわりそのままにしておくと低温やけどしそうなくらいには手が熱くなる。
「聖なる光よ、怪物どもを覆滅する力よ……。よし、こんな感じでいこう」
ちゃんと詠唱の練習もしてっと。
疑似ダンジョンにいってみよう。
「ほらー、ポメちゃんおいでー」
「ポメ~!」
「よーしよし、いい子でちゅね~──はっ、学ばない畜生めがッ! おらッ、デュクシッ!」
疑似ダンジョンでポメラニアンを斬って検証してみた。
そのままの状態と『聖属性付与』状態で何回かやって比べたところ、まあ、特に違いがわからなかった。
というのも、みんな一刀両断したのち、光の粒子になってしまうからだ。つまり一撃なのである。
「10階層クラスのポメでも楽勝になってきたな」
前々から俺の火力では一撃必殺が続いていた。
俺にとっての問題は束になってかかってこられた時や、素早さで翻弄されるかしこポメラニアンが現れた時くらいだった。
「体育祭でもっとデカいポメを一撃だったし、当然ではあるか……11階層に降りてみよっと」
というわけで、11階層の設定でポメラニアンと接敵。
そしてポメをしばいた。結果は同じだった。
「結局、火力こそ正義ってことなんだよね」
すべてを一撃で屠る力を磨き続けて正解だった。
正直、10階層と11階層のポメラニアンにそこまで強さの差を感じなかった。
最近はスキル開発と鍛錬に時間をつかっていたが、俺も以前よりは強くなっただろうし、もっと疑似ダンジョンのほうを潜ってみてもいいかもしれないな。
翌朝。
いつもと変わらない日々。
素振りの筋肉痛を負いながら、教室にきて、ヴィルトに「おはよう」と言われて「おう」と応じる。
「赤谷、昨日も腕痛そうにしてなかった」
「まあな。新しい修行をはじめてな。悪魔との取引なんだ」
「悪魔との取引……なんだかすごそう」
「すごいぞ。なにせ本場の剣術修行をはじめたんだからな」
「本場」
オズモンド先生が入ってきた。
元気に挨拶をし、いつもと同じように連絡事項にはいっていく。
「期末試験までおよそあと10日ほどしかない。みんな準備はできているかな? 毎年のことなんだが、この時期より1年生にも新しい施設が解放される。Dレベル検定の模擬試験のための、第二訓練棟だ。検定過去問以外にも、こっちの疑似ダンジョンのほうが新しいし、いろいろできることは多い。楽しみにしてた生徒も多いかな? 各自、学生証の権限アップグレードを忘れないようにするんだぞ」
朝のホームルームが終わり、俺は隣のヴィルトを見やる。
「Dレベル検定……聞きなれない言葉がでてきたな」
「私は聞いたことあるよ」
「……」
「……」
会話がそこで終わる。人のことを言えた義理じゃないが、あんまりうまく意味が伝わらなかったみたいだ。
「……。あぁえっと、Dレベル検定ってなんだっけ」
「期末試験のやつだよ。ほら、マークシート埋めるだけじゃない、モンスターと戦う試験があるって先生言ってたやつ」
言われてみればそんなことを以前どこかで言っていたような気が……いや、あんまり記憶にないな。俺の脳みそのバージョンアップいつだろ。
「新しい施設か」
英雄高校には謎の施設がたくさんある。俺はそういった施設の入り口で学生証をかざして入ろうとしたことがたびたびあるが、電子ロックが解除されることはなかった。
それもそのはず。この学校では段階が進むごとに、生徒たちの学生証には権限が解放されていき、利用可能な施設が増えていくシステムなのだ。
つまり、新入生と上級生では、学生証で入れる・利用できる施設の数が違うのである。
「第二訓練棟、赤谷はいくよね」
「解放されたんならな」
「だよね。赤谷は訓練棟大好きだもんね」
ヴィルトは納得顔でうなづいている。こいつもだいぶ好きだろうけどな。いつも訓練棟いるし。
「第二訓練棟、案内が必要だとおもう」
「ヴィルトが案内できるのか?」
「うん、できるよ」
放課後、ヴィルトに新施設を案内してもらえることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます