村崎翔
まさかこんなすぐに絡まれることになるとはな。
嫌われてるとは知ってるけど、そんな気合いれてこなくたっていいじゃないか。
先輩は3人がかりで俺の道をふさいでいる。
ひとりはマッシュヘアの雰囲気イケメン、ひとりは爽やかな髪型のスポーツ男子系イケメン、もうひとりは茶髪にタレ目の癒し系イケメン。
イケメン三銃士に包囲されたら、俺みたいな日陰者はそのまぶしさに焼き尽くされるほかない。
「先輩方、落ち着いてくださいよ、話し合いの余地があるはずです」
自然と言葉も弱腰になった。
相手が3年生の先輩ということもあるが、イケメン三銃士の圧のせいで、本能的に負けを認めてしまっているのだ。イケメンつええ……。
「これが落ち着いていられるか。公衆の目をあざむいて第三の試練をクリアしただ? ふざけるのもたいがいにせいってんだ」
「そもそもはじまりからおかしかった。俺たちは1年生のお前が代表者競技に参加したことも納得してないんだ」
「どんなインチキをしやがった? えぇ? 言ってみろよ」
あんまり刺激するとそのままバトルフェイズに突入しそうな勢いだ。
あくまで穏便に解決する道を探っていこう。
「先輩方の気持ちはわかります。でも、信じてもらうしかないです。俺は代表者競技に立候補してないし、試練においても不正は一切してないんです」
「ふてえ野郎だな。この期に及んで自らの罪を認めないのか?」
「立候補しなきゃ、そもそも選抜には選ばれないだろうが」
それはそうなんだけど、たぶんそこにはジェモール先生の暗躍が関わってるから、それについても具体的には説明できそうにない。ジェモール先生について説明する場合、その先のチェインの思惑まで話は繋がっていってしまう。英雄高校はチェインの手先のジェモール先生に好きなように暴れられたのをよく思っていないし、可能なら隠し通すつもりでいる。俺はそれに協力する意思をすでに示した。
「わかりました。この紛争は言葉では解決しないようですね」
「話がわかるじゃあねえか」
爽やかなイケメンはコキコキと拳を鳴らす。
イケメン三銃士に逆らうとそのまわりの敵にしなくていいやつらまで、敵にしそうな怖さがある。
だが、致し方あるまい。許容すれば相手はつけあがる。
俺は知っている。こういう手合いはいつだって自分より弱いやつを探してる。だから、わからせる必要がある。暴力はすべてを解決する。
「さて誰から死にたいですか、イケメン三銃士のお三方」
「ほう、俺たちイケメン三銃士の名を知っていたのか」
イケメン三銃士って公式の呼び名だったのか。奇しくもあたっちゃったよ。
「俺たちの名を知っていながら、なおその態度。余計に度し難いな」
余計に怒らせてるし。だりい。
「ここで締めてもいいが、そうするとあとがめんどくさい。まだ昼間だしな。リングで決着つけよう」
「え? リング、ですか」
「ついてこいよ」
イケメン三銃士に導かれるままに、俺は訓練棟にひきかえし、普段はいかない3階へ足をはこんだ。
3階には運動部の部室がずらーっと並んでいる。倉庫みたいに狭い部室ではなく、それぞれが教室かそれ以上のサイズをもっていた。
イケメン三銃士の足がとまったのはボクシング部のまえだった。
「俺たちはイケメンなだけでなく、紳士でもある。俺たちはお前の強さに疑問の抱いているのさ。果たしてグウェンダルを倒して、優勝するほどの器があったのかどうかをな」
「グウェンダルは俺たち世代のリーダーだった。それがこんなナマズみたいな目した1年生に遅れをとったことが許せねえ」
「なんでこんな死んだ目をしたやつが」
スポーツ爽やかなイケメンはリングにあがり、ジャージ姿のまま拳を握りしめ構えた。ほかのイケメン2匹は傍観を決め込んでいる。
「ルールは簡単だ。一切の装備なしの、肉体のぶつかりあいってやつだ。俺は英雄高校のボクシング部部長。これまで3年生の強者の1角を守り続けてきた。本来なら俺が代表者競技に選ばれてもおかしくなかった」
「それは……お気の毒に」
それ以外、言えることはない。
「赤谷誠、いまからお前に英雄高校の高さを教えてやる。生半可な気持ちと、ずるい手で勝ち残ったことを後悔させる。覚悟の準備はいいか?」
──村崎翔の視点
代表者競技選抜、有力候補、ボクシング部部長、
その必殺の能力は『蓄積』と『解放』にある。
(英雄高校にはいって、磨き続けた打撃術。現代格闘技のボクシングをベースに独自の技をつくってきた。ボクシングにおいてプロとアマチュアの差がもっとも顕著にでるのはガード技術だ。俺はガードの魔術師さ。あらゆる攻撃を受けてスキル『蓄積』でダメージを沈殿させ、スキル『解放』でダメージをそっくりそんままお返しする。必殺のコンボ)
赤谷は拳を握り構え、拳を放った。ボンッと空気の壁を破壊する音とともに、村崎に死の一撃がせまる。
村崎はぎりぎりでガードを間に合わせる。
すさまじいパンチに村崎の体は後退するかと思われたが、1歩とてさがらず、その場でふんばりきった。
赤谷はすこし驚いた顔をする。
(くっ! あぶねえ、フォームが雑魚なのに、パンチがはやすぎるし強すぎる……だが、想定通りだ。こいつは格闘術の心得がない。てんで素人。なによりお前が1年生にしては抜けて強いのは知っていたさ。筋力が優れてるパワータイプなのも、ポメラニアンを引き裂いてキモイ笑いをする異常者なのもな)
村崎はいましがた受け止めた赤谷の拳から伝わったダメージを『蓄積』で実質的に無効化し、スキル『解放』で右拳に乗せて、赤谷の顔面へ倍返ししてやろうとまっすぐ最短距離でストレートを放った。
(お前はたしかに普通じゃねえ。だがな、英雄高校の強者はみんな普通じゃあねえなんだよ! てめえの力そのままお返しだ、高みを教えてやるよ!)
村崎の強力なストレートパンチ。
それを向けられた赤谷が抱いていた感情は──尊敬であった。
(さすがは3年生。『筋力増強』で殴ったのに、一歩も後退しないでふんばれるのか。それも殴り返してくる気力。これは間違いなく格上。なら本気で殴っても大丈夫そうやな)
赤谷は鮮やかな『ステップ』&『ステップ』で、村崎のストレートの射程から逃れる。
(足さばきだけ達人級!? 世界チャンピオン級のステップだ……っ)
「今度に強めですよ」
『筋力増強』×3+『瞬発力』+『拳術』+『近接攻撃』
放たれるのは赤谷の最新の拳。
村崎は腕を十字に組み、持ち前のガード技術と『蓄積』で受け切ろうとする。
しかし、どうすれば人間に艦砲射撃を受け切れるだろうか。
赤谷の拳は『蓄積』の許容量を超え、村崎の両前腕を破砕し、その綺麗な面に突き刺さった。
村崎はぶっ飛ばされ、ボクシング部の壁をつきぬけて、隣の部室へ。それだけでは収まらず、さらに壁を貫通していき────合計4枚ほどの壁を突き抜けた先の、ミシシッピアカミミガメ愛好部の部室にてようやく止まることとなった。
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