スキルトーカー
どういうこと? え? 俺いま火吹いたけど?
ツリーキャット燃えてるし。
「にゃー! にゃあぁあ! にゃああ━━━━!」
「もちつけ」
狂乱のツリーキャットを持ち上げて、尻尾を叩いて消火した。ちょっと焦げちゃってるな。
「にゃー(訳:愛護団体に駆け込む準備はできてるにゃ!)」
「元々黒いのであんまり目立たないぞ。安心しろって」
「にゃあ(訳:そういう問題じゃないにゃー! やれやれ、これだから赤谷くんは困るにゃ。猫の気持ちを学んでほしいものにゃ)」
「そんなことより、俺いま火を吹いたんだが」
「にゃーん(訳:どうして火を吹いたにゃー?)」
「それは俺が聞きたいんだが」
俺とツリーキャットは顔を見合わせ、互いに首を傾げる。
「にゃあ(訳:そういうスキルを取得したわけじゃないにゃ?)」
「違う違う。火を吹くスキルなんて持ってないって。そもそもいきなり火を吹いてツリーキャットを襲う理由がないだろう」
「にゃー(訳:私がスキルツリーの予期せぬ進化を把握してなかったからキレたのかと思ってたにゃ)」
「俺がそんなことするか」
「にゃ(訳:たぶん)」
あんまり信用されてなかった。
「にゃー(訳:でも、それじゃあなんて火を吹いたにゃ?)」
「知らないって。なんか、こう、いきなりムズムズしてさ、くしゃみしちゃったんだ。そしたら火が出たんだ)」
「にゃー(訳:本当に赤谷くんのスキルじゃんないにゃ?)」
「もしこれが俺の能力だったとしても、自分のスキルをコントロールできないなんてありえない」
ツリーキャットは思案げにし、ふと、トイレの方を見やる。目ぼしいものはない。男子生徒が2名で連れションしてるだけだ。
「にゃー(訳:持っていないスキルの発動、スキルコントロールに優れる赤谷くんが暴発させてしまう……なるほど、見えてきたにゃ、スキルツリーが発現させた能力が)」
「有識者キャット、ついに繋がったのか?」
「にゃあ(訳:秘密はあの男子生徒にゃ。あの男子生徒に火を吹くことができるかを確かめるにゃ)」
ツリーキャットの言葉に聞いて、俺もなにが起こったのかを薄らと察した。
そういえばさっきすれ違った時に「火吹きで脅かしてやった」的な話をしていたような気がする。
「でも、わざわざ話しかけるのはなぁ……」
「にゃー(訳:こんなところでコミュ障を拗らせている場合じゃないにゃ)」
「コミュ障とかじゃない。必要か不必要か、あるいは気遣いの問題だっての」
なんやかんやツリーキャットと言い合っていると、トイレの男子たちはそのまま前を通り過ぎていってしまった。結局、話しかけることはなかった。
「まあ、別に話しかけなくたって察したさ。つまるところ俺はあれだろ、コピーしたってことだろう?」
「にゃん(訳:おそらくは)」
俺は再びトイレにこもり、スキルツリーを展開する。
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【Status】
赤谷誠
レベル:0
体力 600 / 1,000
魔力 4,180 / 20,000
防御 1,000
筋力 30,000
技量 10,000
知力 0
抵抗 0
敏捷 4,000
神秘 0
精神 3,000
【Skill】
『スキルトーカー』 NEW!
『応用体力』
『発展魔力』×2
『基礎防御』
『発展筋力』×3
『発展技量』
『応用敏捷』×4
『応用精神』×3
『かたくなる』
『やわらかくなる』
『くっつく』
『筋力で飛ばす』
『筋力で引きよせる』
『とどめる』
『曲げる』
『第六感』×3
『瞬発力』×3
『筋力増強』×3
『圧縮』
『ペペロンチーノ』
『毒耐性』
『シェフ』
『ステップ』×2
『浮遊』
『触手』
『たくさんの触手』
『筋力で金属加工』
『手料理』
『放水』
『学習能力アップ』
『温める』×4
『転倒』
『足払い』
【Equipment】
『スキルツリー』
『蒼い血』
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「スキルトーカー……?」
「にゃあ(訳:赤谷くんが覚醒したスキルみたいだにゃ)」
「まさか俺にもスキルが覚醒する日がくるなんて」
「にゃあ(訳:毎日のように覚醒させてたにゃん)」
「それはスキルツリーでスキルを解放するやつだろ。自然な覚醒とは違う」
俺は緊張しながらスキル名を指でなぞり詳細を確認する。
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『スキルトーカー』
アクティブスキル
スキルを記録できる
【コスト】なし
祝福解読は計画的に
【記録スキル】
『火吹き』
アクティブスキル
【コスト】MP20
ビビらず吹けば火傷しない
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「見えたぞ、つまり『スキルトーカー』があれば他者の祝福を解読して、自分のものにすることができるってわけだ」
「にゃあ〜(訳:非常に強力なスキルを手に入れたにゃ。これはスキルのなかでも特別なものに思えるにゃ)」
「相手の能力を奪う……いまいち発動条件が不明だな。いますれ違っただけだよな? 複雑な手順が必要ないのか」
もしかしてすれ違っただけであらゆるスキルをコピーできるとか?
「悪の親玉が使ってそうなのがネックか」
もっと普通に強い感じになりたかったんだけどな。
ファンネル飛ばしたり、触手生やしたり、能力奪ったり、いや面白いとは思うんだけど、なんだろう、モヤるな。
瞳を閉じて意識を『スキルトーカー』へ向ける。
「にゃあ(訳:でも、火吹きじゃ何にもできないにゃ。スキルをいくつまで記録できるのか試してみたいところだにゃ)」
「そんな何個もできる感じはないけどな」
「にゃ(訳:どうしてわかるにゃ?)」
「感覚。スキルトーカーで捕まえたスキルが……ちいさい箱のなかに入ってる感じがある。その箱はもう窮屈でいっぱいなんだ」
「にゃあん(訳:やっぱり私よりもスキルツリーを宿してる赤谷くんのほうが知見が増えつつあるようだにゃ)」
「探索者物語、第二の試練開始、15分前です、代表者の皆さんは控え室にお集まりください」
放送部の声が競技場に鈍く響き渡った。
「にゃ(訳:急いでもっと有益なスキルをもらいに行った方がいいにゃ。火吹きじゃ仕方ないにゃ。これでは火吹きナマズと志波姫くんに罵倒されるのがオチにゃ)」
「火吹きナマズって……いや、あいつなら言いそうだけどさ」
本当に言いそうです。というか絶対に言う。
「でも、スキルをもらいに行くって言っても、そもそも入れ替えられるのかもわからないし、能力の発動条件もいまいちわかってないんだけど……うん、いまはやめておこう、俺は新しいスキルは入念に検証しないと気が済まないタイプなんだ。既存のスキルとの組み合わせとか考え出したら代表者競技に集中できない」
「にゃーん(訳:それもそうかもしれないにゃん。強力なスキルでも、付け焼き刃ではどうしようもないにゃん)」
俺は『スキルトーカー』のことを一旦頭の隅へ追いやり、控え室に戻ることにした。
次なる試練は第二の試練。蛞蝓の試練。志波姫から多少情報はリークしてもらえているが……いったい何をするのだろうか。
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