剣聖クラブ、もっといけ

 翌朝、目覚めとともにスキルツリーを生やす。

 すっかり裂け慣れた腕の傷がぱかーっと開いて、元気なスキルツリーがにょきっと枝先だけ顔をのぞかせる。


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【本日のポイントミッション】

  毎日コツコツ頑張ろう!

  『1人前のハンバーグ』


 ハンバーグでうならせる 0/1


【継続日数】44日目

【コツコツランク】ゴールド

【ポイント倍率】3.0倍

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 さっそくやってきたな、『1人前のハンバーグ』。

 林道にご馳走してや……いや、待てよ、これは別に自分でハンバーグすればいいだけだな。


「なら、わざわざ誘うこともないか。俺からいったら、俺があいつにハンバーグ食べさせたがってるみたいだしな」


 まあ声をかけられ、わざわざ求められるようなことがあれば、料理を振舞うこともやぶさかではないが。


「朝からハンバーグは無理だな」


 とりあえず本日のポイントミッションはあとまわしにしておこう。

 今日からすこしずつメニューを変化させる。なぜなら新しい日課が加わったから。素振りノルマだ。1万回。厳密に数えているわけではないだろうが、それでもごまかして宿題をさぼりたくはない。嘘をついたらそこから何かが崩れ始める。そんな気がするから。


 昨日の素振りノルマは4時間くらいかかった。正直、想像以上に時間がかかってる。

 今日も同じだけかかることを想定すれば、やれることは結構すくなくなるだろう。

 テスト勉強も触ったくらいの程度でしかできなかったし、もっと効率的に時間を使えるようにならないと。


 俺は剣聖クラブの部室から拝借した木刀を片手に、訓練棟訓練場で素振りをしまくった。

 4,000回ほど素振りをして、じとっと汗をかき、寮のシャワーで気持ちよく汗を流し学校へ。


 朝のホームルームではオズモンド先生に捕まった。

 

「やあ、赤谷、剣聖クラブはどうだったかね」

「なんともいえないです」

「志波姫は優れた剣術を修めている。先生と生徒という間もいいが、同じ年ごろの仲間どうしだからこそ得られる研鑽の形もまたあるだろう」

「素振り1万回という課題を課されただけですけどね」

「それはまだ君が基礎の基礎を修めるべき段階にいるという意味だろう」


 なにごとも基本からってわけかな。


「赤谷、君を呼び止めたのはほかでもない、これについて問い詰めるためだ」


 オズモンド先生は俺にタブレットの画面を見せてくる。

 週1回の活動、10分の部活時間。我らが剣聖クラブの活動についての情報がのってるページだ。たぶん教員が見れるページとかそんなんだと思う。


「なんだね、この活動スケジュールは」

「部長と議論を交わした結果そうなりました」

「ふざけているのかね、赤谷」

「ちょ、先生、怒られるのは俺じゃないですって……っ、もちろん俺も志は低いほうですし、意識が海抜0mよりしたを低空飛行してますが、志波姫はそんなもんじゃないんですって、あいつの志の低さはそのまま深海に潜っていくレベルなんですって!」


 オズモンド先生が拳をコキコキ鳴らして迫ってきたので、俺は慌てて弁明をする。


「それじゃあ、週2回、20分とかで折衷案とするのはどうでしょうか、先生」

「もっといけ。そうだな、週5日、最低1時間の活動を下限としたまへ、赤谷」

「週5日!? そんな無茶な! 死人がでますって! 俺という死人が!」

「別に構わんだろう」

「鬼ですか?」

「とにかくだ。週1回の活動で10分だけチョロッとやってペナルティを越せると思うなよ。そんなのカウンセリングですらない。君だって剣術をもっとまじめに勉強したいだろう?」

「そりゃあ、まあ……わかりました、では持ち帰って部長と相談させていただきます」

「いつまでに返事をくれるんだね」

「えー、そうですね、2週間ほどお時間をいただければ、と」

「甘えるんじゃあない。放課後までに結論をだしたまへ」


 締め切りの鬼です。こんなんな取引先が逃げ出すぞ。


 そんなこんなで昼休みになった。

 放課後までに相談するとなると、必然的にこの時間しか相談できない。

 志波姫部長に憂鬱な提案をしなければならないストレスに胃が痛くなりながらも、俺は1年1組の教室にやってきた。


 同じ階の端っこにあるこの教室は、普段は前を通るだけで足を止めることはない。


 ほかのクラスを訪ねる時ってなんでこんな緊張するんだろうな。

 じんわり汗とかかいてきた。うわ、いやだぁ、教室のなかにいる志波姫に声をかけないといけないんだろ? 難易度たけえな。


「あ? 赤谷じゃねえか」


 名前を呼ばれ、内心ビクッとしながらふりかえる。

 如月坂がポケットに手を突っ込んでたっていた。そいや、こいつは1組だったな。


「珍しいな。お前が1組のまえにいるなんて」

「いや、まあ、ちょっとな……そうだ、志波姫を呼んでくれないか。ちょっと話があって」

「志波姫、か」


 如月坂はすこし罰が悪そうにしながらも「ああ、まあ、いいぜ」と承諾してくれた。

 とっさの思い付きで、渡りに船とお願いしてしまったが、思えばこいつ体育祭の前に、死ぬほど冷たく志波姫にフラれてメンタルブレイクされてたんだったな。


 俺は俺がしでかした恐ろしい罪に気が付いて、申し訳なさを感じながら1組の入り口から、如月坂を目でおいかけた。

 机でひとりお弁当を広げてる志波姫に声をかけると、ふたりしてこっちをチラッと見てきた。


 志波姫がすぐに席をたち、こっちにやってきた。

 その一部始終を1組の生徒たちが見ており、どういうわけかざわざわしている。


「志波姫神華を呼びつけるなんて、なんと恐れ多い……」

「しかし、あれはミスターアイアンボールだ……」

「赤谷誠なら、まあ、そういうこともあるか……」


 注目されているようで、体温が急上昇するのを感じ、異常に恥ずかしくなってきた。

 なんだよこいつ、関わるだけでスリップダメージ与えてくるじゃん。なに志波姫って、プルトニウムかなにかなの。ろくなもんじゃねえな。

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