ポメラニアングリフォン
ドロップしたポーションはしっかり半分こだ。
そんなこんなで進んでいくと再びボス部屋に辿り着いた。
白い霧のかかった重厚な鉄扉だ。揺らぐ霧に白い文字で『試練のボス:ポメラニアングリフォン』と刻まれている。
ボス部屋を開放するなり、部屋の真ん中の柱に鍵がかかっているのが見えた。
あの鍵を手に入れて、もう宝箱を開けることができれば、お案じ要領でナメクジの石像を手に入れることができると思われる。
「さあ行こうか、ポメラニアングリフォンとやらを狩りに」
「先輩、ちょっといいですか。秘策があるのですが」
「秘策?」
突撃しようとするグウェンダル先輩を制止し、ボス部屋の外に出るように誘導し、俺はボス部屋の外から鍵へ手を伸ばした。
スキル『筋力で引きよせる』を発動。鍵がすごい勢いで飛んでくる。
くっくっく、どこで運営が見ているのか知らないが、不正をすればそれを防ごうとされてしまう。さっきはボス部屋を強制封鎖されて、戦うことを強要された。
だが、甘いのだ。この赤谷誠の知略は常に進化しつづけている。ボス部屋が強制封鎖されるのならば、ボス部屋に入ることすらせずに鍵を引きよせればいいのだ。それでまったくよいのだ。
鍵が5mくらいのところまで迫ったところで、巨大な影が俺たちの目の前、ボス部屋入り口付近を横切った。
そいつは口に鍵を加えて、そのまま飛び去って、ボス部屋のなかを旋回しはじめる。
「あっ……泥棒ぉぉお━━━━!」
「ぽめえ〜!」
白いふわふわのポメラニアン。しかし、その背中には白い翼が生えている。
体型もちょっと違う。四足獣なのだが、犬というより、ライオンみたいな感じだ。
屈強な体の頭部がポメラニアンなので、雑コラしたみたいな違和感がひどい。
「あれがポメラニアングリフォンだね。てかキモい感じになってるじゃん。錬金術に失敗したのかな」
「もっとなんか出来たでしょうに。生まれてはいけなかった忌むべき怪物感すごいっすね」
「ぽめえ〜!(口元でキランと輝く鍵)」
「卑怯な運営ですよ、本当に」
俺の作戦を潰すためにボスを起動させるなんて絶対に許せない。
「先に卑怯なことしたのはアイアンボールくんだけどね」
たははっと気の抜けた風に笑われてしまう。
くっ、グウェンダル先輩に呆れられた。
俺はもう運営と、あのポメラニアングリフォンを許せそうにない。
「アイアンボールくん、私の剣をかえしてくれるかね。ボスと戦うのに必要なのだ」
グウェンダル先輩に剣を渡して、ふたりでボス部屋へ突入した。
ポメラニアングリフォンは大地や壁を駆け、縦横無尽の移動性能を見せつけ、惑わしてくる。
背中合わせになり、どこから飛び込んでくるかわからない巨躯の突進に備える。
「ぽめええ!」
飛び込んでくるポメラニアングリフォン。
「ここだ! チェストッ!」
グウェンダル先輩は前転しながら、鋭い爪を回避しつつ斬りつけた。
合わせて俺も回避して、一回ポメラニアングリフォンにタッチする。
スキル『浮遊』発動。これでポメラニアングリフォンの重力解除状態になる。
「ぽめえ〜!!!!」
「あれ、アイアンボールくん、めっちゃ速くなってるんだけど!? うわああ!」
しまった。ポメラニアングリフォンは翼をもち、空を駆ける怪物だ。
空中に浮かしたところで動揺なんてしないんだ。
むしろ身体がめちゃめちゃ軽くなったせいで超強力なスピードバフをかけてしまった。
おかげでグウェンダル先輩が轢かれてた。死んだか。
「おのれ、先輩をよくも。スキル解除」
「ぽ、ぽめえ!?」
遠隔から『浮遊』を解除。水を得た魚のように元気に動きまわっていたポメラニアングリフォンは、いきなり速度低下したことで、感覚のバグを起こしたのか、その場で派手にコケた。
『放水』+『とどめる』+『かたくなる』+『くっつく』+『筋力で飛ばす』
「『
べちゃべちゃさせて動きをとめつつ、俺は鉄球を構える。
ポメラニアングリフォンは粘る水をもろともせずに起きあがる。
体躯に優れるモンスターの動きをとめるにはやや不足だが、多少は動きが鈍くなってる。翼にも絡まって動かしにくそうにしているし。
「詠唱破棄・五式」
動きの鈍くなったところへ『
甲高い悲鳴のような音が響き渡り、高速で着弾、ポメラニアングリフォンの頭部を粉砕した。
巨躯は事切れて動かなくなる。すぐに光の粒となって霧散して消えた。
「勝てた。犠牲者はひとりで済みましたね……先輩のこと忘れません」
「生きてるからね、アイアンボールくん」
グウェンダル先輩はムッとしながらそう言って、俺の頭をぺちんっと叩いた。
「試練のボスでもアイアンボールくんの鉄球には耐えられないみたいだね。君、どうしてそんな強いのかなぁ?」
「どうでしょう。試練のボスのほうが調整されてる感じはありますけど」
試練のポメラニアンたちより、黒いシマエナガのほうが厳しく感じたしな。
落ちてる鍵を拾って回収する。
これで2つ目。あと残す鍵は1つだけか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます