汗だく上裸男子に無理やり刺される被害
ダンジョン歩いてたら女の子が邪悪な柴犬に襲われてました。
とりあえず我がアノマリースフィアで救出。大丈夫かい、お嬢さん。
って、こいつクラスメイトの林道琴音じゃないか。群馬出身の少女。最初のアイスブレイクで俺のことを慰めてくれた明るく元気でやさしいやつ。クラスでもトップクラスに影の薄い俺に声をかける可能性が高い女子だ。
「あ、赤谷……?」
「はい、どうも赤谷ですが」
「いまのは赤谷がやったの?」
「まあな。俺は日々成長してるんだ。意外とやるだろ」
「レベル0だったのに、モンスターをこんな簡単に倒しちゃうなんて」
林道は驚いた顔をしている。
ふふん。ちょっと気分がいいな。
さては我が鉄球道に見惚れたな?
これは鉄球ユーザーが増える日も近そうだ。
「鉄球を武器にするのはジャイロ・ツェペリと俺だけの特権にしたかったんだけど、仕方ない、林道、お前も鉄球していいぞ」
「あ、私はいいや」
鉄球が武器として市民権を得るのはまだ時間がかかりそうだ。
「それよりどうしてここに……あんたセーフエリアにいなかったよね?」
「セーフエリアがなんなのか俺にはわからないんだが」
「みんなで協力してとりあえず固まって動こうってことになってさ、みんなが集まってる場所をそう呼んでたんだよ。ダンジョンホールに巻き込まれたやつをとにかく探してね。みんなで戦えば怖くないでしょ?」
俺見つけてもらえてないんですけど。
てか、俺以外にもそんなたくさんダンジョンに引き摺り込まれたのかよ。
「林道、もしかしてだけど俺はあんまり状況を理解していないんじゃあないか」
「そうかも……」
「よし、そっちの状況とか詳しく教えてくれるか。俺を仲間外れにするのやめてな」
「それより先にひとついい?」
「なんだよ」
「なんで服着てないの」
「これには深い理由があってだな」
俺と林道はお互いに知りたいことを語った。
彼女の話では、ダンジョンホールなる異常現象━━俺の知らない現象━━により、多くの生徒がこのダンジョンに連れてこられ、入り口は封鎖されて緩やかな死を待っている状態だという。
「お腹すいたんだけど、食べ物持ってたら嬉しいんだが」
「私だってお腹空いたよ。もうペコペコ。赤谷こそ、そのトランクダンジョンに潜るために用意していた探索用バッグなんでしょ。非常食の生チョコガトーショコラとか入れてないの」
「悪いが鉄球しか入ってない。あと生チョコガトーショコラは普通入ってない」
あとお前が食べたいだけだろ。
「しかし、ダンジョンに閉じ込められるとはな。食料、水、モンスター。命の危険を語れば枚挙に暇がないな」
「だから、志波姫の攻略隊がダンジョンボスを倒しに行ったんだ。私もついて行ったんだけど、なぜかボス部屋の扉が開いててさ、そのことに気がついた直後、襲われちゃって」
俺と林道は一緒に天井を見上げる。
天井の向こうでは重たい物音が響いている。
さっきから聞こえているこれがダンジョンボスが戦っている音なのだろう。
「志波姫は強い。だけど、あのボスもすごく強そうだった……はやく戻って手助けしてあげないと!」
林道は瞳に涙を浮かべながら言う。
肩の傷が大きい。彼女はもう戦えない。
「あんまり騒がず、その傷を圧迫することに集中した方がいい……と俺は思うけど」
「それじゃあダメなんだよ、ダンジョンボスを倒さないと、私たちに未来はない」
「でも、お前柴犬に負けてるじゃん」
林道は口をつぐむ。やるせなそうな表情だ。
事実を言っただけだが、かなり意地悪な感じになってしまった。
林道を非難するとか、責めるつもりなんか1mmもなかったのに。
「ごめん、なんか嫌な感じになって」
「別にいいよ、本当のことだし。……それに比べて赤谷、すごく強くなったんだね……ひとりで1日耐え抜いたんでしょ? それに今の柴犬の倒し方だって鮮やかだった」
隙をつかれたりしなければ、もう2階層くらいのモンスターを倒すのに身の危険を感じることはなくなってきた。今しがた倒した3匹は、林道に気を取られているところを、俺が隙をついて攻撃したわけだし、苦労するはずもない。
「赤谷の力ならきっと通用する! お願い、ダンジョンボスを倒すの手伝って!」
林道は俺の手を握り、涙目で懇願してくる。
断る理由がない。というか、そんなお願いされなくたってやるのに。
「まあ任せろよ。そうだ、MPが余ってるならこれ使うか?」
「なにそれ……汚い注射器……?」
「こら、なんて言い草だ。これは超便利異常物質『蒼い血』だぞ。HPをMPに変換するものだけど、どうやらHPをMPに変換することもできるみたいなんだよ」
「……MPをHPかな? 双方向性って事だね」
使っているうちに気がついた隠されし効果である。
見るからに「い、いや、私はちょっと……」みたいな雰囲気を出す林道に、俺は「まあ、先っちょだけだから。ちょっとだけちょっとだけ」と迫った。
プスっ、プス。
2回刺すと、林道は目を見開き、苦しそうにして膝から崩れ落ちる。
『蒼い血』は少し痛みを伴う部分がある。
「うぐっ! うううう!」
だからってそんな苦しむことないだろうに。
林道はもがき苦しみ、ようやく落ち着くと、自分の肩の大きな傷が塞がっているのを見て、がっくしと脱力した。
「なんて効果の異常物質持ってるの……それ危なすぎだよ」
「でも、よく効くだろ」
「まあ……ね、劇薬だ」
「それじゃあ、上に行くか。……で、どうやって上に行くんだ」
「それは……」
俺と林道はそろって天井を見上げた。
まずは上に戻る道を探さなければ。
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