3つ目の鍵
ポメラニアングリフォンが光の粒となって消えていく。
あとに残ったのはポーションの瓶と鍵だ。
グウェンダル先輩は鍵を拾いあげる。
「ポーションは半分こでいい」
「俺の活躍のほうが大きかったような気はします」
「でも、犠牲者出してるからな、申し訳なさとか感じてほしいなぁ」
ポーションは半分こにした。
ずいぶん俺のまわりを浮遊するポーションの数も増えてきた。
「荷物いっぱいになっちゃうな」
「こんなことならカバン持ってくればよかったですね」
「でも、カバンも荷物にカウントされるから今度は武器が持てなくなっちゃっただろうけどね」
たしかにそうか。
「喉乾いたらどんどん飲んじゃったほうがいいかもね」
「そんな理由でポーション飲めないですよ、俺」
有言実行、グウェンダル先輩はポーションをガブガブ飲み干しボス部屋を出ていく。
俺はもったいなさが勝ち、ポーションを近くに浮かべておくことにする。もう6本くらいふわふわ浮いてる、別に集めてるわけじゃないんだけどな。
「喉乾いてないなら頭からかけるだけでもそこそこ効果あるよ」
「こいつらはあとで使います」
「使わないなら私がもらってあげるよ?」
「だからあとで使いますって」
危ない、浮いてるポーションしれっと持ってかれるところだった。
「ここが宝箱のある部屋だね」
グウェンダル先輩はポメラニアングリフォンから手に入れた鍵で解錠し、部屋のなかへ。
宝箱を蹴り開けると、2つ目のナメクジの像を獲得した。
「これで石像2つ目。残るはひとつだね」
「3つで奥の扉が開いて、そこに石板があるってことですかね」
「たぶんそういうことだと思う。あるいはまだギミックがあるのか否か……ん? これはなんだろ」
宝箱のなかにはナメクジの石像以外にも、古びた銃が一丁入っていた。
グウェンダル先輩は手にとり「これは!」と驚愕の顔になる。
「なんですかどうしたんですか」
「いや、なんでもないよ。アイアンボールくんは気にしないで」
「なんでもない訳ないじゃないですか。いいから見せてくださいよ」
「あ、こら、やだ、渡したくない!」
抵抗するグウェンダル先輩から銃を奪いとる。ちぇっと顔されてるが知ったことじゃない。
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『離脱の弾丸』
迷宮の恐怖から逃れるための弾
命中した対象をダンジョン外へ離脱させる
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銃本体というより、この銃に込められている弾丸が
単発装填式の古そうな銃だ。チャンスは一度きり。だが当てれば必殺か。
「この競技を強制退場させる武器。宝箱産アイテムは強いのしかないですね。地図といい最強武器といい。ところでグウェンダル先輩、どうしてこれを隠そうとしたんですか」
「深い意味はないよ」
「よくそんなしらじらしい顔できますね。この銃は僕が預かります」
「うわ、絶対に背後から撃つつもりじゃん。アイアンボールくん陰湿なことやめたほうがいいと思うなぁ!」
「先に犯行を計画していた先輩に言われてくないです。ほら、手を伸ばしても渡しませんから」
まったく油断も隙もあったものじゃない。
できれば代表者を俺の手で退場させるようなことはしたくない。
なので現状ではこの銃を使う予定はないが……。
「アイアンボールくん、前を歩いてね。後ろから撃たれたら代表者競技終わっても恨み続けるから」
「それをやるのは、なんとかウェンダル先輩だけだと思います」
俺は松明を掲げ、グウェンダル先輩をあとに引き連れつつ「そこ右だね」「そこは左」「まっすぐゴーストレート」と、背後から飛んでくる指示に従って道をいく。地図は基本的にグウェンダル先輩が持っているので、俺はその指示に従う感じだ。
「そこが3つ目のボス部屋だね。最後の鍵があるはず」
「このボス部屋……たぶん鍵はないですね」
「え?」
俺は開け放たれた鉄扉を見てつぶやく。ボス部屋の扉だ。すでに開いているのだ。
白い霧はかかっておらず、ボス部屋のなかに何かがいる気配はない。なにより光差す真ん中の柱に鍵がかかってない。
「もしや攻略済み?」
「ですかね。先にボスを倒されちゃったみたいです」
確かにこういうこともありえるのか。
でも、しかし、こう言う場合、どうすればいいんだ。
「こうなったらアイアンボールくんと私で鍵を奪ったけしからん輩を襲うしかないかなぁ」
「先輩ってほかの代表者を攻撃することに躊躇ないですよね」
「そりゃあ、ギミック的に戦う流れになるように出来てるみたいだし、仕方ないよ」
限られたキーアイテムをめぐって争うように出来ている。
たしかにその通りかもしれないな。
「私たちには偉大な地図がある。ここの試練のボス:ポメラニアンサーペントの鍵を使って開く部屋を先回りして押さえちゃおう」
「それが無難ですね。犯人もそっちを目指してるはずですし」
ポメラニアンサーペントは絶対にキモいだろうな。
「このダンジョンは道が組み変わるくせものだから、最速で辿り着けるのは地図をもっている私たちくらいだろうね」
俺たちは優位性を疑わずにダンジョンを進んだ。
「このマーカー……石灰だ」
「ダンジョン探索用の?」
壁や床に石灰で矢印や数字が刻んであるのをしばしば発見した。
薬膳先輩か、ソンウ先輩が印として描いたものだろう。
「ちょっと待ってアイアンボールくん」
「グウェンダル先輩、どうしました」
肩をがしっと掴まれる。ドキッとしてしまう。いろんな意味で。
「なんか……変じゃない?」
「変?」
何が、っと聞こうとし、俺も気がついた自分の平衡感覚が失われ、バランスを崩し、その場で膝をつこうとしていることに。
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