6つ目の種子:日常に帰る
職員室でオズモンド先生に会う。
「意外と元気そうだね、赤谷」
「保健室が強すぎるおかげでたすかりました」
「すべて島江永先生のおかげだ」
オズモンド先生はトランクと2本の杭を机のうえにおく。最後に『
「赤谷には悪いことをした。我々も最大限警戒していたのだが、君を守ることができなかった。ある時点から内側で手引きしているものがいると推測はされていたが、それが誰なのか突き止めるには時間が足りなかった。本当にすまなかった」
「別に気にしてないですよ。いきなり地獄に送り込まれたのはビビりましたけど」
「石板にはあらかじめ転移系スキルが付与されていたんだが、どうにもその転移先を扉間ひぐれのスキルで上書きされてしまっていたらしい。本来は第三の試練のために特設された会場へテレポートするはずだったが、行き先は急遽変更され、罠のなかに放り込まれたというわけだ」
どっちみちテレポートする予定ではあったとな。
「代表者競技優勝扱いになって聞いたんですけど、もしかしてお金も貰えるってことですか?」
「優勝賞金の300万は君のものになる。それについては学園アプリでメッセージが届いてると思うから確認してみてくれ」
職員室をあとに中央棟をでる。
昨夜の闇と絶望はそこになく、澄み渡った青空がひろがっていた。
長かった体育祭はおわり、代表者競技もまた終わった。
期せずして崩壊論者『
あらゆる出来事が収束したような気分だ。
非日常が解除され、これから日常へと戻っていく。
寮の自室に戻り、ベッドに身を投げ、スマホを片手に学園アプリを確認。
300万円の受け取りに関するお知らせをみて、本当にお金持ちになってしまうのだと実感した。
「300万円ってやばいな……」
これで義父への借金返済も近づく。
「にゃ」
「ん?」
声のするほうを見やれば、窓辺に黒猫がおすわりしてこちらを見ていた。
「ツリーキャット、いたのか」
「にゃあ(訳:昨日は大変な1日だったみたいにゃ)」
「本当だよ、マジでやばかったぞ」
ツリーキャットはぴょんっとジャンプして、俺の隣にやってきて、どこからともなく取りだしたキモいクルミを置いた。
真っ黒い種子だ。これまでで一番黒いかもしれない。
「『
「にゃーん(訳:チェインを倒したあとに回収したにゃん)」
「チェインの種子、か」
「にゃあ(訳:チェイン自身、自分を種子で強化していたにゃん)」
「なるほどな。てか、おまえ廃工場にいたのかよ」
「にゃー(訳:私はどこにいるにゃん。赤谷くんのそばにいつでも)」
「そっか。誰にも知られず死ぬと思ったけど、お前に見守れてるなら最悪いいか」
「にゃ(訳:赤谷くんが本当にピンチになったら私が助けてあげるにゃん)」
いい猫だ。でも、猫になにができるのか疑問ではあるが。
「にゃーん(訳:しかし、大変だったにゃん。あの羽生とかいう教師に見つからずに『
「そういえばダンジョン財団側にはバレたくないんだっけ、キモいクルミのこと」
「にゃあ(訳:そうにゃ。あれは過ぎたる力。ダンジョン財団に見つかれば猫狩りがはじまるにゃん)」
「見つかりたくないんだとしても、たしかチェインのやつドローンで動画を撮影してた気がするけど」
「にゃ……(訳:そういえば、工場内で『
「でも、財団のエージェントにはとくに猫とか種子のことは聞かれなかったけど」
「にゃーん(訳:ふむ、おかしな感じだにゃ。チェインの発言には興味を持ちそうな気がするけど……それにおかしいことがあるにゃ。チェインは種子をひとつしか持っていなかったにゃん)」
「全部で何個かあるって言ってったっけ。チェインに奪われたのなら全部持ってるはずだけどな」
「にゃん(訳:13個。半分以上どっかにいってしまったにゃ……これは困るにゃあ……)」
可哀想なので撫で撫でしておく。
「まあ、いずれ見つかると信じるしかないな。チェインの拠点とかを探して見る必要あるけど。……そういえば、チェインがお前と面識あるみたいに話してたけど、どっか種子を隠してそうな場所とか知らないのか?」
「にゃあ(訳:わかるならもう見つけてるにゃん)」
「面識については?」
気になるところを強調していく。
「にゃー(訳:チェインは最初に目をつけた支援者にゃ。私はスキルツリーを発芽させられる才能を探していたにゃ。チェインには素質があるのかなぁっと思ったけど、なかったにゃん。それで裏切られて、11個の種子をもってかれてしまったまま、行方をくらましたにゃん)」
そういえば俺には間違えて種子を植え付けてしまったみたいなこと言ってたっけ。
「それじゃあチェインにはスキルツリーの才能がなかったわけか」
「にゃあ(訳:そういうことにゃん。ちゃんと説明したのに返してくれなかったにゃん。やつが危険な人間だとわかったのは、私が別れを切りだしたあとのことだったにゃん。だから、赤谷くんには種子を集めると同時に、あの邪悪な男を倒してほしかったけど……種子はどっかにいってしまったにゃん)」
「今までは向こうからシードホルダーがやってきたけど、こっちから探すってなると無理くないか」
「にゃ(訳:無理にゃ)」
「はぁ……ってことは、実質この種子が最後になるのかもな」
俺は真っ黒なキモいクルミを手に取り、しみじみとつぶたいた。
『
この先、入荷が期待できないのは実利という意味でも、結構マイナスだな。
「にゃあ(訳:先行きは不安だけど、まあそれも仕方がないことにゃ。スキルツリー自体はすでに結構おおきくなっているし、新しい力も目覚めているにゃん。きっとこの先も進化は見られると思うにゃん)」
そうだな、不安ばかり抱いていても仕方ない。
俺は『
ベギベギっと右腕がうずきはじめる。
俺は急いでシャワールームへ駆けた。
すぐのち鮮血とともに、スキルツリーが肩口まで裂けて飛びだしてきた。
久しぶりの感覚。
ツリーがまた一段階成長した。
日常にもどってきた感じだ。
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