4匹のシマエナガ
午後4時過ぎ、俺は競技場の裏手、通用口のほうへ連れていかれた。
天井の高い広々とした空間の一角、長谷川学長やオズモンド先生、ダビデ寮長らが集結しているのを発見する。
薬膳先輩の姿や、3年生の代表者選手たちの姿もあった。金髪の美人はナメクジギルドの代表者ルフナ・グウェンダルと言ったか。鋭い目つきのイケメンはハリネズミギルドの代表者イ・ソンウだったはずだ。
皆の視線がすべてこちらに向く。俺は知っている、この視線の意味を。遅刻して教室に入った時の、あの視線が集まる感じにすごく似ている。
「遅れてすみません」
「別に構わないさ。時間には間に合った。さあ始めよう。第一の試練、挑むべき怪物を選ぶのだ」
長谷川学長が言うとダビデ寮長が大きなマシンをもってきて、俺たちの目の前に置いた。
一言で表現すれはガチャガチャというやつだろう。ショッピングモールの入り口とか、ゲーセンの一角などに置いてあるやつだ。あるいは今はソシャゲを思い浮かべることのほうが多いだろうか。
「代表者競技では3つの怪物にちなんだ試練に挑んでもらうことになる。シマエナガ、ナメクジ、ハリネズミ。最初の試練はシマエナガにちなんだ試練に挑むことになる」
事前に聞いていた通りだな。情報は正しかったわけだ。
「これはシマエナガガチャという。諸君ら代表者には今からコレを引いてもらう。では、まずはルフナ・グウェンダル、前へ」
金髪美人の先輩がガチャのまえに移動する。
ノブに手を伸ばし、一回転させる。
機構が作動し、カプセルがひとつ排出された。輝く金色だ。
「ほう、金色のカプセルか。これはSR以上確定だな」
そういうシステムなんですか。ちょっと楽しそうすね。
長谷川学長はグウェンダル先輩に「開けてみなさい」と開封をうながす。
先輩は眉をひそめ、恐る恐るカプセルを開いた。
「これは……」
カプセルのなかから出てきたのはちいさなシマエナガの人形だった。
「それはシマエナガのなかでも穏やかな個体。ビッグシスターエナガだね。心優しく、慈愛深い。試練のために今回はその力を使うが、性格上、そこまで苛烈に攻めてこないだろう。御しやすい個体だ。アタリだね」
長谷川学長のグウェンダル先輩からソンウ先輩へ視線を移動させる。
「これはレア度が高いほうが良いんですか?」
「もちろんそうだ。だってガチャだからね」
ソンウ先輩は「ふむ」とうなづき、ガチャる。出てきたのは同じく金色のカプセルだ。SR以上確定。排出率よくね? 優良じゃん。
カプセルを開くと、おんなじような白いシマエナガの人形が出てきた。微妙に造形が異なり、こちらは頭のうえに癖っ毛がある。
「こちらはリトルシスターエナガだ。ツンデレ気質だが、心根は優しい子だ。彼女も意地悪なことはしないだろう。比較的御し易い怪物といえる」
今度は薬膳先輩の番だ。
排出されたのは白いカプセル。
開いて出てきたのは、これまた白いシマエナガの人形だ。
こちらも微妙に造形が異なる。
「これは普通のシマエナガだね。敵対者に手心は加えない。激しい攻撃を潜り抜ける必要があるだろう。頑張りたまへ、薬膳卓」
長谷川学長は分厚い手で薬膳先輩の肩をたたき「して最後だ」と、俺のほうを見てきた。
「さあ君もガチャの時間だ。赤谷誠、こちらへ」
緊張しながらガチャマシンの前にたち、そっとノブに手を伸ばす。
がちゃがちゃ。妙な引っ掛かりもなく、スムーズにまわった。心地よい動作音が響く。
「これは!」
先生のひとりが思わず声をあげた。
たぶん、出てきたカプセルが黒かったせいだろう。
「黒いカプセルなんですけど……もしかしてこれはUR確定演出ですか?」
「……開けてみるといい」
なんで何も答えてくれないんですかねえ。
言われるがままに黒いカプセルを開けてみる。
夜の闇を切りとったような真っ黒のシマエナガが出てきた。
目元はキリッとしてて、怒ってるみたいに尖ってる。
見るからに悪そうな出立ちだ。
「なんか俺のだけ黒いんですけど……」
「それは反転状態、クロエナガだ」
「クロエナガ……?」
「シマエナガがダークサイドに堕ちた時に見られる姿で、非常に気性が荒い。荒ぶる邪悪、闇の鳥、そんな風にも呼ばれることもある。攻撃性や凶暴性がとても高い。気をつけたまへ」
なんか俺だけやばそうなんですけど。てか、これなに。なんで俺たちガチャしたの?
「これから諸君らは試練に挑むことになる。試練には怪物がつきものだ。諸君らがいましがた引き当てた怪物こそ運命の選んだ対戦者。心して掛かるように。試練開始は2時間後。しっかりと準備をしてから挑むことだ。では、代表者たちよ、第一の試練で会おう」
そこで俺たちは一旦の解散となった。
先生や代表選手たちが解散するなか、俺は呆然とその場に立ち尽くした。
「なんで俺だけ黒いんだよ……」
ここぞとばかりにガチャ運のなさを発揮するなんて。本当についてない。
自分の境遇を呪いながらも、俺は一旦男子寮に戻り、ひとり静かに厨房で料理した。
「にゃーん(訳:赤谷くん、体育祭見てたにゃん。大活躍だったにゃあ)」
「ツリーキャット、俺の戦いはこれからなんだ」
「にゃ……(訳:こ、これは……)」
食堂には料理が3品並んでいる。
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『高級のペペロンチーノ』
熟達の料理人による逸品
おおきな祝福効果を持つ
【付与効果】
『攻撃力上昇 Ⅲ』
【上昇値】
体力 0 魔力 0
防御 0 筋力 0
技量 0 知力 0
抵抗 0 敏捷 0
神秘 0 精神 0
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『普通のハンバーグ』
基本に忠実につくられた一品
【付与効果】
『防御力上昇』
【上昇値】
体力 0 魔力 0
防御 0 筋力 0
技量 0 知力 0
抵抗 0 敏捷 0
神秘 0 精神 0
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━━━━━━━━━━━━━━━━
『普通の味噌汁』
基本に忠実につくられた一品
【付与効果】
『持久力上昇』
【上昇値】
体力 0 魔力 0
防御 0 筋力 0
技量 0 知力 0
抵抗 0 敏捷 0
神秘 0 精神 0
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作り慣れたペペロンチーノ、林道のためのハンバーグ、そして密かに練習し始めているお味噌汁。
食べ合わせはめちゃくちゃだ。だが、これらは俺を確実に強くしてくれる。
「いただきます」
「にゃあ(訳:赤谷くんは本気だにゃ。ベストを尽くすつもりにゃ)」
静かな晩餐を終え、ブレスケアを口に放り込み、シャワーを浴びてすっきりし、トランクを手に取って、少しずつ陽が傾く道を、覚悟の足取りで競技場へと向かった。
勝ち残れば名誉とか祝福とか手に入るらしい。でも俺が一番欲しいのは賞金だ。
勝者となれば賞金300万円が手に入る。手足が震えるような金額だ。本当に凄い。
夢のような話がいまは俺の手の届くところに降りてきてる。この機会逃したくない。マジで欲しい。
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