探索者物語、第二の試練、蛞蝓の試練

 控え室に戻ると、代表者がみんな集まっていた。


「あれ? 掃除してくれたんですか」


 先ほど黄金の経験値を取り出す際にはじけたマンホール蓋の残骸が、綺麗さっぱりなくなっていた。

 

「別に大したことじゃあない」


 薬膳先輩、いいところあるじゃないか。


「恩を着せるわけじゃないが、雛鳥への報復に参加すればこの借りはチャラにしてやろう」


 だめだった。結局、雛鳥先輩にすけべするための布石だった。好感度あがりかけたんだけどな。


「触手は使いませんよ。俺、雛鳥先輩に嫌われたくないですし、シンプル逮捕されたくないんで」

「話のわからんやつめ。やることやったら催眠ガスで意識を飛ばして、記憶を消してやると言っているのに。記憶さえ飛ばせばなにしても許されるんだぞ?」

「崩壊論者予備軍の方ですか?」


 俺は薬膳先輩がダークサイドに堕ちないか心配です。


「諸君、集まっているようだな」


 控え室の扉がバタンっと開き、先生たちが入ってきた。先頭はもちろん長谷川学長だ。

 

「第二の試練への心構えは十分かね。舞台の設営は完了している。もし準備が十分ならもう移動しようと思うが」


 長谷川学長の視線がグウェンダル先輩やソンウ先輩、薬膳先輩と動いて、俺で止まる。


「よろしい。では、行こう」


 長谷川学長含め、先生たちとともに競技場へ移動する。

 今回は順番に試練に挑むのではなく、代表者一斉に試練が行われるようだ。

 

 競技場に入場すると、応援席から盛大な拍手で迎えられた。

 吹奏楽部の演奏が響き、すっかり暗くなっ夜空には星々が輝いている。


 先ほど砂のフィールドが敷かれていた場所には、黒い壁で囲われた箱のようなものが置いてある。ちょうどサッカーコートを覆い尽くすほどのサイズで、この黒い壁の内側がどうなっているのか、同じ高さからでは推測することもできなかった。

 

「これはダンジョンだ! 蛞蝓のダンジョンだ!」


 ダンジョン。この壁の内側はダンジョンになっているのか。


「第二の試練では、このダンジョンで君たちは石板を探す! 血の樹に納められていたあの石板だ!」


 代表者競技選抜の時、中庭で俺たちが見たやつのことだろう。

 血の樹の幹の中に収められていたあの古ぼけた石板だ。

 

「諸君、もっとよりたまへ!」


 長谷川学長はさっきから叫んでいるが、競技場がお祭りムードでうるさすぎて声がめちゃ聞こえずらい。

 俺たち代表者は長谷川学長とあわせて5人で頭を突き合わせるくらいの距離に近づく。


「このダンジョンには様々な困難が待ち受けている! 不可解なことも起こるだろう! だが、そのすべてを乗り越えなければならない! もし試練の続行が困難だと判断したら、これを使いなさい!」


 長谷川校長はポケットから4つ指輪をとりだした。飾り気のない指輪だ。代表者がひとつずつ受け取る。


「その指輪は『離脱者の指輪』だ! 使用後すぐにダンジョンの入り口に戻れるはずだ!」


 使い方を教わる。


「さあ時間が迫ってきた、ダンジョンが解放される、アイテムを選びたまへ!」


 長谷川学長は机を手で指し示した。


「アイテムってなんですか?」

「さあ間もなく、第二の試練がはじまります! 第二の試練、蛞蝓の試練は、20世紀初頭に起こった最初の探索者たちとダンジョンとの出会いをモチーフにした競技です! 謎の島に辿り着いた探索者たちを待ち受けていたのは、ダンジョンに犯された危険な試練の数々、彼らはその時はじめて超常の祝福に目覚め、のちにこの帰還者たちはダンジョン財団を創設しました! これが今日にいたるまでダンジョンから人間世界を守る戦いへと続いていきます!」


 放送部のデカい声がひと段落したところで、長谷川学長は開きかけた口を動かす。


「赤谷誠、あそこでアイテムを選びなさい。当時の探索者たちが実際にダンジョン探索で使っていた品々だ。この試練で役に立つかもしれない。自分のセンスを信じて、何が必要になるか見極めろ。あぁそうだ。大事なことを言い忘れていた」

「大事なこととは」

「ダンジョン装備の持ち込み制限だ。第一の試練では制限はなかったが、第二の試練では制限がある。この試練は持てる実力すべてを使って怪物を倒すというより限られた力の使い方を試されるものだからな」

「まじですか……俺、いっぱいあるんですえど」

「持ち込めるダンジョン装備は2つまでだ。その剣は本来2つの鉄球は組み合わせたものだが……まあ1つ扱いでいいだろう」


 斬撃異常長剣ブレードソードにしておいてよかった。


「それじゃあ剛材のほうも組み合わせればひとつ扱いでいいですか」

「あえてレギュレーションを突破しようとするんじゃない。そのままでいいが、第二の試練ではあっちにあるアイテムが役に立つ。持っていくことをおすすめする」


 俺はトランクと『蒼い血』を預けておき、残り1つの装備を選ぶことにした。心理では剛材を持っていきたいが、わざわざ持っていくアイテムが提示されている手前、それを無視する尖った行動をとるのは抵抗があった。


 ほかの代表者たちが向かっている机に、俺も近づく。

 会議室に置かれている横長の机がいくつも並べられている。

 それぞれの机に、馴染みのない道具が陳列されていた。

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