鳳凰院ツバサとの邂逅

 鳳凰院ツバサ。如月坂の言っていたナメクジギルドの要注意人物だ。

 如月坂や志波姫、ヴィルトたちのような突出した才能たちが今年の1年生の世代に固まっている。いわゆる傑物の世代グレートジェネシス

 

「クハハハ、クハハハハッ!」


 鳳凰院は灰色の髪をかきあげ、演技がかった高笑いをする。

 

「なにがおかしいんだ」


 如月坂は威圧的な低い声でたずねた。恐いな。


「如月坂圭吾、序盤に見せ場を使い果たしたやつがどうなるか知っているか?」

「知らねえよ、赤谷やるぞ」


 如月坂は手元に光の玉をつくりだす。サッカーボールほどのサイズだ。さっきから蹴って撃ちまくってるところをみるに、おそらく如月坂のスキルで作りだされたものなのだろう。

 如月坂は片手で俺の足元を支えたまま、器用にボレーシュートをぶっ放した。大砲の発射音みたいな━━実際に聞いたことはないが━━炸裂音とともに光球は高速で放たれ、鳳凰院へ一直線に飛んでいく。


「知らんのか如月坂」


 鳳凰院は片手をポケットにいれたまま、もう片方の手を水平にビシっと振り抜いた。


「必殺技はオシャレに後だししたほうが勝つというものさ!」


 彼の背後、振り抜いた腕を側から真っ黒い翼が生えた。奇妙な艶のある巨大な片翼である。展開と同時に、黒い羽根たち舞い散り、それは彼の異質さ、人間離れした光景をつくりだす。触手を生やしている俺が言うのも俺だが、翼生えた人間って、それはもう人間ではないのでは。

 鳳凰院は黒い巨翼でマントのように自身の身体をまるく包みこんだ。ちょうど丸めた絨毯を縦にしたような感じだ。

 そこへ如月坂の蹴り込んだ光球が突き刺さる。


 ズゴンッ!


 火花が激しく散り、光玉が砕け、綺麗に四等分された。ボウリングが割れたらこんな感じなんだろうな、とか漠然と思う。ってそんな場合じゃない。如月坂のあの光玉、それに鳳凰院の黒翼、どっちも見た目より遥かに高い硬度をもっている。


「クハハハハ! なにかしたか? 如月坂圭吾?」


 鳳凰院は片翼ぶわっと広げ、涼しげな笑みを浮かべる。如月坂は眉をぴくっと動かし苛立ちを宿す。


「お前の攻撃はオレ様には通用しない。否、誰の攻撃だろうと通用しないんだがな」

「そんな万能には見えないがな」

「万能ではない。全能なのさ。さあ今度はこちらの番だ。なあに安心しろ、オレ様は本気はださん━━━━『十 漆黒のツバサダークネスウィンド 十』……10%解放」

 

 鳳凰院は片手で顔を覆うように押さえ、指の隙間から視線を通しながら囁くように言った。

 黒い翼がバサっと仰がれ、同時に黒い風が烈風となって飛んできた。狙いは俺か。


「『突風のウィンドブラスト』」


 俺は手をふりながら『筋力で飛ばす』を使って空気を弾きだした。風の爆風を盾として展開することで、槍のごとく刺しこまれる烈風を打ち消した。

 実況席からは「おおーっと!?」となにか大声で言ってるのが聞こえてくる。


「鳳凰院ツバサの烈風槍を打ち消したぁあ!」


 わりと周囲がざわついている。世間的には彼の風を防ぐのは難しいこと扱いだったのだろうか。あるいは俺が素手で風を打ち消したように見えたのか。『筋力で飛ばす』で風を押し出しただけだが、たしかに遠目からだと手で風を叩き落としたように見えたのかも? 


「このオレ様の黒風を……」


 鳳凰院は目を丸くし、驚きを顔に表した。

 普段注目されないせいか、みんなの視線が集まってるなかで、すこし格好つけたくなった。だから俺なりに澄ました顔でこう言ってやるのだ。


「なにかしたか、鳳凰院」

「っ! こ、こいつ……クハハ、ハハハ、やるじゃないか!」


 今ので俺たちの隣の騎馬が崩されたのか。急に鉢巻が破れて何事かと焦ったが、トリックが明らかになればどうということはない。

 風に注意すればいいだけだ。風なら乱せる。なんとかなりそうだな。


「ミスター・アイアンボールと言ったか」

「そういうことになってるな」

「オレ様の黒風を破るとはよい度胸をしている。ここで死ねば楽だったものを」

「体育祭で死人出すなよ」


 いちいち喋りが演技がかっていて辛すぎる。会話してるだけでしんどい。

 さっさと黙らせよう。俺はすぐに『輝かしき粘水槍スティッキーハイドロジャベリン』をチャージする。発射まであと3秒。


「それはさっきからネチョネチョしてるやつだな、その卑しい技は喰らわんぞ。福島凛!」

 

 鳳凰院は足元の支え手の女子生徒へ声をかける。こちらも眼帯をしている香ばしい生徒だ。艶ある黒髪を赤色のメッシュが入っている。

 福島凛と呼ばれた女子は手を前にかざす。びしっと勢いよく。演技がかってる。まさかこいつも━━━━


「くっくっく! 我が魔導の深み、思い知るがよいっ! 暗黒の使徒よ、いま古い契約に従い、姿を現し、その大いなる力の一端を解き放て! 『闇との対面ブラックインストール』っ!」


 あぁ……この子もソッチ系ですね……もう手遅れですね……。

 なにこの学校、ちょっと病気の子多くない? 薬膳先輩加えたら、厨二病だけでアベンジャーズ作れんじゃね。

 

 福島の足元からグアアっと闇が広がった。気体なのか液体なのか、一見して判断がつかないひたすらの”黒”は、ものすごい速さで拡散し、あっという間にグラウンドの一部、俺や如月坂の足元まで包み込んでしまう。凄まじい展開速度だ。


 ところでブラックインストールですか。

 ふむ。なるほど。いいと思います。すごくグッと来ました。

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