騎士と科学者とアイアンボール 後編
薬膳の編みだした強力無比の『
いくら超人的な能力を備えた探索者といえども、その根本的な構造は人間と変わらない。
生きていくために、活動するためには、呼吸をし、酸素により力を得なければならない。
活動の元栓を勝手に閉められれば、できることもできなくなってしまう。
赤谷とグウェンダルはうなづき合い、一番やることやってる共通の敵をほうむることにした。
ザッと駆けだすグウェンダル。足取りは重たい。
赤谷は鉄球を手元にもどす。さきほどグウェンダルを倒すために撃ち漏らしたせいで回収から入らなければならない。
「ルフナ・グウェンダル、お前を倒す」
黄金の剣が薬膳をぶった斬ろうと水平にふられる。
覚悟を決めた表情で滑らかに構えをとり、一歩間合いをつめる。
薬膳は、黄金の剣が加速するまえに、距離を殺し、懐に入り込んだ。
グウェンダルの剣持つ利き手を1発手刀で叩き、剣の加速を中止させると、続く打撃で肘関節攻撃、脇で挟んで固定すると、掌底を打ちあげて顎を下から攻撃した。
流麗な体捌きだ。その意外性にグウェンダルも赤谷も、意表を突かれる。
黄金の剣を持つ手首を肘で打ちおろし、武装を解除させ、腰を落として発勁を打ちこんだ。
グウェンダルの体は壁に叩きつけられ、ベギベギっと水面に雫が落ちたかのような亀裂を描いた。
「いまなら俺でも対処できる」
薬膳は足で剣を蹴り飛ばし、澄ました顔でポケットから銃を取りだした。
中折れ式の拳銃は競技前に彼が吟味していたものだ。
パァンパァン! 躊躇なくグウェンダルに発砲する。薬膳のスキルにより、より高圧で発射された弾丸はべしべしっと命中し、グウェンダルを出血させた。
ヒューっ。音とともに薬膳の手首がゴギっと音をたてて曲がった。
ほとんど同じタイミングで左足も外側に広がり、薬膳は「うぎゃああ!?」と叫びながら転んだ。
「ぷはぁあ! はぁ! はぁ!」
赤谷は大きく息を吸いながら、鉄球をキャッチして駆けだす。
(そうか、赤谷め、鉄球の飛ばすのではなく、引きよせるタイミングで攻撃してきたのか! さっきグウェンダルを撃とうとしてさばかれた2発。どさくさに紛れて、俺の背面方向に移動させていやがったんだ)
攻撃された瞬間『
空気中の成分操作は、非常に難易度が高く、薬膳をしてまだまだ発展途上の技なのだ。ゆえに高い集中力がなければ維持することはできない。
薬膳はすぐさま『
(薬膳先輩はすぐにまたあの陰キャ戦術を使ってくる)
赤谷は腰を落とし、身体のバネを縮ませる。
(だが、呼吸はできた。ただの一呼吸。これで十分)
赤谷は再び『
2発続けて発射し、両方とも命中し、薬膳はたまらずふっとばされ、天井や壁、地面をバウンドして遠くに転がった。
根性で立ちあがろうとする薬膳。
赤谷は勝負あったなと思いながら、鉄球を引きよせて回収しつつ近寄る。
グウェンダルもまたケロッとした顔で起きあがり、剣を足ですくって、満身創痍の薬膳のもとへ。
「グウェンダル先輩、血が……」
「ん、あぁ別にかすり傷だよ。全然大丈夫」
「結構派手に発勁喰らってましたけど」
「あれも特には、かな。びっくりしたけど」
(薬膳先輩に一方的に攻撃されてたように見えたけど、意外とダメージなさそうだな)
「くっ、流石は『光の騎士』ルフナ・グウェンダル……俺の打撃じゃだめか」
「えへへ、光の騎士だなんて、そんなたいしたものじゃないよぉ」
グウェンダルは頬をちょっと緩め手をひらひらと振る。結構うれしそうであった。
「薬膳先輩、もう観念してその指輪で帰ったらどうですか」
「まだ、だ」
「もうふらふらじゃないですか。なんでそんな頑張るんですか」
「俺は、この試練に勝って、みんなにチヤホヤされるんだ。こんなチャンス二度とこない。ここで俺はヒーローになる。そしたら彼女ができていろんなことできるってわけだ」
「途中の大事なプロセス結構すっ飛ばした感じありましたけど……まあいいです。勝ちたい気持ちは伝わりました。で、降参するんですか。こっちはグウェンダル先輩と俺ですよ」
「言わなかったか、まだ、だってな」
薬膳は構えながら、のしっと間合いを詰めていく。
(倒さなければ諦めそうにないな)
赤谷の右フック。腰の入った拳だ。
薬膳は腕を十字に固めて、側頭部をガードする。
ガード越しに拳が命中。凄まじい腕力に薬膳の体はふわっと浮いて、壁にめりこんだ。
赤谷のフックに踏ん張れるはずもなかった。
「アイアンボールくん、容赦ないねぇ」
「こういうクズにはやりすぎるくらいでちょうどいいんですよ。世間に迷惑かける前にここで殺します」
「いや、殺しちゃだめだよ!?」
「ぉ、ぉ、ぶほへぉ、ちょ……ちょっとは容赦、とかしてくれよ……ど、同志赤谷ぃ……」
壁にめりこんだまま薬膳は言い、ぴくぴくと四肢を痙攣させた。
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