お気持ち絡み
「ヴィルトのやつどこにいるんだろ、探したほうがいいか……?」
そんなことを思ったが、すぐに「やめよう」と思い直した。
ヴィルトとの約束を思い出したが、俺から接触することは許されないことを思い出したからだ。
この学校には銀の聖女を保護する会という危険な組織が存在している。
迂闊にヴィルトに接触すれば制裁対象だ。決して許されることではない。
ヴィルトへの接触はさりげなさが重要だ。俺にクラスメイト補正があったとしてもそこは変わらない。
「聖女さまの接触は当会の規定したガイドラインに沿って、正しく行われなければならない」
「「「「「「「「ならない!」」」」」」」」
「貴殿が聖女さまの同級生であり、隣席の学徒ということはわかっている」
「「「「「「「「わかっている!」」」」」」」
「我々はいつでも貴殿を見ている」
「「「「「「「「見ている!」」」」」」」」
━━━━ってな感じで、以前、銀の聖女を保護する会に連行された時、会員に包囲されて厳重注意を受けたのは記憶に新しい。まじで怖かった。
許されるのはヴィルト側の意思で話しかけられること、またヴィルト側の意思で行動をいっしょにしてる状態で節度を持って接することだけだ。
彼らいわく俺はすでにブラックリスト入りしてるらしい。ただ、クラスメイト補正、隣席補正、ちょっと親しげ補正で許されているとのこと。
これ以上は罪を重ねると取りかえしが付かなくなる。銀の聖女を保護する会はにはもう絡まれたくない。
まあ、俺がヴィルトに話しかけないのはもっとシンプルな理由のせいなのだが。
俺からペペロンチーノの件を持ち出すと、ヴィルト側にがっついてると思われそうで嫌なのだ。なにごともさりげなさ、だ。
「家庭科室に行っていなかったら諦めよう。その時は一人前のペペロンチーノにすればいい」
そんな気持ちで薄暗い校舎を歩いていると、奇妙な影があった。
家庭科室へと続く廊下1名いる。壁に背を預け、白頭巾をかぶった怪しげな風貌だ。
「銀の聖女を保護する会は、銀の聖女さまを保護しなければならない」
言いながら頭巾を外す。男だ。この顔はどこかで見た……あぁ思い出した、男子寮の食堂で俺のこと揶揄していた先輩だ。薬膳先輩がなんかして静かにさせてたのは昨夜のことだ。
「赤谷誠、お前はやりすぎた」
「なんの話です」
「やりすぎた。あらゆる方面で生意気だ。俺の我慢も流石に限界だ」
「だからなんの話ですか」
あの白い頭巾は銀の聖女を保護する会の連中がかぶってる正装だ。
「俺の話を聞く気はあるか」
まったくないが、ここで無いと言うと経験上ブチ切れられる気がするので「聞きますよ」と返事をかえしておく。
「俺はな、生まれてこの方、女子に優しくされたことはなかった。銀の聖女さまはそんな俺にあの日、ハンカチを恵んでくださったのだ。ポメラニアンに深い傷を負わされた俺を、彼女は気遣ってくださった」
「ポメラニアンに深い傷負わされてたら、わりと誰でも助けてくれるのでは」
「傷付いたら癒してくれるなんてナイーブな考えは捨てろ。ダンジョンでも一緒だ。顔がよくないと、女子探索者には見捨てられる」
俺の未来を暗示しているようできつい。
「だって嫌だろう、女子からすれば『うわ、こいつ今助けたら、恩人扱いされた挙句、何かと付き纏われるのかな。運命の出会いとか感じられるのかな。それを口実に距離縮めてこようとしてるのかな』とか思うだろう?」
「言ってることがすごく理解できるのは癪ですけど、流石にそんなことはないかと」
世の中もっと温かいと信じたいです。
「黙ってろ。少なくとも俺はダンジョンで他人に優しくされたことはなかったんだ。銀の聖女さまは、俺の希望だった。近づくことは前述の通り迷惑になるだろう? だから、陰からこっそりその御尊顔をお守りすることができればよかったんだ。なのにお前はそんな俺の細やかな願いすら奪おうとしてる」
先輩は家庭科室のほうを見やる。
「組織の調査で、お前が放課後にいかがわしいことを銀の聖女さまに対して、強行していることはすでに判明している」
なにも判明してない件について。
「如何わしいことなんて━━━━」
「加えて、お前は代表者選抜にでるらしいじゃないか」
どこからか話が漏れたか。さっき体育祭実行委員会でも微妙な顔されたし、3年生たちが俺が代表者として参加することを快く思っていないのは明らかだ。
「流石にこれ以上の我慢はできない。銀の聖女さまのお友達補正のおかげで今はまだ生きているだけなんだ。そのうえで、こちらを逆撫でするようなことをするならば、もはや誰かがお前に対して怒りを吐露するのは時間の問題だろうな」
上級生の空気感というのは、一応わかってるつもりだが、そんなに恨まれてるのかよ俺。
あるいはお気持ち警告の可能性はあるか? 「みんなお前のことを恨んでるぞ。辞退した方がいいんじゃないか?」的な。
「辞退しろ。それしか道はない」
「主語が少し大きやしませんか、先輩」
「なんだと……? お前、本当に生意気だな」
「代表者競技にはでます。あと不正はしてないんです、マジで。立候補のためにあの樹に血を垂らした記憶なんかないんですよ」
言っても無駄だろうけど。
「生意気、インチキ、不正野郎が。俺はお前の口から”辞退”の言葉が出るまで付き合うぞ」
先輩は言って頭巾を放り捨て、拳をコキコキと鳴らした。
最近、多くないですか、校舎内で襲われること。どうなっちゃってんのよ。
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