お好きなものをどうぞ

 学校側から用意されていたアイテムたち。

 さまざまな形状の刀剣。刀、サーベル、マチェーテ、ククリ刀、そのほか多数。

 鈍器も豊富で、金槌や棍棒、トンファーなどがある。手斧やピッケル、シャベルも陳列してる。

 他にもロープや、ヘルメット、そのほか使い勝手の悪そうなアイテムも多くある。なおどれも異常物質アノマリーではないようだ。アイテム表示がでないのでわかる。

 ぱっと見でそれらがなんなのかわかる。そしてそれらが古い道具であることもわかる。どれもこれも年季が入ってる。

 

「これはランタン? アンティークだ、可愛いなぁ!」

 

 グウェンダル先輩が楽しそうにランタン選びをしてる。彼女は第一の試練で重装備に身をつつんでいたが、いまは鎧を着ておらず、盾も持っていない。くびれのある腰の帯剣ベルトに一本長剣が差してあるだけだ。控え室に戻ってきた時には、いまの格好だったから、アイテムの制限をしって事前に脱いでいたのだろう。

 そうなると彼女はある程度、この第二の試練の情報を知っていたと考えることができる。彼女のアイテム選びは参考になるだろうか。


 俺はグウェンダル先輩を遠目にみつつそんなことを思いながら、白衣の背中に近寄る。

 

「これ絶対に使わないアイテムばっかですよね」

「最初の探索者とダンジョンの邂逅を描いているらしいからな。雰囲気で置いてあるアイテムは多いとは思うな」


 アイテム選びミスったら詰んだりしないかな。

 第一の試練といい、わりと俺たちに選ばせてくること多いな。


「銃か」


 薬膳先輩は中折れ式の回転式拳銃を手にとった。一応、銃や刃物の取り扱いは、授業で習っているので英雄高校の生徒ならだれでも銃器の取り扱いはわかっているはずだ。


「薬膳先輩、銃とか使うんですか」

「本当は持ちたいんだが、銃器の免許取るのだるくてな。いい機会だし使っておこうと思って。銃撃つの楽しそうだろ?」

「思い出で選んでるんですか」

「なあにこういうのは深く考えても仕方ないのさ。ダンジョンの様相がどうなっているかなんて外側からじゃわからない。直感を信じるほかない」


 なるほど。一理ある。


「あぁもし誤射して赤谷を撃ったらすまん」

「それは許しませんけどね」

「ケチだなぁ」


 ケチとかそういう問題じゃないと思います。探索者なら銃に撃たれた程度じゃ死にはしないだろうが。


「赤谷クン、松明だヨ」

「あ、ジェモール先生」


 机の端っこでアイテム選びしてると、我がパトロン・ジェモール先生からの密告があった。


「松明なんて使いますかね」

「ランタンでもいいヨ。とにかく安定した光源はあったほうがいいネ」


 そういえば志波姫も明かりがなんとかって言っていたな。さっきグウェンダル先輩もランタンを吟味してたし。点と点が繋がったぜ。

 ジェモール先生、マジで俺のこと応援してくれてるじゃん。

 俺は先生にお礼を言って、松明を選んだ。


「薬膳先輩、光源あったほうがいいですよ」

「光源? ふむ。暗いダンジョン、という説もあるか」


 俺は白衣の背中にアドバイスを送っておいた。


「代表者たちの準備が終わったようです! いよいよ蛞蝓の試練スタートです!」


 実況の声が競技場を席巻するなか、長谷川学長は大声で、


「石板を獲得したら、そのまま君たちの第三の試練がはじまる! 第三の試練に挑めるものは、石板を手に入れたものだけだ! 最初に石板に触れたものが第三の試練を突破した時、そこで探索者物語は終わりとなる!」


 と代表者たちへ競技の終わりについて説明した。


「それじゃあ、石板を遅く手に入れても意味ないってことですか?」

「そういうわけじゃない。第三の試練に挑めるのはひとりずつということだ!」


 最初に石板を手にいれることができたとしても、第三の試練に失敗すれば、今度は2番目に石板を手にいれた代表者にチャンスがまわってくるってわけか。

 文言から察するに、おそらく石板はひとつしかない。スピード正義な感じはある。急いだほうが絶対いいだろうな。


「最後の試練の内容は、試練をとりおこなう獣から説明があるはずだ! 諸君らの健闘を祈る!」


 黒い壁に4つの扉が出現した。

 それぞれにシマエナガとナメクジ、ハリネズミの絵が描かれている。

 シマエナガの扉は2つある。


「赤谷、お前に選ばせてやろう」

 

 薬膳先輩が譲ってくれたので、利き手の右側の扉を選んだ。


 ふと見上げると巨大モニターに俺の顔が写っていた。

 もしかしたらあのモニターでダンジョン内での俺たちの活躍とは映されるのかな、とか思っていると雷管の炸裂する音が響き渡った。


 全員がそれぞれの扉を開いて、一斉にダンジョンへ突入した。

 背後の扉が閉まると、競技場の喧騒が嘘のように静まりかえった。

 ただ扉一枚挟んだだけなのに、音がくぐもった感じに聞こえる。


「暗いな」


 最初に抱いた感想なそんなものだった。

 ダンジョンのなかは光源がなさそうだった。

 ダンジョンホール事件で巻き込まれたダンジョンや、訓練棟の擬似ダンジョンとは様相が異なる。


「てか、この松明、火がついてねえじゃん」

 

 俺は松明を掲げ『火吹き』を使用した。油の染み込んだ布の巻きつけられた先端が滑らかに燃えあがる。さっそく役に立ったな。


 ひたすらの黒のなか、ボワっと炎が灯り、周囲を照らしだした。

 湿った足元、つま先を少し動かせばジャリっと靴底と砂利の擦れる音がする。

 耳をすませばピチャピチャと音がする。湿った、冷たい空気の香り。イメージだけで語るならマイナスイオンが満ちていそう。


 黒い湿った煉瓦作りの廊下が続いている。非常に暗く、いく先は闇に覆われている。

 進みたくないという気持ちが湧きあがる。なるほど。確かに光源は必須かもしれない。


「本物じゃないから、擬似ダンジョンなんだろうけど、いつものとは違うな」


 ダンジョンは元々薄明るくなっていて、光源を持ち込まなくても大丈夫なところが多いのは今日では有名な話だ。

 それはスキルやステータスを俺たち人間にもたらした存在の恩寵というのが現在の学説では有力らしい。

 本来、暗く視界すら効かない世界で、人間は活動ができないのだ。


 このダンジョンにはそれがない。視界ゼロ。本物ではない、擬似だからか。祝福は働かないのか。

 

 コツコツコツコツ、と靴底を鳴らして、ダンジョンを進む。何が出てくるのか。どこに石板があるのか。

 そんなことを思っていると、小さな影が黒煉瓦の地面をちょこちょこ移動しているのが見えた。


「ぽめえ〜!」

「ポメラニアン、だと」


 今日はいろんなポメラニアンを見たが、これは本物だ。本物のポメラニアンだ。

 

「おいどうしたんだ、こんな暗いところで。おいでおいで、よしよし」

「ぽめ、ぽめ、ぽめ!」

「ん〜可愛いねえ〜、じゃあひき肉になろうねえ〜♪」

「ぽめええええええええ━━━━(断末魔)」

「んぅぅ新鮮なポメラニアンをぶちのめすと心が解放されるなぁ〜!」


 ポメラニアンをしばき倒し、光の粒に還す。サイズ的に5階層のポメラニアンだったと思う。

 体育祭実行委員やったポメラニアン捕獲作戦の成果がここで生きているのだろう。あの時捕まえたポメたちは今ここにいるんだ。


「……っ」


 俺は口元を押さえて、まずいことをしたと気がついた。

 いまのポメは、顔面を鷲掴みにしてそのまま頭蓋を果物みたいに潰した。いつもの癖で妙なことも口走った気がする。

 動物愛護とか倫理とか、何かしらひっかかりそうなので、今のシーンが競技場のモニターに中継されていないといいのだが。


「ん、なんか落ちたな」


 光に還ったポメラニアンがなにかをドロップした。


 ━━競技場では


 巨大モニターにはポメラニアンを鷲掴みにして破壊する赤谷の姿が映っていた。


『んぅぅ新鮮なポメラニアンをぶちのめすと心が解放されるなぁ〜!」』

「ミスターアイアンボールのとんでもない本性が記録されてしまいました! 我々は今夜、赤谷誠のポメラニアン殺しを見届けることになりそうです!」


 会場は「5階層クラスのポメラニアンを素手で……」「待ってあいつだけなんか強くね?」「さいてー!」「素手でぎゅってやって倒したぞ」「パワー系の戦い方じゃねえか」「なんで剣使わないんだ」「あいつは素手で獲物の肉を千切るのを楽しんでるんだ。俺にはわかる」「あの一年生怖すぎだろ」「ひとり言やば」と、競技場はミスターアイアンボールの恐るべき殺戮ショーに良くも悪くも沸いていた。

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