代表者控え室にて
「すげえ、赤谷すげえ!」
「まじですげえじゃん、すげえ」
「すげええ、すげええ!」
競技場から退場しようとすると、語彙力の低下を感じるクラスメイトたちが応援席から拍手と称賛の滝を降らせてくれた。
いい気分になって黄金の経験値を掲げて、笑顔で応じる。
「赤谷、お疲れ様!!」
「すごいじゃん、赤谷」
「もしかして赤谷ってできるやつなの?」
笑顔で手を振り、ぴょんぴょんする林道も見える。
その友達たちもどこか意外そうな顔で、だけどなんだか嬉しそに讃えてくれた。
普段サッカー見ないけど、ワールドカップ始まったら自然と自国を応援するやつだろう。属しているコミュニティが強いと不思議といっしょに盛り上がれるというやつだ。
と、思ったのだが、見たところシマエナガギルド以外の生徒たちも割れんばかりの拍手を送ってくれている。
属するコミュニティという意味では、俺はシマエナガギルドの代表であり、ナメクジやハリネズミからしたら敵なのだが。
「流石だな、我が同志よ」
控え室に戻る廊下で、壁に背を預けて腕組みしている薬膳先輩と会う。待っていたんだろうか。
「なんかめっちゃいろんな人に褒められました」
「どうだった」
「なんとも。悪い気はしませんよ」
「去年もそうだったが、代表者競技はギルド競技と違ってギルド間の垣根はないものだ。そもそも試練が困難なものだから、そもクリアできるかどうかハラハラする。試練を越えられれば数日は学校中でヒーローになれるわけだな」
「ヒーロー持続時間が数日なのリアルすぎて嫌になりますけどね」
「そういうものさ」
「そういえば薬膳先輩はどうだったんですか。俺、控え室にいて先輩の試練見てなかったんですけど」
「当然、乗り越えたさ」
不適に笑みを浮かべる薬膳先輩。
廊下の向こうから先生たちがやってくる。
長谷川校長やオズモンド先生、ジェモール先生の姿がパッと目につく。
「先に控え室に入ろうか」
薬膳先輩と控え室に入る。
人影がベンチに腰掛けている。
ソンウ先輩だ。スマホを横にしてイヤホンをし動画を見ているらしい。チラッと視界に画面が入ると、可愛い女の子同士がもみくちゃしてる感じのアニメだとわかる。こういう寡黙なイケメンの人の知られざる一面を知ってしまったようでちょっと気まずい。
がちゃ
扉が開き、先生たちが入ってきた。
ソンウ先輩はぴくっとし、イヤホンを外しスマホをしまう。
「お疲れ様、諸君! 素晴らしい戦いだったよ、シマエナガたちを退け見事に黄金の経験値を獲得した! ブラボー。今年は4名全員が第二の試練に進めた。めでたいことだな」
長谷川学長ら先生たちが過剰なくらい拍手をしてくれた。
「おや、ひとり足りないな。誰だ、あぁ、グウェンダルか。どこに行ったんだね?」
「俺たちが来た時にはもういませんでした」
なぜか俺のほうを見て聞いてきたので思わず返事する。ソンウ先輩のほうが先にいたので視線を送りそれとなくたずねるも「応援席のほうですよ、たぶん」とボソッと言った。
「あっ、すみません」
声が控え室の外から聞こえてくる。先生の群れの向こう、廊下にグウェンダル先輩がいた。
「もう始まってましたか?」
「大丈夫だ、まだ話してない、ほら入りなさい」
「失礼しまーす」
先生の波を割って、控え室にひょこひょこ肩身狭そうに入ってくる。グウェンダル先輩以外の男3人はたぶん友達があんまりいないから談笑して遅刻する心配はないっと。え? ソンウ先輩はわからないって? 見ればわかるんだ、俺くらい訓練された陰キャはさ、同族の匂いってのが。
「あっ! ミスターアイアンボール君だ!」
「あ、どうも、あっ」
「見てたよ。かっこよかったよ。1年生なのにやるねえ〜!」
グウェンダル先輩は眩しい笑顔で、つんつんっと指先で胸を突いてくる。はい好き。もう好き。告白していいですか。
「帰ってこい、赤谷……っ、正気に戻れ」
「はっ、危ねえ、また勘違いするところだった」
薬膳先輩に引き戻してもらわなかったら危ないところだった。
雛鳥先輩の時と同じだ。可愛い、巨乳、年上、女子。グウェンダル先輩も危険すぎる。そんなスキンシップされたらすぐ好きになっちゃうでしょ。やめてよね。男子の恋心弄ぶの。
「では、全員揃ったことだ。第二の試練について話させてもらおう。第二の試練は1時間後の、19時45分スタートとする。集合場所はこの競技場の控え室、つまりここだ。時間までに集まるように。君たちがいなければ競技を始めることができないからな。なにか質問は? ないな。では、次なる試練までゆっくり休みたまへ。あぁ祝福を忘れずな」
長谷川学長は俺が手に持っている黄金の経験値を指差し、ニコッと薄く笑みを浮かべた。
先生たちが控え室から退散し、代表者だけが残される。グウェンダル先輩はソンウ先輩と3分ほどぺちゃくちゃ喋るとすたたーっと控え室を出て行ってしまった。人気者はやること多くて大変そうだ。
控え室に残されたのは、それぞれ自分のスマホに視線を落とす3名の男子生徒だけ。会話はない。たぶん全員コミュ障陰キャ。地獄かな。
「赤谷、それ使わないのか」
薬膳先輩はふとスマホから視線をあげ、黄金の経験値を指差した。
「使うってなんですか」
「なんだ知らないのか。長谷川学長も言ってただろう。『祝福を忘れずにな』って。黄金の経験値はその名前のとおり経験値の塊だ。食べれば膨大な経験値が手に入る」
膨大な経験値、だと? まさか万年レベル0の俺もレベルアップできるというのか……?
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