伝説の怪物

 薬膳先輩についていき、競技場の外に行く。

 体育祭実行委員会の面々は競技場の外でも仕事していて、せっせと物を運んだりしている姿が見受けられた、先生も生徒も忙しそうだ。

 競技場のまわりに来場者への案内看板やらを設置しているようだった。

 学校関係者っぽくない人たちもチラホラといる。そういう奴らは決まって道路脇に鉄パイプで骨組みを組みたてていた。


「あれは屋台……?」

「地元との良好な関係を築くのも学校の仕事というわけさ」

「体育祭って屋台出るんですか?」

「フェスティバルだからな、すごいだろう」


 薬膳先輩が自慢げなのは腹立つけど、たしかにすごい。普通にお祭りみたいだしな。

 

「学校外からの来場者も多いから、敷地のクソ広い英雄高校では迷い人がでないようにしっかり競技場までの動線を用意するのさ」

「なるほど、たしかに初見なら迷い人続出間違いなしですもんね」


 初日にどこかの新入生代表も迷子になっていたとかいないとか。

 

 体育祭のために準備に勤しむ者たちから離れるようにして、競技場からの裏手へまわる。裏手には大きな通用口があった。


「ここ入っていいんですか」

「大丈夫だ、俺のこの誠実な顔を信じろ」


 誠実な薬膳先輩と共に通用口に入る。天井の高い、広々とした空間だ。コンサート会場の裏手、あるいは巨大な倉庫、そんな感じの表世界の賑やかさからは一線を引いて隔絶されたような虚しさや寂しさを感じる場所だった。

 資材やら何やらが積まれている通路を進むと、何やら物音が聞こえてきた。

 

「かがめ。いたぞ、あれだ」


 背を低くし、物陰に隠れ、あちら側を伺う。

 

「なっ」


 俺は言葉を失った。

 巨大な白い影があった。白い体に黒いクリッとした瞳がついている。ふわふわの輪郭をしていて、翼をおおきく広げるさまは威厳に溢れ、見るものを圧倒していた。

 身長は7m以上ある。翼が広がった横幅は20m近くあるかもしれない。

 あろうことかそんな巨大な鳥の怪物が4匹もみっちみちに身をひしめきあわせて、通用口を圧迫していた。圧巻の光景だった。

 

「「「「ちーちーちー!」」」」

「抑えろ、こいつらすっごい暴れるぞ!」

「くっ、まさかシマエナガシリーズがこれほど凶暴だとは!」

「ぐあああ、はやくなんとかしろ! 経験値をお供えするんだ! 気が立ってるぞ! なにをしでかすかわかったもんじゃない!」


 壮絶な現場から視線を逸らして、薬膳先輩へ向き直る。


「まさか本物のシマエナガが代表者競技の試練なんですか?」

「そう考えるのが自然だな。でなければ今日この日に、競技場に、あの怪物がいる意味がわからない」


 野生のシマエナガはもはや語るまでもない伝説の危険生物である。ドラゴン、サイクロプス、ミノタウロス、ケルヴェロス、リヴァイアサン、そしてシマエナガ━━━━そうした伝承に歌われる化け物たちが実在しているというのは、迷宮怪物学の授業で習っているので知っていたが、まさか英雄高校の敷地内で本物を見ることになるとは。


 向こう側ではいまも野生のシマエナガの動きを止めるのに苦労している大人たちの姿がある。シマエナガたちは巨大な翼をバサバサ動かして、今にも飛び立ちそうだが、どうにか押さえ込めている。目元がギロンっと尖っていてみんなご立腹のようだ。


「野生のシマエナガ……雪と血の平野として名高い北海道にしか生息しないはずなんじゃ」

「わざわざ競技のために連れてきたんだろうな。学校も気合いが入っている、きっと噂以上に過酷な競技になるぞ」


 薬膳先輩は「これ以上いれば見つかるかもしれん」とそそくさ退散しはじめる。俺もあとに続いて、通用口をあとにした。


「あれが関わってくるのは間違いない。怪物シマエナガに対する対策を考えておいたほうがいいかもしれないぞ」

「対策っていってもなぁ……」


 その晩、体育祭実行委員会の仕事を終えて、俺は訓練棟訓練場に足を運んでいた。

 とりあえずはポイントミッション『金属製の猫フィギュア』のために、再び猫が寝てるフィギュアを制作する。

 2作品目『題名:猫はこたつで丸くなる』を机に並べる。昨日よりかは上手くできた。着実に上達している。これで金属加工の精度を上がったことを実感できるのは何気に嬉しい。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【本日のポイントミッション】

  毎日コツコツ頑張ろう!

 『金属製の猫フィギュア』


 金属で猫フィギュアを作る 1/1


 【報酬】

 3スキルポイント獲得!


【継続日数】40日目

【コツコツランク】ゴールド

【ポイント倍率】3.0倍

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 本日解放するスキルは『応用技量』『応用敏捷』『応用精神』の3つにした。

 筋力制御・スキルコントロールのための技量ステータス、反応速度・移動速度のための敏捷ステータス、精神防御力のための精神ステータス。何事もバランスよくだ。


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【Status】

 赤谷誠

 レベル:0

 体力 450 / 1,000

 魔力 16,200 / 20,000

 防御 1,000

 筋力 30,000

 技量 4,000

 知力 0

 抵抗 0

 敏捷 2,000

 神秘 0

 精神 3,000


【Skill】

 『応用体力』

 『発展魔力』×2 

 『応用防御』

 『発展筋力』×3

 『応用技量』×4

 『応用敏捷』×2

 『応用精神』×3

 『かたくなる』

 『やわらかくなる』

 『くっつく』

 『筋力で飛ばす』

 『筋力で引きよせる』

 『とどめる』

 『曲げる』

 『第六感』×3

 『瞬発力』×3

 『筋力増強』×3

 『圧縮』

 『ペペロンチーノ』

 『毒耐性』

 『シェフ』

 『ステップ』×2

 『浮遊』

 『触手』

 『たくさんの触手』

 『筋力で金属加工』

 『手料理』

 『放水』

 『学習能力アップ』

 『温める』×4

 『転倒』

 『足払い』


【Equipment】

 『スキルツリー』

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 ステータスも成長したな。技量は4,000、敏捷2,000、精神3,000。バランスの良い赤谷の異名を手に入れる日も遠くない。

 

 訓練場でスキル鍛錬をする一方で、俺はシマエナガ対策のことを頭の片隅で常に考えていた。

 鍛錬の手を止めて、ネットでシマエナガのことを調べてみたが、これといって弱点らしきものは見つからなかった。

 

「シマエナガは北海道に生息してるからアツアツな物には弱いかったりするんじゃないか」

 

 なんという閃きだ。これはまさしく天啓にも近い発想である。

 火と熱こそが弱点だと確信しながら、俺は『温める』を使った対シマエナガ火属性攻撃を考えることにした。

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