やはり変哲のない朝
翌朝、地味な蒸し暑さに布団を無造作に押しのけ、俺はベッドから起きあがる。
「朝か」
お祭りの朝。心は浮き足だっている。体育祭という行事は俺の経験と照らしあわせれば、まるで好きなものではない。
しかし、いつもとは違うことが起こる、今日は非日常が約束されている、それがわかっていると無条件にワクワクした気持ちが湧いてくる。
顔を洗い、スキルツリーを展開する。
本日のポイントミッションも『金属製の猫フィギュア』だった。
猫フィギュアの制作にはMPを使う。大量のMPを。最初の作品はそれこそ1万5,000MPくらい使った。2作品目は5,000MPくらいで作れた。最初から猫はこたつで丸くなるをコンセプトに作ればおよそMP5,000くらいで作れるというわけだ。さらに言えば、次の作品を作るたびに消費MPの総量は減っていくだろう。
「うーん、体育祭終わってからじゃ、MP残ってない可能性があるか……」
もしかしたら結構頑張りすぎちゃって、MPを使いすぎてしまうかもしれない。そうすれば猫フィギュアを作れないかもしれない。
「朝のうちに取り掛かろうっと」
トランクからまたひとつ鋼材を取りだし、俺は猫フィギュアを作ることにした。
ひんやりした鋼の形をなめらかに加工し、1作目、2作目よりも見事な猫を完成させた。
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【本日のポイントミッション】
毎日コツコツ頑張ろう!
『金属製の猫フィギュア』
金属で猫フィギュアを作る 1/1
【報酬】
3スキルポイント獲得!
【継続日数】41日目
【コツコツランク】ゴールド
【ポイント倍率】3.0倍
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思ったより早く完成した。所要時間30分。消費MP3,000ほど。
着実に上達している。てかフィギュア制作楽しいな。もっといろいろ作れたりしないかな。
そんなことを思いながら3匹目の『題名:猫はこたつで丸くなる』を机のうえに置いておく。3匹並ぶと、フィギュアのクオリティ進化が著しいことがわかった。
━━━━━『スキルツリー』━━━━━━
【Skill Tree】
ツリーレベル:4
スキルポイント:3
ポイントミッション:完了
【Skill Menu】
『応用体力』
取得可能回数:4
『発展魔力』
取得可能回数:3
『応用防御』
取得可能回数:4
『発展筋力』
取得可能回数:2
『応用技量』
取得可能回数:1
『基礎知力』
取得可能回数:5
『基礎抵抗』
取得可能回数:5
『応用敏捷』
取得可能回数:3
『基礎神秘』
取得可能回数:5
『応用精神』
取得可能回数:2
『ペペロンチーノ』
取得可能回数:3
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NEW! のスキルが出現していない。5つ目の『
「基礎力充実させることに集中できると考えればいいか」
というわけで『応用技量』『応用敏捷』『応用敏捷』を解放することにした。
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【Status】
赤谷誠
レベル:0
体力 1,000 / 1,000
魔力 16,800 / 20,000
防御 1,000
筋力 30,000
技量 10,000
知力 0
抵抗 0
敏捷 4,000
神秘 0
精神 3,000
【Skill】
『応用体力』
『発展魔力』×2
『応用防御』
『発展筋力』×3
『発展技量』
『応用敏捷』×4
『応用精神』×3
『かたくなる』
『やわらかくなる』
『くっつく』
『筋力で飛ばす』
『筋力で引きよせる』
『とどめる』
『曲げる』
『第六感』×3
『瞬発力』×3
『筋力増強』×3
『圧縮』
『ペペロンチーノ』
『毒耐性』
『シェフ』
『ステップ』×2
『浮遊』
『触手』
『たくさんの触手』
『筋力で金属加工』
『手料理』
『放水』
『学習能力アップ』
『温める』×4
『転倒』
『足払い』
【Equipment】
『スキルツリー』
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技量ステータスは大幅に進化した。4,000→10,000だ。『応用技量』×5が合わさって『発展技量』に進化したのである。
敏捷ステータスも2,000→4,000まで伸びた。敏捷ステータスを伸ばすと明確に体が軽くなったように感じるのが面白い。
「運動能力が変化したから、すこし慣らしておくか。体育祭でヘマしたくないし」
ジャージに着替えて寮を出る。本日も英雄高校のまわりを外周する。走る、という運動は全身運動だ。あらゆる筋肉を連鎖的に動かす。運動に関係するステータス変化があった場合は、こうして走ることで自分の感覚と成長した肉体の性能を擦り合わせることができる。
「軽い、速い、疲れない」
1周走り終わってそんな言葉を漏らす。
敏捷によるシンプルな速度上昇。たぶんだけど技量ステータスが低かったら惨事になっていたことだろう。
肉体の連動が上手くなってる。より疲労を蓄積せず、効果的に筋力を運用するノウハウが俺のなかに揃ってきてるのだ。
厳密にどのステータスがどのような作用をもたらしているのか知るのは難しいが、肉体機能が整いはじめている感覚がある。歪ではない、最も強いバランス。正しい祝福のありかた。さまざまな機能が相乗的に作用してる。いい感じだ。
「ん」
向こうから志波姫がやってきた。仏頂面のままタオルと水筒を校門前に置くと、軽くストレッチを始める。
地面のうえで開脚して、上体をぺたーんっと倒すのを見てると、なんだかいけないところを目撃している気分になった。
「体育祭の朝だってのに、変わらずトレーニングか」
「わたしにとっては変哲もない日常にすぎないわ。というか、あなたに言われたくないのだけれど。毎朝毎朝、飽きもせずに鍛錬して」
「俺はトレーニングしかやることがないのさ。ビビったか」
「呆れのほうが強いかもしれないわね」
志波姫はぴょんっと跳ね起きるとスタコラさっさと走りだす。俺はなんとなくあとを追いかける。もしかしたら追いつけるかな、とか思いつつ。
志波姫はチラッと背後を見やり、俺がついて来てることを確認すると、速度を上げて、ばびゅーんっ! とロケットみたいに駆けていってしまった。バケモノです。
「たしかに変哲のない朝だな」
いつもと変わらない朝。
だけど今日は体育祭、きっと何かが起こる。
俺のような人間にさえ、きっと何かが起こるんだ。
ただの予感か、あるいは変化への期待か。まだ並ばない背中を、今日も俺は精一杯に追いかける。
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