失敗からちゃんと学ぶ男
エイプリルがどいたことで、再びチェインがフリーになる。
赤谷の手元からコンクリート球塊が放たれる。
チェインは身を屈めて避けて、工業用機械の物陰に逃げこんだ。
距離のせいで十分な精度がない。
赤谷は射角が確保できる位置と距離にまわりこもうとする。
黒い鎖がいく手を阻む。
自在にうねり、襲いかかってくる杭の先端をさばくだけで精一杯になり、チェインに攻撃をおこなう余裕がない。
(チェインに近づくと鎖の攻撃性能があがってる気がする。精度、速度、量。やつも自分から近い距離で鎖を操るほうが得意みたいだ)
「エイプリルッ!」
チェインの怒声が響く。
エイプリルはのそりと起きあがる。
(チェインの攻撃が激しくなるのはだいたい14、15mくらいから。そこから先の接近はかなり勇気が必要になる。まだそのタイミングじゃない)
赤谷はチェインから距離をおき、向かってくるエイプリルを迎撃する。
距離をとれば、鎖たちの攻撃は多少おとなしくなった。
攻めてきたエイプリルの暴風のような乱撃を、かわし、黒い鎖のこざかしい杭をかいくぐる。
赤谷に攻撃のチャンスはおとずれない。
『やわらかくなる』+『かたくなる』
『
動きを抑制してようやく五分、いや、それでもエイプリル+黒鎖のほうが上だ。
相手の手数は多く、そのどれもが無視できない攻撃力を持っている。
しまいにはエイプリルの拳に捕まって、吹っ飛ばされてしまう。
腕は固めてガードはしてあったのでダメージは抑制できている。
(なにより鎖が厄介だ。手数が多すぎて集中できない)
赤谷は工場の壁の隙間から外へ飛びだした、
外はおおきな駐車場になっており、ひび割れたアスファルトの隙間から雑草が生い茂っているた
駐車場には黒い鎖が寝かされており、ドローンも待機している。
(外に出られるのは想定済みか)
黒い鎖たちが意思をもったように、動き出し、宙に浮かび、その鋭利な杭頭を赤谷へ向けた。
寝ていた蛇が目を覚ましたかのように。
赤谷はチラッと背後を見やる。
工場の壁を引き裂いて、エイプリルが出てきた。
その背後、チェインは優雅に歩いてくる。
邪悪な笑みを深め、暗い眼差しで。逃げれるものなら逃げてみろ、と言いたげに。
赤谷は明確にピンチのなかにいたが、しかし、冷静な思考をもっていた。
未知の能力・戦力とあいたいする場合に重要になるのは、観察と分析と評価だ。
(鎖はスキルで作り出してるわけじゃない? あくまで操作する能力か? 黒で統一されていることには意味がある? なんで工場内にあった鎖を使わない?)
飛んでくる鎖の攻撃を回避し、コンクリート球塊をチェインへ発射。
エイプリルが身をていして球塊を受けとめ、チェインを守る。
(撃ち出してるのが『重たい球』でない以上、攻撃力が不足してるか。鉄球を撃ちたいが、『
(やつの”放つ”能力は危険。予備動作がほとんどないから、俺様でも安定して避けることは難しい)
(チェインは回避をしない。擬似ダンジョンの時もそうだったが、人造人間に俺の放ったものを止めさせる傾向がある。目で追えてないんだろう。さっき攻撃が通ったことも考えれば、その可能性が高い。あの人造人間を引き剥がせれば、遠隔から撃ち放題。そこで鉄球を当てれば倒せる)
エイプリルが飛びこんでくる。
赤谷は最後のコンクリート球塊を放って、チェインを狙う。
チェインはビクッとしてハットを押さえながら、慌ててしゃがんで避けた。
(くそ、隙あらば俺様のほうを狙ってくるか。めんどくせえな)
エイプリルの飛びこみからの拳を受け、再び飛ばされ、朽ち捨てられたトラックの荷台に打ちつけられる。
さらに吹っ飛んだ赤谷をまっすぐ追撃してくる。鬼の猛攻だ。
「それはあんまよくないぞ!」
赤谷は血を吐き捨てながら言い、追撃してきたエイプリルの拳を回避してカウンターのフックを顎に打ちこんだ。
チェインが赤谷の攻撃におじけづいて足を止めたこと。
エイプリルが追撃のために飛び込んできたこと。
この2つの要因は、エイプリルと赤谷の戦場がチェインの操る黒鎖の有効射程距離から、離れたことを意味していた。
(駐車場に出た時、黒い鎖たちが目覚めたように動きだした。チェインの鎖を操る能力の最大射程はおそらく30mかそこいら。最大射程で運用すると攻撃性能が低下するのかも)
赤谷のなんとなくの推測がそこまでを導いていた。
だから、エイプリルと赤谷の1on1が成立したタイミングが判断でき、果敢に反撃をしかけることができた。
(人造人間は速く、強く、硬い。だが、『筋力増強』×3を体に張り巡らした状態なら俺のほうが地力で上回る。『
両者の戦いは比べるならボクシングのプロと素人の戦いのようだった。
エイプリルの野生的な大振りをかわしたあとは、赤谷は素早く3発の拳をガラ空きの胴体に打ちこむ。
チェインが追いつくまでの数秒間で20発を超える拳を叩きこむが、エイプリルは倒れない。
(詠唱破棄・五式を連続で打ちこんでるようなものなのに。拳を打ってる手応えがまえとだいぶ違う、水袋でも殴ってるみたいだ)
赤谷は「こいつまさか……」と嫌な予感を抱き、走って逃げ、距離を稼ぎ、『
切断された腕はアスファルトのうえで打ちあげられた魚のようにピチピチ跳ねる。
(打撃装甲か。俺を倒すためにバージョンアップしたのを用意したわけだ。チェインのやつ、俺が鉄球を使ってたことしっかりみて対策してきてたのか)
「次は刃も対策しておけよ」
追撃の二太刀目が命中、エイプリルの強靭な胴体は袈裟懸けに斬りさかれ、仰向けにくずれ落ちた。
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