クラス対抗リレー

 熱気と歓声が競技場に満ち溢れ、若者たちのお祭りは最高潮に達する。

 借り物競走というのは、もしかしたら自分が関わるかもしれないという意味において、どこか一体感のようなものが、クラス全体、ギルド全体、ひいては生徒全体に宿る。

 俺もその熱気に飲まれ、また一体となっていることを自覚した。


「赤谷誠選手、最後の直線をぐんぐん駆けぬけ、いま見事ポメラニアンと共にゴぉぉぉ━━━━ル!!」


 志波姫神華の奇行……じゃなくて、勇敢な行動はシマエナガギルドに更なる勝利点をもたらした。

 俺はポメラニアンを手に、見事1着でゴールした。


「やった、凄いぞ、結構勝ってるんじゃないか、俺たち」

「誇りパイル勝利、借り物競走1着2回、すでに巻き返しは始まっている」


 俺と志波姫は互いに見合い、薄く笑んだ。目指す場所はひとつ、目的が重なりあい、気持ちにも一体感が生まれたような感じがあった。

 ふと志波姫は真顔になり、目元に影をつくった。いきなりの不機嫌だ。


「離しなさい」

「え? あぁ、すまん」


 ゴールするたけに彼女の手を握っていたのを思い出した。慌てて離す。

 志波姫はポメラニアン帽子もすぐに取ってしまい「それじゃあ」とさっさとトラックから退場してしまった。

 

 一瞬だけ一体感生まれた気がしたんだけどな。


 ━━しばらく後


 ギルド競技は筒がなく行われ、男女混合二人三脚でいちゃついてる生徒たちを見せられたあと、ついに最後の競技がやってきた。

 午後の部のシマエナガギルドの戦績はいい方だと思う。理論上獲得できる勝利数とほぼ同じだけ勝っている。負けたのは2回くらいだ。


「誇りパイル30点、借り物競走3勝60点、くだらなイチャイチャ二人三脚20点、俺の計算だと、次のリレーを勝てば1位に20点入って、2位に15点、3学年全部で勝てば105点、合計215点獲得で十分に逆転はありえる」

「勝てるよ、たぶん。私たちなら」


 隣のヴィルトに言うと、ぼそっと返事がかえってくる。じーっと見てくる視線はなにか言いたげだ。


「どうしたんだ……?」

「別になんでもないよ。ただ、志波姫さんと走ってたねって思っただけだよ」

「あぁ借り物の話か。そうだな、珍しいこともあるもんだよな。まさかあの志波姫がな」

 

 微妙な空気が俺たちの間を流れる。

 なんだろう。なんかあんまり機嫌良くないような気がするな。ヴィルトにしては珍しい?


「さあ、選手たちが揃ってまいりました、間も無く最終レーススタートです。しばらくお待ちください」


 トラックに勢揃いした180名の1 年生たち、その第一走者がスタート地点に整列する。

 皆が準備運動したり、ぴょんぴょん跳ねたり、身体を温めて準備万端の様子を見せる。

 ヴィルトもまた第一走者として6名の生徒のひとりとなり、スタート地点に並ぶ。


「聖女様の走るお姿が見られるなんて俺たちはなんて幸せなんだ」

「この幸福を噛み締めよ」

「赤谷め、また聖女さまとお話を……!」


 銀の聖女を保護する会の皆さんは、トラック脇の一部スペースを占拠し、デフォルメされたヴィルトの描かれた旗をふりみだす。凄まじい熱狂ぶりだ。


「さあ、準備が整ったようです! 泣いても笑ってもこれが最後のギルド競技です! クラス対抗リレー! まずは1年生たち6クラスの戦いです! ご覧ください、1組から6組までの生徒が揃いぶみです、本競技はクラスの全員がトラックを半周ずつ走る団体競技、チームの総合力が問われます! なお妨害行為の一切が禁止です! 転移系能力も制限がされています! ちゃんと自分の足で走ってください! 失格とならないように!」


 ヴィルトがぴょんぴょんしたり、屈伸したりしているので、男子達の99%は実況があれやこれや言っていることに気づいてないと思う。揺れてる。震天動地。

 俺は後ろ髪を引かれる思いをしながら、トラックの200m地点へ移動する。俺の配置はあっちなので、行かねばならないのだ。本当はいくらでも眺めていたいのだが……いや、別にいやらしい意味じゃない。本当だ。嘘じゃない。ヴィルトがちゃんとしたスタートを切れるか見ていたいという意味だ。あっ、また揺れ━━━━。


「位置について━━━━」

                      

 パァン!


「スタぁぁぁ━━━━トぉぉお!」


 雷管の爆ぜる音が競技場ざわついた空気を穿ち、選手たちは一斉に飛びだした。

 最初の2歩ですでに飛び抜けた脚力を見せつけるのは、銀の閃光だ。

 我らが1年4組の誇るアイザイア・ヴィルトはよく発達し成長した、その類稀な身体能力を遺憾無く発揮し、空気抵抗が大きそうにも関わらず、一気に先頭集団へ……というか独走状態で半周地点に辿り着き、圧倒的なリードを築いて、第二走者へとバトンを繋いだ。


「志波姫、悪いが1位は我らが4組のものらしい。だが、安心しろ1組が2位になることで、シマエナガギルドは合計35点という破格の配点を手に入れることができる」

「なにをもう勝った気になっているのかしら。勝負はまだ始まったばかりよ」


 半周地点で、トラックのすぐ近くで応援して盛り上がる生徒たちを後方彼女面で、肘を抱いて冷やかな笑みを浮かべるのは志波姫だ。

                       

 走り終わったヴィルトが4組のみんなに囲まれて「さすがです!」「ヴィルトさん速い!」「俺たちのヴィルトが見せつけたぞ!」「ヴィルト最強!」とわいわいされている。当のヴィルトは頬を薄く染め、ちょっと嬉しそうに「ありがと」と応じている。ファンに囲まれる有名人の光景だ。距離感も友達よりすこし遠いものを見つめる感じだ。


 リレーはそれぞれのクラスの実力が拮抗しているようで、後半になるにつれて、少しずつその差は縮まっていった。

 それでも俺たち4組は常に先頭であり続けた。ヴィルトの作ったリードが埋まることはなかった。

 

 そしてついに最終走者のターンがまわってきた。

 4組は林道が走っている。あのバトンを受け取り、アンカーである俺がゴールすればこの戦い勝つる。

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