代表者競技、開幕
競技場のまわりには寂寥感の溢れる光景があった。
日が落ちてきて、昼間の暑さはすこしずつ勢いを失っていく。
平時なら下校時間の空気感のなか、生徒たちの服装は思い思いに変わっている。ジャージを着ている生徒は男子のほうが多く、女子らはすでに寮でシャワーでも浴びてきたのか私服に変わっている者たちが多い。
ここから先はアフターゲームだ。祭りのあとに続く尾鰭である。
みんなは体育祭で参加者として燃焼しきった。だから、この夜は傍観者に徹する。
ラフな格好で、ソフトドリンクや屋台の食べ物を手に応援席に再集合する姿を見ると、ここからまた非日常が始まるのだと感じられた。祭りの後の祭り。後夜祭とかって、体育祭本番とは違うワクワクがある。
俺は応援席の隅っこの方で、足元にトランクを置いて、手すりに前のめりで寄りかかる。
俺の出番はまだすこし先だ。控え室に行くまでに1戦くらいは見る余裕があるだろう。
閉会式から2時間経った競技場はその様相を一変させていた。
サッカーコートだったはずの芝フィールドには黄色い砂が敷き詰められており、そのまわりには柵が敷かれている。さながら中世の闘技場のようだ。
昼間のギルド競技仕様から、代表者競技仕様にレイアウトを変えたのだろう。
「これより代表者競技を開催します。ナメクジギルド代表者ルフナ・グウェンダル選手、島柄長の試練スタートです!」
実況の説明の半ばあたりから競技場に拍手が満ち溢れ、トラックの一角からひとつの人影が現れると、拍手は勢いを増し、黄色い声援と口笛のようなものまで響きはじめた。
現れたのはさっきのガチャの時も一緒だったグウェンダル先輩だ。
黄金に輝くブロンドを靡かせた異邦の顔立ちの美人。志波姫とは対極にある高身長は、ジャージではないダンジョン装備に包まれている。西洋甲冑のような鎧を着込んでおり、騎士のごとき姿だ。豊かな胸元や、肘、膝、肩などには厚く装甲があしらわれ、身体の左前側から背中まで分厚いマントが輝くブロンドと併せて風になびいており、やたらビジュアルが良い。
なびくマントのしたに腰に下げている剣が見える。左手には盾も持っており、狼っぽいシンボルすら描かれてる。1から10まで見た目がいい。ずるい。
「がんばれー! ルフナー!」
「ありがとー頑張るー!」
女子たちの黄色い声援にグウェンダル先輩は片手をあげて応じる。友達たちへ見せる笑顔は、可愛らしいもので、戦いの場へ進む凛々しいものとは打って変わって魅力的だ。
「ゴリラ女ぶちかませー!」
「黙ってろ、ぶっ殺すぞ」
からかう男子にはギンと睨みを効かせる。
グウェンダル先輩というあの人は、性の差なく、人気者なのだろう。
なんというのかな。強いカリスマ。俺みたいなのとは、他者への見栄えが違いすぎて気後れする。見栄えだけじゃない、人間性もきっと違う。優しくて、明るくて、冗談も通じる。どこへ出しても恥ずかしくない英雄。見るからに強く、綺麗で、頼りになる。人気があって、人望がある。望まれる者。
グウェンダル先輩は柵をひょいっと乗り越え、砂を踏み、フィールドに立つ。
何も起こらない。広大なフィールドでただひとりグウェンダル先輩は立ち尽くす。
「来たぞ!!」
誰かが叫んだ。応援席の生徒全員、そして巨大モニターに映像を映すカメラまでが、空を向いた。
天空より白い球が降ってくる。それは最初豆粒ほどの大きさだったが、近づいてくるにつれ、真のデカさを思い知らされることになる。
白球、着弾。フィールドの砂を盛大に巻き上げた。
内側からの風圧で、砂煙がばーっと払いのけられ、ついにシマエナガが登場した。
高さ10mはあるだろう、両翼を横におおきく広げた幅は20mはくだらない。
まさか怪鳥。まさか怪物。白いふっくらボディにクリッとした黒瞳が愛らしいが、そんなことどうでもよくなるくらいデカくて威圧的だ。
「ちーちーちーッ!!」
鳴き声は体格に似合わずやたら可愛い。本当は「ぢぃぃぃいい! ぢぃいいいいい━━━━!」という方が似合ってると思う。
フィールドの外から金色の円盤が投げ込まれる。マンホールの蓋くらいの円盤だ。
「黄金の経験値が投げ込まれたぁああ! 怪物シマエナガは経験値が大好きなモンスター! 代表者はシマエナガに守られている黄金の経験値を奪いわなければなりません!」
シマエナガからオブジェクト黄金の経験値を奪取する。それがこの競技の勝利条件か。
シマエナガは黄金の経験値をくちに加え「ち、ちーちー!」と少し喋りにくそうに鳴いた。
グウェンダル先輩は抜剣し、切先をシマエナガへ向け、何か言い、走りだす。たぶん「出たな、SR! いざ勝負だ!」とか言ったんだろう。知らんけど。
グウェンダル先輩は盾で堅実に攻撃を受け、剣でグサグサ遠慮なく攻撃し、狼とか召喚しながら、上手いことシマエナガを弱らせ、試練開始から3分ほどで黄金の経験値を奪取し、見事に試練を突破した。
シマエナガはフィールドのうえにコテンっと横たわり「や、やられたちー!」みたいな感じで、目元をバッテンにして倒れていた。
「赤谷誠クン、そろそろ控え室に行った方がいいヨ」
「もう行きます」
ジェモール先生にまたしても注意されつつ、俺は代表者選手控え室へと向かった。
なるほど、だいたい要領はわかった。
シマエナガがやってくる攻撃の種類も見えた。
さーてと、今夜のヒーロー、なっちゃいますか。
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