おい騎馬戦しろよ

 光が膨張し、ナメクジ陣営の騎馬たちを巻き込んでなお膨らむ。

 応援席からは歓声があがり、ほかの騎馬たちからも「いいぞ!」「ナイスすぎる!」「さすが圭吾!」「頼りになるな!」「如月坂最強!」と男子たちからは絶賛の嵐だ。


「おおーとっ! さっそく決まったぁあ! 『シューター』如月坂圭吾の必殺技が炸裂だぁあ!」


 運営本部の放送部がテンション高めの実況で刻みこむ。ラジオパーソナリティ気取りで、いつもお昼の放送をしている奴の声だ。顔は知らないが、声と喋りは英雄高校のみんなが知っている。


「緑の雷光が一閃し、ナメクジギルドの騎馬3騎が一瞬にして脱落だぁっ!!」

「3つだけか……思ったより耐えられたな。まあいい、前進するぞ。赤谷落ちるなよ」


 如月坂たちに担がれたうちの騎馬も前進しだす。

 その間にもあちこちで激しい騎馬戦が繰り広げられている。主にスキルの撃ち合いだ。とんでもない衝撃波で騎馬ごと吹っ飛ばすような野蛮な戦法をとれる生徒はいないようだが、それでもみんな素手で鉢巻を取りにいってない。


 なるほど、これが探索者見習い集う英雄高校での騎馬戦というやつか。騎馬戦という名前だけ借りた大乱闘スマッシュシスターズと形容するのが正しいな。

 俺あまりにもルールを把握してなさすぎたかな。すこし観察しよう。


 見たところスキルの使用はOK。だけど生徒の誰も装備の類は持ち込んでない。たぶんダンジョン装備はだめなんだろう。

 探索者見習いは皆、祝福を授かった超人だ。ちょっとやそっとじゃ死なない。だからこそこんなド派手な催しも許される。


 そうと決まれば、俺もいろいろとやりようがある。


「しかし、如月坂、お前のそのオーバーヘッドシュートがあれば向こうの騎馬全滅させれたんじゃないのか。シマエナガギルドの陣地の後方から撃ちまくってさ」

 

 我ながらゲスの考えだが、理屈上はそれが一番強いはずだ。遠距離からの狙撃。範囲攻撃アリ。普通にクソ強だ。「騎馬戦ってなに」とかスポーツマンシップを持ち出されたら困るけど。


「俺にも制約があるんだよ。ポンポン撃てない」

「あぁそういう」


 本人の制約上、最強の作戦はとれないとな。

 まあ、制約がなくとも最初の一撃見せたら、2発目からは警戒されてしまうだろう。必然、遠隔からの偏差攻撃では、高い命中率は望めない。あくまで陣営で固まってるところをぶち抜く攻撃だったのかもしれない。そう思えば如月坂は効果的なタイミングで手札を切ったと言える。考えてるんだな。


「だが、シュートが撃てないわけじゃあねえ」

「そうか、なら弾数はありそうだな━━━━」


 『放水』+『とどめる』+『くっつく』+『圧縮』+『筋力増強』+『筋力で飛ばす』


 手元で水を生成し圧縮し、ちいさな水球を作りだす。20mほど先にいるナメクジギルドの騎馬に狙いをつけて『輝かしき粘水槍スティッキーハイドロジャベリン』を放った。

 3点バースト射撃のようにバビュンバビュンバビュン! っと連続して水槍が放たれ、輝く軌跡を描いて飛翔し着弾、べたべたした粘り気のある水を着弾地点周囲にぶちまけた。

 着弾即爆発したせいで、衝撃波を浴び、騎馬は体勢を崩してグラウンドに転がった。


「うああ、なんだあこれえ!?」

「べたべたしてて、気持ち悪い……!」

「ちょ、ちょちょ、ちょっと変なところ触ってるって……っ」

「うああ、なにこのえろい攻撃!?」


 『輝かしき粘水槍スティッキーハイドロジャベリン』を喰らった騎馬の男子と女子は大惨事で、なんか楽しいことになっている。え、なにそれ、俺も混ざりたいんですけど、ふざけんなよ、なんだよ、それ俺の功績だろ、俺にもちょっと触らせてくれませんかねだめですかだめですよね知ってます。


 びちゃびちゃ、ねちょねちょになった女子たちが頬を染めて、こちらを睨みつけてくる。素早く視線を外す。えど。


「遠隔からの強力な水属性攻撃だぁ! 『ミスター・アイアンボール』赤谷誠! 代表者競技に前代未聞の1年生で選抜されし選ばれし者! ここ最近の怪事件を解決してきたイリュージョニストは騎馬戦でもギルドに勝利をもたらすのかぁ!」


 かっこいい実況だな、もっとお願いします。


「赤谷、弾もあるのか……」

「まあ一応」

「精度も威力も高い……よし、遠隔から攻撃しまくろう」

「ハナからそのつもりだ」

 

 こういうのは近距離でやりあうと、俺の気遣い精神が働いちまう。気遣いながら鉢巻を奪うのは難しい。だったら最初から遠隔から勝負を決めるのが望ましい。『輝かしき粘水槍スティッキーハイドロジャベリン』には如月坂が初撃ほどの射程はない分、反撃の危険はあるが。


「ブレイクぅシュートぉぉお!」

「『輝かしき粘水槍スティッキーハイドロジャベリン』!」

「ブレイクぅぅぅう、シュートぉぉぉぉお━━━━!」

「『輝かしき粘水槍スティッキーハイドロジャベリン』っ!」


 俺と如月坂は射程距離ギリギリで申し訳程度に騎馬を歩かせながら、遠隔から弾撃ちしまくった。俺たちの騎馬が遠隔害悪弾撃ち野郎になりさがったのは、モロバレなのでみんな距離をとったり、徹底警戒していたりで、命中率は著しく下がったが、それでも最強の戦術に違いなかった。


「届かなかったら、近づけばいいだけだ」


 そういって騎馬を前進させれば、面白いくらいみんな逃げていく。


「こっち来るなぁあ!」

「アイアンボールとシューターが暴れてるぞ!」

「弾撃ちまくってるぞ!?」

「おい騎馬戦しろよ」


 ナメクジギルドの騎馬が残り3つになり、後退する一方でシマエナガギルドの騎馬は7つも残っている。


「ふっ、勝ったな」

「ミスター・アイアンボールさすがだな!」

「俺たちの赤谷が最強だってようやく世間に伝わったか」


 1-4の者たちで構成された騎馬が澄ました顔で隣ににじりよってくる。

 黒い風が吹いた。一瞬のことだった。隣の騎手の頭に巻かれていた白い鉢巻がビリッと破れた。


「シマエナガギルド4番騎馬失格!」


 隣の騎馬が脱落した。その事実とともにナメクジギルド側から騎馬がやってくる。


「ほどほどに数も減った。相手に活躍もさせた。あとはオレ様がギルドを逆転させて勝利する。それでシナリオは完遂だ」


 言って灰色髪の男━━鳳凰院ツバサは灰色の髪を掻きあげ、涼しげな笑みを浮かべた。

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