格闘技術を履修してください
スーパーノンデリ体育教師の登場で混沌としたまま授業は進んでいく。
1組と4組あわせて60名のうち、5名が芹沢先生いわく才能ありと診断され、残りの55名は才能なしと診断された。
ちなみに才能なしの側には林道の姿がある。むっとしてけっこう怒ってるようだ。
「そっちは逃げる訓練だ」
芹沢先生は指をパチンッと鳴らす。
空中に赤い泥があふれだし、そこから怪物が飛びだした。
肉も皮もない、骨格だけの犬である。
ひと目見て尋常の生物ではないとわかる様相だ。
犬以外にもイノシシっぽい雰囲気の骨の怪物もでてきた。
犬よりおおきくて、がっちりした体格をしており、人間の腰丈くらいの高さがある。
「スケルトンドッグとスケルトンボア。倒せるなら倒していいぞ」
2匹のスケルトンモンスターは駆けだし、生徒たちへ襲い掛かっていく。
再び逃げ惑う生徒たち。林道は「私たちのことバカにして!」とスケルトンボアに挑んでいくが、跳ね飛ばされ、しまいにはスケルトンドッグに組み伏せられて、ぐしぐし踏みつけられている。なんてこっちゃ。
「正直、才能のあるなしなんてわからない。現時点ではな」
芹沢先生はそんなこと言いながら、俺たちのほうへ向き直る。先生の診断で才能ありとされたものたちだ。
「だが、はやい段階で才覚をあらわすやつもいる。だから見込みのあるやつらはわかる。お前たちはそういう部類の祝福者だ。お前たちみたいな勝手に成長するだろう才能には、学校教育のおおくが無意味に映るだろう。しかし、授けられることもある。それが知識と経験だ」
言ってることはわかる気がする。志波姫なんかはあらゆる分野において、勝手に進化していきそうな勢いだ。戦闘能力に関していえば、つい2日前、崩壊論者だったジェモール先生を鮮やかに制圧していることからも、彼女が異常な段階にいることはたしかだろう。
「教育はそれぞれのレベルで行うべきというのが俺の方針だ。よって、お前たちには次の履修科目を提示しようと思う」
芹沢先生はちらっと一瞥し、俺に近づいてくる。
「いまからお前を殺す。抵抗してみせろ」
このじじいさっきから何いってやがる。らりってんのか。
俺の心の叫びは届かず、芹沢先生は普通にジャブで顔面を打ってきた。
こんなシンプルな暴力が許されるのか。俺はのけぞり、体育館の床に倒れる。
俺はわりと優しい人間だと思う。
そして忍耐強い人間でもある。他人に悪口をいわれても怒ることもあんまりない。
でも、俺でも怒ることはある。例えばいきなり殴られた時とか。
俺はクンフー映画の俳優のように、仰向けの状態から跳ね起き、ゆるく構える。
「俺の才能を認めてくれたことはうれしいですが、それとこれとは話が別です」
「御託は言いい。抵抗しろ」
「自慢じゃないですが、俺の最新バージョンの拳は破格ですよ。3年生の先輩だってふっとばした。ミシシッピアカミミガメ事件をご存じないですか?」
「知っててやってる」
芹沢先生はコキコキと手を鳴らしながら、無防備に近づいてくる。
なめているな。俺はコケにされるのは慣れているし、それが平常運転だから、別に腹立つこともないが、ここはほかの生徒たちの手前だ。志波姫も興味深そうにベガ立ちしてことの成り行きを傍観している。きっと俺が芹沢先生にぼこされたら、あとで悪口ポメラニアンモードとなってキャンキャンやかましく追撃してくるのは火を見るより明らかだ。
別にいいところ見せたいとかいうわけじゃないが、ここで負けたくない。そう思った。
俺は『筋力で飛ばす』で空気を押しだして芹沢先生にぶつけてけん制し、その隙をとらえて『瞬発力』+『ステップ』+『ステップ』──近距離用の最速始動『
腕をおおきく振りかぶって全力で背中をぶったたいてやろうとする。
『筋力増強』×3+『瞬発力』+『拳術』+『近接攻撃』
すみませんねえ、芹沢先生、恥かいてもらいますよ!
「派手」
芹沢先生はノールックで回し蹴りをはなち、背後の俺の腹筋をかかとで刺した。
蹴られたのに刺された痛みが背中まで突き抜けて、俺は体育館の床を転がった。
「うぎゃあ……!」
「モブみたいな悲鳴をあげるのね。赤谷くんらしいわ」
志波姫の追撃もしっかり入ります。泣きてえ。
「赤谷をふくめお前たちは対人が得意な能力者との戦闘経験がない。デカくて、パワーとスピードに優れる化け物ならまだしも、人間サイズの生き物を殺すのにド派手な攻撃は必要ないことがおおい。赤谷の攻撃能力は優秀だが、それはモンスター用だ。人間を相手にするには技術が足りない。体術、格闘技術。そういったものがあれば、たとえステータスで自分より優れるものを相手にした場合でも、上回れることもあるだろう」
芹沢先生は、地面と水平にきれいに伸ばされた足をゆっくりとおろした。
「お前たち才能組に俺が求めるのは格闘技術の履修だ」
「なにを黙って見ているのかしら、赤谷君。ペアを組んでくれる人がいないから、組んでくださいとお願いしたらどうかしら」
「いや、別にみてねえし、お前とペア組みたいわけでもねえんだけどな」
誰がこんな氷の令嬢と。
「なら私が組むよ、赤谷」
ヴィルトはぼそっとつぶやく。
志波姫は眉をぴくっとさせ不機嫌な顔になる。
「仕方ないわね……ヴィルトに赤谷君のようなナマズの相手をさせるわけにはいかないから、この場合は私がペアを組むのもやぶさかじゃないわ」
志波姫は肩にかかった黒髪をはらって、視線で問いかけてくる。どう、私と組めてうれしいでしょ、みたいな。嫌なやつ!
「志波姫神華とアイザイア・ヴィルトが組め。赤谷、お前は俺とだ」
芹沢先生がずいっとやってきて、俺のペアは先生に決まった。
先生がペアって……これあまりものだから気を使われてるやつやん……つらすぎ。これだったら志波姫のほうがよかった……か?
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