黄金の経験値
黄金の経験値、まさか万年レベル0の俺でもレベルアップできるんですか?
「開け方を教えてやろう、赤谷」
「開け方?」
薬膳先輩に教えてもらったところ、この黄金のマンホールみたいなのは実は箱だという。
円盤の中心点を指で連打すると壊れて中身が取り出せるらしい。
「1秒間に16回指で押す必要がある」
「面倒くさい仕様ですね」
秒間16回って普通にハードだ。
「間違えて試練中に開かないための工夫だろう。あるいは試練中に食べられない工夫か……」
薬膳先輩に見守られるなか、俺は高速でマンホールの中心、ちょっと窪んだ部分を指で押しまくった。
プシュッと音を立てて黄金の経験値が割れて、蓋が外れる。中には綺麗に並べれられた金色の貨幣みたいなものが入っている。
「これは?」
「それが黄金の経験値だ。食べるのだ、赤谷」
「薬膳先輩ももう食ったんですか」
「味は好みが分かれるかもな」
聞いてないのに現在にまずいって言われた気がする。
恐る恐る1枚手にとって口に放り込む。
「うぐっ!」
「どうした赤谷! 大丈夫か!」
「右腕が、うずく……っ」
「なんだそういう感じか。今年の一年は病気持ちが多いな、やれやれ」
いや、違うんだって、マジで腕のなかで、スキルツリーが蠢いてるんだって。
腕を押さえ、飛び出したがっているスキルツリーを抑制する。どうどう。落ち着け。
だめだ。落ち着く気配がない。今にもあたり一面を血まみれにしてしまいそうだ。
「ちょっと用事を思い出しました、失礼します」
「レベルアップしているところを見られたくないののか。恥ずかしがり屋だな。まあ仕方ない。俺は先輩だから、赤谷よりも大人だ。気遣いができる。詮索はしないでやろう」
黄金の経験値たちをポケットに入れて控え室をでる。
トイレにかけこみ、俺はスキルツリーを解放した。
ぐわっと勢いよく飛びだし、血を撒き散らし、肩のあたりまで傷が広がって、真っ赤な幹が生える。
「元気だな、どうしたんだお前。もしかしてレベルアップしたことで変化が?」
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【Status】
赤谷誠
レベル:0
体力 600 / 1,000
魔力 4,200 / 20,000
防御 1,000
筋力 30,000
技量 10,000
知力 0
抵抗 0
敏捷 4,000
神秘 0
精神 3,000
【Skill】
『応用体力』
『発展魔力』×2
『応用防御』
『発展筋力』×3
『発展技量』
『応用敏捷』×4
『応用精神』×3
『かたくなる』
『やわらかくなる』
『くっつく』
『筋力で飛ばす』
『筋力で引きよせる』
『とどめる』
『曲げる』
『第六感』×3
『瞬発力』×3
『筋力増強』×3
『圧縮』
『ペペロンチーノ』
『毒耐性』
『シェフ』
『ステップ』×2
『浮遊』
『触手』
『たくさんの触手』
『筋力で金属加工』
『手料理』
『放水』
『学習能力アップ』
『温める』×4
『転倒』
『足払い』
【Equipment】
『スキルツリー』
『蒼い血』
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ステータスが変化してる雰囲気はなかった。
「にゃあ(訳:スキルツリーが膨大な経験値を取り込んで喜んでいるにゃ)」
「ツリーキャット、どこから湧いた」
「にゃーん(訳:私はいつだって赤谷くんのことを見守っているにゃん)」
「スキルツリーが喜んでるってどういう意味だ」
「にゃん(訳:そのままにゃ。黄金の経験値を取りこみ、スキルツリーが新しい力に目覚め始めているにゃん。これは予想外の変化だにゃん)」
「新しい力?」
「にゃあ(訳:まったく不明だにゃん。でも、うーん、スキルツリーは今、本当の意味でその可能性を開きつつあるのかもしれないにゃん。すべてのスキルにアクセスする力。もしかしたらそれが感じられるのかも……しれないにゃ)」
「ふわっふわしてるな」
「にゃー(訳:まさかこんなことが起こるとは思ってなかったけど、悪い変化ではないはずにゃん。残りの黄金の経験値も食らえばその力が覚醒することになると思うにゃん)」
俺は黄金の経験値を残さず食した。なお味については少し鉄くさく、感触は硬いクッキーみたいだった。食べれないことはなかったが、進んで食べようとは思えない味だった。
レベルアップはしなかったが、たぶん強力なチカラが手に入った。ふわっふわした強力なチカラだ。
「どんな能力なのかもわからないんじゃ、試しようがないな」
「にゃー(訳:大丈夫にゃ、赤谷くんはスキルツリーを育てる者。力の使い方は赤谷くん自身が……スキルツリーが教えてくれるはずにゃ)」
「ツリーキャットは有識者なのにわからないのか」
「にゃ(訳:私はあくまで育てるのが仕事にゃん。ツリーそのものではないにゃん。ツリーの力に関しては、きっと赤谷くんのほうがいずれ詳しくなる日がくるにゃ)」
「こねえだろ。普通に」
ツリーキャットの言っている意味はよくわからなかったが、新しい力の発現は、とりあえず成り行きに任せるほかない。
スキルツリーを収納して、トイレをでる。
「でさー、この前、ちょっと喧嘩になっちまってついカッとなって火吹きで焼いてやったんだ」
ぺちゃくちゃ談笑してる男子生徒たちとすれ違う。
その直後だった。やたら喉の奥がイガイガしてきてきた。
耐え難いほどの衝動。鼻がムズムズし、俺は生理現象に導かれるままに、大きなくしゃみをした。
真っ赤な色彩と、肌を温める熱、焦げた匂いがぶわっと広がった。
「にゃ、にゃあー!(訳:燃えるにゃー!)」
尻尾に火がついて大慌てて走りまわるツリーキャットをよそに俺は自分の口元に触れて確かめる。温かい。てかあちい。
我を疑った。だが、確かな事実。いましがた視界を支配した赤き炎は俺の口から噴出されたものだったのだ。
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