浮遊

 本日解放した3つ目の新スキル『浮遊』。


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『浮遊』

アクティブスキル

浮遊する

【コスト】MP100


重力からの解放

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 コストはそこそこ。効果は浮遊する。

 スキルを発動してみる。途端。体の重さが消えた。

 

「おお、これは確かに浮いてる」


 重力からの解放とある通り、俺の体を地面に接着させていた力が失われたのだろう。体はふわふわ漂いはじめ、ゆっくりと上昇していく。身体が勝手に回転してしまう。頭が前のめりになっていき、視界が反転する。制御できない。難しい。スキルを解除すると一気に重さが返ってきた。途端、地面へ向けて真っ逆さまに落下する。要領よくスタッと着地する。


 ふむ、自身への効果付与はだいたい理解できた。次は自分以外のものに付与できるか試してみよう。以前壊した特殊コンクリートプレートの残骸へ手をかざす。スキルを発動。……失敗。もしかしたらと思ったが、やはり手で触れたものじゃないと『浮遊』は発動できないらしい。

 近づいてちゃんと手を添える。スキル発動。成功した感覚がフィードバックからわかる。重たそうな特殊コンクリートプレートはふわふわと浮いていく。スキルを解除。コンクリートは地面に落下し、砕け散った。

 

 当たり前のようだが、その現象に俺は知見を得る。

 重たい物は高所から落下するだけで自壊してしまうんだ。重さとは物体さに作用する万有引力のことである。重たいということは、それだけ重力によって激しく地面に叩きつけられるということなんだ。ちなみに万有引力という言葉は、物理学の助教授が怪事件を解決するミステリー小説を最近読んだので知っていた。


「重たく沈めば」


 コンクリートを浮かせて、その下方を触手を伸ばして叩く。叩いた際、『やわらかくなる』を地面に付与、『浮遊』を解除すると、コンクリートは勢いよくやわらかくなった地面に落下、深く深く沈みこんだ。マジで深い。もしモンスターをこの状態にできれば詰ませられる。


 『浮遊』+『触手』+『やわらかくなる』


 技のレパートリーとして覚えておいてもいいかもしれない。

 最もこのコンビネーションで100+40+10でMP消費150だ。

 効果的かどか、燃費はどうか、色々試してみなければ実際に運用するかどうかはわからない。

 

 特殊コンクリートプレートは割とサイズ感あるが、浮かせられる。体積や重量のリミットが存在するのかもみておこう。そう思い、色々検証した。


 これまでのスキルたち『筋力で飛ばす』『引きよせる』などは効果対象の大きさに制約があった。検証のなかで俺はMP消費量がスキルパワーに関係している可能性を疑いはじめた。

 たとえば『引きよせる』。これはMP10分の体積のもの━━マグカップサイズ━━を引きよせるのが最も効率的だが、無理をすれば多少おおきい物でも引き寄せられないことはない。MPを消費すればするほど、スキルパワーは上がるのだ。MP消費対するパフォーマンスは著しく低下するが。


 以上の知識に則れば、もし『浮遊』の【コスト】が消費MP10だったら、きっと特殊コンクリートプレートは浮かせられない。MP100を消費しても浮かない。俺の持っている『浮遊』は100で最大効率になるスキルなので浮いてくれているが。このように考えると、【コスト】での消費MPは高ければ高いほど優秀と思ってもいいのかもしれない。燃費問題然り、スキルパワー然り、メリットしかないのだから。


 スキルへ理解度が深まってみると、【コスト】消費MP100の見方が変わる。

 以前は消費MP10のほうが小回りが効くと思って、使い勝手がいいと考えていたがそうじゃない。

 スキルウィンドウに表示されている【コスト】の意味は、その数字の範囲内では常に”燃費良し”、【コスト】を超過すると”燃費激悪”だったのだ。


 俺は意識を集中させ、『浮遊』をMP50だけ使って発動し、コンクリートを浮かせようとした。

 仮説の通り、コンクリートは浮かなかった。ひとつ立証された。


「浮遊も使いこなせれば俺の移動術に使えるかな」


 俺は訓練場でMPが尽きるまでさまざまパターンを検証した。

 ユリイカ! 稲妻のようにかけめぐる悪魔的ひらめきを得た。

 

 『筋力増強』+『ステップ』+『瞬発力』+『浮遊』

 

 『筋力増強』により両足のふくらはぎと、太ももの筋肉を増強し、脚力を単純強化。『ステップ』での踏み切り。『瞬発力』で動きに速さとキレを足す。これで踏み切りから体重を上方へ移動させる時間が短縮される。

 最後に身体が上方へジャンプするのと同時に『浮遊』発動。重力の影響を受けなくなった俺の身体は、瞬きの間に14mもの高さがある天井に到達した。俺は身をくるりと翻して、天井に足から着地、その際に『くっつく』を発動させる。


 俺は二本足で天井からぶら下がるようにして、姿勢を安定させることに成功した。通常『くっつく』に垂直にぶら下がる人間の体重を支えるほどのスキルパワーはない。しかし、『浮遊』が効いている限りは俺の体重はゼロになるのでこのような異常なアクションが可能になっている。


 天井を見上げる。実際に見上げているのは地面だが。

 視界の反転した世界。この景色は俺だけのものだ。

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