猫フィギュアの導き
翌朝。
洗面所で顔を洗い、寝ぼけ目でポイントミッションを確認する。
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【本日のポイントミッション】
毎日コツコツ頑張ろう!
『金属製の猫フィギュア』
金属で猫フィギュアを作る 0/1
【継続日数】38日目
【コツコツランク】ゴールド
【ポイント倍率】3.0倍
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「ツリーキャット〜」
有識者を呼んでみる。さっきベッドでぬくぬくしてたので今朝は俺の部屋にいる。
「にゃ〜」
寝ぼけたにゃ〜が聞こえてきた。ベッドのうえでぐーっと伸びをして、大きなあくびをすると、テクテク面倒くさそうにやってきた。可愛い。
「このポイントミッションなんだと思う?」
「にゃあ(訳:『金属加工』で猫型フィギュアを作ろうみたいなミッションじゃないかにゃ?)」
「やっぱりそうだよな。金属加工でフィギュアか……難易度高そうだな」
『金属加工』はシンプルな形状に成形する分には、さして苦労はないが、複雑な形状を作ろうとすると途端に難しさが跳ね上がる。油粘土で球体を作るのは簡単でも、細かい加工が難しいように。金属の塊を成形して、猫フィギュアを作るのは字面以上に難しいことに思える。
「とりあえずやるか。ツリーキャットそこで座っててくれ」
俺は部屋の隅に置いてある、木製のトランクに手を伸ばす。
トランクの中には3つの列があり、真ん中の列には錆びた鉄球が2つ縦に入っている。
左右の列には、四角い綺麗な立方体が3つずつピッタリのサイズでハマっており、それらは白く綺麗な金属光沢を誇っていた。
真ん中の鉄球2つは異常物質『重たい球』である。
左右の綺麗な金属立方体は鋼である。ただの鋼の塊だ。
3日前に注文し、一昨日オズモンド先生から受け取った。値段は3万英雄ポイントほど。
俺は金属立方体をひとつ取りだし、それに『金属加工』を使う。
指先で軽く触れるように接触すると、接触点から鋼材の表面は波打って、溶け出し形状を瞬く間に変化させる。
これらの鋼材は『重たい球』ほどの攻撃性能はないが、さまざまな用途がある。俺のアイディアを実現するための触媒そのものだ。
もちろん、猫フィギュアを作ることなど想像すらしていなかったが。
鋼材をうまいことツリーキャットのシルエットに近づける。
俺が試行錯誤している間、ツリーキャットは前足を揃えて、お行儀よくじっとしてくれていた。
ただ、悲しいかことに、俺の金属加工が十分に熟達していないせいで、猫のフィギュアが朝のうちに完成することはなかった。
「難しすぎん」
俺は猫を目指した金属塊を見ながらボソッとつぶやいた。
「にゃ(訳:摂氏3,000度の熱風を喰らったという設定があれば、猫に見えないこともないにゃん)」
「ポイントミッションくん、そういう設定でひとつどうだい」
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【本日のポイントミッション】
毎日コツコツ頑張ろう!
『金属製の猫フィギュア』
金属で猫フィギュアを作る 0/1
【継続日数】38日目
【コツコツランク】ゴールド
【ポイント倍率】3.0倍
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うんともすんとも言わない。
これはダメだな。
その日、1日を悩みながら俺は休み時間の合間を縫って、猫フィギュアの制作に取り組んだ。
「赤谷、それは何をしてるの」
当然のように隣席のヴィルトには不思議がられた。
「フィギュアだ」
「ヘドロスライムのフィギュア?」
「ヘドロつけなくていいだろ。猫だよ、猫!」
「なんだ、昨日のバンクシーの絵をフィギュア化したのかと思った」
「その論法だとバンクシーはヘドロスライムを描いたを思われてるのか……?」
昨日に続いて今日も、俺はヘドロスライムを制作していたらしい。
「俺はこれを急いで仕上げなければならないのだ。クライアントが待ってる」
「そうなんだ。それじゃあ今夜はペペロンチーノできない?」
考える。すこし考える。答えをだす。
「作業の進捗次第だな」
休み時間にちょこちょこ手を加える程度では猫フィギュアの完成には程遠かった。
結局、放課後になっても完成を見ることはできなかった。
「赤谷、なにか食べたいものとかある?」
「突然だな」
ホームルーム終わり、教室をさっさと出ようとすると、林道に声をかけられ、奇妙な質問をされた。
「ペペロンチーノのお礼でさ、なにか今度作るよ!」
彼女は本当にやさしい女の子だ。
俺のような日陰者にも女子の手料理を恵もうとしてくれている。
ヴィルトといい、林道といい、ペペロンチーノをご馳走した甲斐があったというものだ。こうでもしなければ俺が女子の手料理にありつけるチャンスなんて一生巡って来なかっただろうから。
「でも、好きな食べ物ってないな」
「そんなこと言わずに。なんでもいいよ」
「それじゃあ寿司とか」
「いや、寿司はどうかな……作れるけど、なんか手料理って感じじゃないでしょ?」
「それじゃあラーメン」
「だから、それも違うって! 修行期間が必要なやつじゃん!」
「聞いておいて制約が多いな。じゃあ蕎麦とか━━━━」
そんな具合でいろいろと好みの料理を調査された。
結局なにを作ってくれるのかはわからなかったが、何か作ってくれそうな雰囲気だった。
いつか林道が振る舞ってくれる日を楽しみにしておくことにしよう。
「まずいな」
寮に戻っても、俺は以前としてなんかのっぺりした金属塊のまえで頭を抱えていた。
『筋力で金属加工』に派生進化させたことで、精度も速度も格段に向上しているはずなのに、いまだに猫フィギュアには届かない。
大雑把に単純な成形を行うのとは訳が違う。
ツリーキャットが窓からひょいっと侵入してきた。
「にゃ(訳:どうにゃあ? うまく行ったかにゃあ?)」
「終わりました。継続日数リセットです」
「にゃ、にゃあ(訳:難航しているみたいだにゃ)」
ツリーキャットは金属塊を見て、微妙な顔をする。
「にゃあ(訳:仕方がないにゃ。すこしポージングを変えるにゃ。難易度がさがるはずだにゃ)」
そう言って、彼女は机のうえで丸くなった。可愛い。
ポーズが背を伸ばした姿勢からかなり抽象的になり、なんなら一番難しかった顔周りの造形も、丸くなって顔をうずめているので外側からは見えなくなっている。
これなら高難易度のパーツを避けて、猫フィギュアを造形することができるだろう。
「本当に助かった、ツリーキャット」
「にゃん(訳:お礼ならちゃんとフィギュアを完成させてからにしてほしいにゃん)」
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【本日のポイントミッション】
毎日コツコツ頑張ろう!
『金属製の猫フィギュア』
金属で猫フィギュアを作る 1/1
【報酬】
3スキルポイント獲得!
【継続日数】39日目
【コツコツランク】ゴールド
【ポイント倍率】3.0倍
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しばらく後、およそ1時間かけて俺はポイントミッション『金属製の猫フィギュア』を完遂することができた。
1日、猫フィギュアに取り組んだ俺はMPの大半を使い果たし、それと引き換えに『筋力で金属加工』の大きな経験値を手に入れることができた。
「ここまで苦戦することになろうとは……
「にゃあ(訳:ポイントミッションを乗り越えることができたみたいだにゃ。よかったにゃ。これで赤谷くんもまたひとつ強くなったにゃ)」
「まあそうだけど……」
ポイントミッションくんから及第点をもらった猫フィギュアを机のうえに飾る。
最近になって思うのだが、少しずつポイントミッションに変なのが混ざり始めてきた。
以前は走り込みや筋トレなどの肉体鍛錬が多かったのに、最近ペペロンチーノ作ったり、バンクシーしたり、猫フィギュア作ったりしてるんだ。
それらはスキル鍛錬……と言い換えることもできるかもしれない。これから先、スキルの熟練度を試されるような試練━━ポイントミッションが来た時、果たして乗り越えることができるのか。
「スキルコントロールを高めておかないといけないか」
猫フィギュアは気づきを与えてくれた。
現状では足りない。俺はより高度にスキルを操れるようにならなければならない。
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