ポメラニアンケルベロス

 万引きして店を出て行こうとしたら、出入り口にシャッターがびしゃんっと降りた気分だ。

 

「そんな悪いことしてないと思うが、だめですか」


 俺は振りかえり、鍵のひっかかっていた黒い石柱を見やる。

 光に照らされたそこに上方から、何かがふってきてズドンっと着地した。

 

 白い毛並みがふさふさしている。

 顔が三つあり、それぞれ可愛らしいポメラニアン顔なのもわかる。でも目を見開いていて怖い。

 恐るべきはその体躯だ。大きな牛くらいはあるだろうか。これほど大きなポメラニアンに会うためには、かなり深めの設定にしないと擬似ダンジョンでも出てこないんじゃないだろうか。


「ぽめえ!」


 相変わらず鳴き声は高いな。もちろん体躯に見合ってない。


「お前がポメラニアンケルベロスか」

「ぽめえー!」


 ボス部屋がふわっと淡い光に包まれた。

 途端、ポメラニアンケルベロスは一気に駆け出した。

 巨大な体躯か速力を増して、つっこんでくる。

 

 どしん、どしん、どしん、ついに目の前にやってきて、大きな口を開いた。黒目が点になるほど見開かれ、鋭い牙がひん剥かれた悍ましい顔だ。

 犬ってこういう怖い顔するよねとか思いながら、『ステップ』+『ステップ』で攻撃を回避し、背後にまわって距離をとった。


 ポメラニアンケルベロスは振りかえり、こちらへの殺意を衰えさせず、攻撃を続行する構えを見せる。

 俺は獣の鼻かしらを指差し、一言だけつぶやく。


「お前もう死んでるぞ」

「ぽめえ?」


 ポメラニアンケルベロスの身体がふわふわっと浮きあがりはじめた。すれ違った時にスキル『浮遊』を一回触っておいたのだ。

 大地で生まれ、地上を駆けることに特化した四足獣の構造では、宙に浮き上がった状態でなにかすることもできない。

 それまで片時も離れずそばにいてくれた重力から無慈悲に引き離され、急に訪れた重力解放に対応できる生物は少ない。


 俺はゆっくりと『斬撃異常長剣ブレードソード』を2つに分割し、『打撃異常球体ストライクスフィア』に変形させた。


 『筋力増強』×3+『筋力で飛ばす』+『圧縮』+『とどめる』


「完全詠唱の『鉄の残響ジ・エコー・オブ・アイアン 五式』。お前に耐えられるか、ポメラニアンケルベロス」


 甲高い悲鳴とともに、鉄球が発射され、ポメラニアンケルベロスの胸にブッ刺さり、ボス部屋の壁に勢いよく叩きつけた。

 ぼさっと力無く落下してくるポメラニアンケルベロスが再び動きだすことはなかった。

 だから言っただろう。もう死んでるって。


 ポメラニアンケルベロスの身体が光の粒にかわって霧散していく。

 あとに残ったのは4本の色鮮やかな液体のはいったガラス瓶だった。

 ポーションだ。いっぱいドロップしたぞ。


 俺はワクワクして近づき、ポーションを拾いあげる。ステータスを開きながらひとつ飲むと『HP 200』『MP 600』が回復した。即効性があってこの効果。やっぱり天然ものってすごい。


 残りもがぶ飲みする。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【Status】

 赤谷誠

 レベル:0

 体力 1,000 / 1,000

 魔力 7,700 / 20,000

 防御 1,000

 筋力 30,000

 技量 10,000

 知力 0

 抵抗 0

 敏捷 4,000

 神秘 0

 精神 3,000


【Skill】

 『スキルトーカー』

 『応用体力』

 『発展魔力』×2 

 『応用防御』

 『発展筋力』×3

 『発展技量』

 『応用敏捷』×4

 『応用精神』×3

 『かたくなる』

 『やわらかくなる』

 『くっつく』

 『筋力で飛ばす』

 『筋力で引きよせる』

 『とどめる』

 『曲げる』

 『第六感』×3

 『瞬発力』×3

 『筋力増強』×3

 『圧縮』

 『ペペロンチーノ』

 『毒耐性』

 『シェフ』

 『ステップ』×2

 『浮遊』

 『触手』

 『たくさんの触手』

 『筋力で金属加工』

 『手料理』

 『放水』

 『学習能力アップ』

 『温める』×4

 『転倒』

 『足払い』


【Equipment】

 『スキルツリー』

 『重たい球』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 ポーションそれぞれの効能に差があったらしく、HP・MPのそれぞれの回復値は異なっていた。

 なお1本だけポーションは残しておく。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

『治癒と魔力のポーション』

使用によりHPとMPを一定値回復させる

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 アイテム詳細ではアイテム名を確認できる。『治癒と魔力』という文言がついている通り、HPとMP両方回復させるポーションだ。すでにHPが全快しているので、いま使ったらもったいない気がしたので、こいつを使うタイミングは少し考えることにする。

 

 その後、ボス部屋を散策したがこれといって面白いものはなかった。

 たぶんポメラニアンケルベロスを倒した報酬として、この鍵を手に入れるはずだったんだろうけど、先に報酬を受け取ってしまったんだろう。


 白い霧のかかっていた出入り口は解放されていたので、ボス部屋を出る。


「うあ、眩し」


 ボス部屋の前、強い灯りが俺の顔を照らす。

 からんっとした音とともに光源が絞られる。


「あっ、ミスターアイアンボールだ」

「グウェンダル先輩?」

「やっほー、光源を持ちこんだ賢き1年生よ。具合はどう? ダンジョン攻略は順調かな?」


 気軽に話しかけてくるな。もっと競争みたいな雰囲気だと思ってたんだけど。


「それはどうですかね。攻略もなにも、どこに石板があるのかもわからなくて」

「ふむふむ。ボス倒したってことは鍵を手に入れたってことだよねえ……」

「なんでわかるんですか?」

「心苦しいんだけど、アイアンボールくんさ、その鍵こっちに渡してくれたりしないかなぁ」


 おかしいですよ、グウェンダル先輩、ちょっと怖い顔してますよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る