資格がある者
どうにかしてソンウ先輩にどいて欲しいんだけど。
「あいにくとそれはできない」明かりも持ってなくてな。この門だってだいぶ苦労して運良く発見できた。また迷路に戻れば、もし鍵を見つけても、俺はこの門に帰ってこれない。このダンジョンはどうやら道が組み変わっているみたいなんだ一度迷いこんだら、競技終了まで迷路をぐるぐるして終わるわけさ」
先輩はひと差し指でこめかみにトントンっとする。
「そこで考えた。ゴールで待とう、と」
「……なるほど」
ゴールにいれば誰かしらやってくる。
そしてそいつは鍵を持っている可能性が高い。
「鍵を持っていないなら、探しにいくか、お前もここで待ってみないか。鍵を持ってきたやつを、一緒に倒そう」
俺はたぶん気まずい顔をしていたんだと思う。
だからソンウ先輩は「ん?」と訝しむ表情を浮かべたんだ。
「すみません、俺、鍵持ってます」
「まじかよ。嘘ついてるじゃないか」
「そりゃあ嘘もつきますよ。なんでゴールでガン待ちしてるんですか」
「鍵は3つ必要なんだ。このくぼみにはまりそうなモノが3つ」
「はい、3つあります」
「それもわかってたのか……まともに攻略してきたんだな」
黒いナメクジの石像を3つ見せてあげる。
ソンウ先輩はクールな表情を変えることなく、腕を組んで「ふむ」と考えこむ。
「代表者に選ばれたからには俺も歴史に名を刻みたいと思っていた。いまはチャンスってやつなんだろう。1年生が鍵を全部持って運んできてくれた」
ひょいっと台座から降りた。身長は頭ひとつ分俺より高い。
やるつもりか。どこからでもかかってこい。
「だが、ここで成果物を横取りはできない」
ソンウ先輩は床のポケットからポーションを取りだし、床のうえに並べていく。
1本、2本、3本、4本。
「それじゃあ俺に譲ってくれるってことですか?」
「そうとも言ってない。お前も知ってるとおり、代表者競技で第三の試練まで到達できるものは多くはない。今年は、というかたぶん数分後には、俺かお前かのどっちかはその第三の試練に挑んでる」
「でしょうね。ここに鍵はそろってますから」
「代表者競技で優勝することは名誉なことだ。大金も手にはいる。正直、俺は金がほしい」
「気が合いますね」
「課金沼を渡りきるためにはバイトしてもバイトしても足りないんだ」
「思ったより使い道しょうもないですね」
「では、お前はどうなんだ、1年生。俺より有意義な使い方をすると?」
「お金の使い道バトルですか。たしかに俺も使い道としてはしょうもないですよ。親への借金をかえすだけですし」
「親に借金しすぎだろ」
「縁切るためのお金ですよ。ここまで大きくしてもらった分を返して、それですべてなかったことにする。互いにね」
「想像以上に重い話をしれっとしないでくれないか、1年生」
ソンウ先輩は腕を組み、口をへの字に曲げ「お金の使い道バトルは俺の負けだな」と敗北を認めてくれた。
「やはり、第三の試練に進むべきはお前のように思える。この状況、どう交渉しても、俺のほうには傾かない」
「それじゃあ譲ってくれるってことでいいですか?」
「それも癪だな」
「どっちなんですか」
「俺はわりと正当性を気にするんだ。鍵を3つ持ってきたのがグウェンダルだったら何の遠慮もなかったんだが、1年生だと世論が悪すぎる」
ソンウ先輩はこめかみに指をつきたてる。
「そこで俺は考えた。俺にも一応、暗闇のなか20分以上、このゴールで待ち続けたという成果がある。だから、その分のチャレンジは許されるんじゃないか、と」
「ほう。それはつまり真っ向勝負ではないやり方を選んでくれると。すごいありがたいですけど」
「お前がパワータイプなのは知ってる。そして俺はいわゆるスピードタイプだ。1年生、俺を殴れ」
ソンウ先輩は俺のまえまでくると、軽く腰を落とした。やる気のないバスケのディフェンスみたいに。
「もしお前の全力を俺が耐えたら、そこからバトって決着をつけよう。どっちが第三の試練に進むか。最初の一撃はお前が3つの鍵を集めてる分の優位だ」
「なるほど、結構お人好しなんですね、先輩」
「世渡りを考えてるだけだ」
「後悔しても知りませんよ」
俺とソンウ先輩は相対し向いあう。
鉄球を引きよせ右拳に装填し『
『温める』×4+『筋力増強』×3+『瞬発力』+『とどめる』
ファイアエンチャント『
ソンウ先輩の
一言も発さず、壁にめりこんだまま動かない。
近づいてみて息があることを確かめる。うん、白目むいて気絶しているだけだ。
「対戦ありがとうございました」
気絶した先輩に一礼して、黒いナメクジの像を門にセット、俺はゴールの扉を開いた。
扉の奥、石板が鎮座している。代表者選抜の時、血の樹から出てきたやつだ。
俺はポーションをごくごく飲み干し、十分にステータスを整えてから石板に手を伸ばした。
その直後、俺の視界は石板に吸い込まれていき、ぐにゃんぐにゃんになった。
気がついた時、俺は見知らぬ廃墟にたたずんでいた。
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