また会おう

 第一種目騎馬戦の1年生の部が終わる。次は2年生のシマエナガギルドVSハリネズミギルドだ。その次は3年生たちハリネズミギルドVSナメクジギルドの騎馬戦だ。

 俺は実行委員会の召喚係として先輩たちに声をかけることになった。そのタイミングで気がついたのだ「召喚係って、先輩とかも呼びに行かないといけない感じだったんか、気まず」と。あと想像しているより先輩たちの集まりが悪い。慣れているから逆に時間にルーズになっているのだろうか。腹立つ。


「あっ、このナマズみたいな目した子、さっきの子だ」

「だれだよ」

「ほら、騎馬戦で暴れてた子」

「あぁ」


 グラウンドの入場口あたりで列の整理業務に従事していると、知らない先輩に指差されていた。うすうすっという感じで頭をぺこっと下げておく。


「さっきの騎馬戦、ほかの1年生を圧倒してたな」

「やるじゃん、赤谷後輩!」


 薬膳先輩と雛鳥先輩らも見ていてくれたらしい。雛鳥先輩にぺしぺし肩を叩かれて体重をかけられる。いい匂いがします。ありがとうございます。


「赤谷君は非モテ男子の典型です。そんな勘違いするようなことしないほうがいいです、付き纏われてからじゃ遅いので」


 背後からの声に振り返ると志波姫が冷たい眼差しを送ってきていた。肘を抱いて佇む姿からは静かな不機嫌を感じる。こいつも召喚係だったな。

 雛鳥先輩は「へへへ」と変な笑い声をあげながら、そっと俺から離れる。あっ、先輩、いかないで、もっと全然、俺は一向に構わんって感じですよ?


「これは悪いことしちゃったかなぁ? ごめんね、志波姫さん」

「なにやら含みのある言い方ですね。私はただその腐ったナマズが人間に優しくされて調子ずいて社会に悪影響を及ぼすことを危惧してるだけですが」

「志波姫さん、もはや俺のこと人間扱いしてくれなくなってません?」


 体育祭の日でも、志波姫の言葉の切れ味が優しくなることはない。

 

「ところで赤谷、さっき外の屋台でたこ焼きが売っていたんだがこのあと一緒に━━━━」

「薬膳、赤谷後輩に絡んじゃだめだよ。赤谷後輩は忙しいんだから」

「え、ちょ、俺も赤谷と話したい、やめろ、この、離せっ、あ、柔らか、おのれい雛鳥ウチカ!」


 雛鳥先輩に連行されていく薬膳先輩を見送った。前から思っていたが、あのふたり結構仲良いのかもしれない。


「赤谷君、騎馬戦ずいぶん楽しそうだったわね」

「そうでもないぞ。青春を前に自らの敗北を感じてた」

「意外だわ、青春を送りたいのね」

「別にそういうわけじゃないけど……輝いて見えるのは確かだ」

「それは羨望を抱いているのと同義よ。まあ、どれだけ手を伸ばそうと、あなたのような人間では甘酸っぱい青春なんて望むべくもないでしょう」

「俺に心的傷害を与えるための事実確認助かる」

「礼には及ばないわ」


 志波姫は得意げに薄い笑みをうかべ、肩にかかった黒髪を払った。彼女は他者への身体的・精神的攻撃が成功した時にだけ喜びを感じる怪物なのだと思う。たぶんそうだ。きっとそうだ。絶対そうだ。


「さあ、第一種目 騎馬戦、第二試合は2年生たちの戦いだぁあ!」


 実況の声とともに上級生たちの騎馬戦がはじまった。

 志波姫と俺は入場口の横でなんとなく立ち見する流れになっていた。


 観戦していて気づいたことなのだが、どうやら上級生たちにとって弾撃ちというのは基本らしく、それに対する回避と防御の手段も出場選手のみなが備えているようだった。スモークなどによる視界の遮断などもわりと行われていた。


 俺や如月坂が遠隔攻撃で無双できたのは1年生が相手だったからだ。1年生たちの頭のなかには普通の騎馬戦のイメージがあった。

 俺たちが有利に立ち回れた理由をあげるとすれば、如月坂だけが英雄高校の騎馬戦の意味を正しく知っていて、俺がその思想に適応できて、対してほかの生徒たちは俺たちの攻撃に対して身を守る解答をすぐに用意できなかったことだろう。


 志波姫がどっかへ行った後、俺一人で入場口横で3年生の騎馬戦を観戦していると、男子生徒が1人のそのそ近づいてきた。

 

「ミスター・アイアンボール、こんなところにいたのか」


 高身長イケメンがこの俺になんの用だ、と思い自然と犬のように低いうなり声をあげ、臨戦体勢に入ろうとする。


 だが、その顔に見覚えがあることに気づく。

 鳳凰院ツバサだ。服装が体操着になっているので一瞬誰だかわからなかった。さっきまで競技場で浮いてる制服姿だったが……着替えてきたのか?


「こんなところにいたのかミスター・アイアンボール

「お前のおかげでオレ様のブレザーが臨終した」

「騎馬戦に着てきたお前の責任だろ。てかなんで制服だったんだよ」

「クハハハ、そんなことか。簡単さ。王とは、高みにいる者とは常に余裕を見せつけるものだ。あいにくと今朝の予定ではオレ様は汚れる予定はなかったのだ」


 鳳凰院はそういい、片手を持ちあげ、髪をかきあげる。演技がかった仕草だ。薬膳先輩より腹立つ。


「なるほど、遠い噂では聞いていたが、たしかにお前は相当な実力者なようだな。如月坂だけならオレ様が勝っていただろう。ミスター・アイアンボール。赤谷誠。その辛気臭い、根暗なナマズ顔、しっかり覚えたぞ」

「目はナマズでも腐ってるでもなんと呼んでもいいけど、顔までナマズはおかしいだろうが」

「だが、これで勝ったと思うなよ? 俺はまだ10段階の強化フォルムを残しているのだからな」

「欲張りすぎだ。せめて2段階くらいにしとけよ」

「クハハハ! ハハハ、次戦う時はオレ様の20%を見せてやる!」


 鳳凰院は澄ました顔で手をあげる。


「また会おう、赤谷誠」


 そう言って鳳凰院はくるりと背を向け、ポケットに手を突っ込んで歩き去っていった。

 終始騒がしいやつだった。もうあんま会いたくないな。

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