システム再構築

 俺が想像していた以上に、近接攻撃は強力なものだった。


「こいつは……すごいことになっちゃったな」


 まさかここまで拳が強化されることになると思わなかった。

 見たところ『筋力増強』×3+『瞬発力』+『とどめる』+『拳術』+『近接攻撃』の組み合わせは、『鉄の残響ジ・エコー・オブ・アイアン 五式』を超えているように思える。


「この威力の攻撃を叩き込めれば、よっぽど強力なモンスターじゃない限りは、一撃で倒せそうな感じがするな」


 運用が難しいが火力は一級、どんなやつも一撃でぶちのめす。

 いわゆるロマンというやつだ。あまりにも魅力的すぎる。


 しかし、ロマンはどこまでいってもロマンだ。

 実際問題として、俺にこれだけを頼りにするのはやや心許ない。


 近接戦は依然として、俺のほうが被弾するリスクが高い。

 昨晩の人造人間との死闘だって、『領域軟化術グラウンドソフトニング』や『かたくなる』を駆使することで、釣り合いを取れるようにしていただけだ。


 基本的に近接という行動が危険なことは変わらない。

 

「まあ、近接戦に持ち込まれた時に必殺が使えるのはいいことか……」


 戦闘プランを考え直してもいいかもしれない。

 重要なのは『重たい球』をどこに置いておくか、ということ。


 一度、撃ちだすと、手元に戻すのにどうしても時間がかかってしまう。

 これまではいろんな手段でお茶を濁すことばかり考えていたが、ここにきて近づかれるメリットも揃ってきた。


 近接戦は怖いし、危険という認識は変わらないが、それは相手にとっても同じことがいえる。

 近づいてきた相手に手痛い反撃を喰らわせられる手段が俺にはある。


 熟考したのち、俺は『重たい球』を『打撃異常手甲ストライクフィスト』として常用することを決めた。

 つまり基本的に『重たい球』は撃ちだす用ではなく、拳に装着した近接武器として運用するということだ。


 今までとは違う、新しいシステムだ。

 

 近づかれるのが怖いのは、近づかれた時の対処に不安があるから。

 近づかれた時の対処に不安がなくなれば、戦闘状況において、そもそも”不安”というものが失われる。

 遠距離に敵がいるうちは、別に不安でもなんでもないのだから。

 

 『重たい球』を近距離運用する場合、遠距離の攻撃力は必然的に低下する。

 これからの基本戦術は異常物質ではない、通常の鋼材を撃ちだすことにした。


 鋼材なら数があるので、わりと気軽に撃てる。

 撃ち漏らしても困らない。これも数があるからこその考え方だ。


 『重たい球』の筋力補正はSで、威力が5倍になるので、剛材を同じスキルコンボで撃った場合、『重たい球』に比べて、5倍の回数命中させないと同じダメージを与えることはできなくなる。


 でも、それでも構わない。

 別に遠距離にいるうちは一撃で倒す必要はない、と考えればいい。

 対象が倒れるまで、何度でも鋼材を撃ち込めばいいのだから。

 距離が離れているのならそれができる。


「単発火力が5分の1になるってことはそれだけ撃ちだす剛材の数も増えるよなぁ……剛材を買い足しておいたほうがいいか?」


 6つでは足りない気がしたのでウェポンショップで追加で剛材を購入した。

 この塊からほどよいサイズに『筋力で金属加工』して分離することで、普段使っているキューブが得られる。


「鋼の塊なんて買っていくのは赤谷くんくらいだよ」


 奇妙な買い物をする客として、ウェポンショップでバイトしてる学生には顔を覚えられていた。


「でしょうね。というか、まだ在庫あったんですか」

「そっちが買いにきたのに」

「確かめるつもりで聞いたんですよ、あるとは思ってなかったです。なかったら発注してもらうつもりでした」

「オズモンド先生が君のために入荷しておくように頼んでたからね」

「まだ在庫あるんですか?」

「ある、けど?」


 ウェポンショップにある在庫すべてを買い取っておいた。

 剛材なんていくらあってもいいからな。

 英雄ポイントにはまだ余裕がある。


「昨晩の第三の試練はどうだったの?」

「苦戦しましたよ。厄介な敵でした。競技場に中継されてなかったんですよね」

「そうみたいでさ。でも、そっか、本当に試練を乗り越えたんだ。噂じゃ強大なハリネズミの怪物が待ち受けてるとかいう話だったけど」


 ハリネズミの怪物、か。どんなやつだったのか少し気になるな。


「気をつけたほうがいいかもしれないね」

「ご忠告どうも。でも、これくらいなら余裕で持てるので大丈夫です」

「いや、剛材のことじゃなくて。試練のことだよ」

「なにに気を付けるっていうんです。もう代表者競技は終わったというのに」

「君が第三の試練を突破して、代表者競技の優勝者人なったって、今朝、学園アプリのお知らせにあった。君が優勝したって気づいてる生徒はおおい。君もわかってるだろう、君が代表者競技に歓迎されてなかったあの空気感」


 本来なら第三の試練も競技場に中継され、そこで生徒たちの承認をえて、みんなの目の前で優勝者が決まることになる。

 でも、今回は承認という手順が行われなかった。


 優勝者がグウェンダル先輩や、ソンウ先輩だったら、さもありなんということで納得されるが、1年生の俺だといろいろトラブルを生むってわけか。

 実際問題、代表者競技選抜が行われたあと、俺に絡んできた3年生がいた。


「忠告どうも。気をつけます」


 また絡まれるの嫌だなっと思いながら、剛材を両手でかかえて、一旦寮に置いてこようと思い、訓練棟をでる。


「よお、お前、赤谷だろ?」

「毎日シコシコ訓練棟で訓練してるって噂は本当だったらしいな」

「代表者競技への不正参加に、不正優勝だって? 学校がなに考えてるのかわからねえけどよお、やりすぎだぜ、インチキ野郎が」


 身体のでかい3年生の先輩たち3名が、いく手を阻む。

 うーん、さっそく来ましたねえ。困ったなあ。

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