重たい球
英雄高校では校内で生活に必要なものがなんでも揃う。
必需品の多くは自分で買う必要はなく、学校に支給されたることがほとんどだが、それでも年頃の若者のためか、嗜好品の類いを扱う売店は充実している。
売店で物を買うときに使うのが英雄ポイントだ。入学式の時点で支給されるお小遣いのようなもので、学園通貨として機能している。
最初に5万英雄ポイントをもらい、入学から1ヶ月半が経過した現在、俺の英雄ポイントは残り20万である。
なんで増えているのか疑問を抱くだろう。
日々の生活で自販機でジュース買ったりするだけでもちょっとずつ減っていくというのに。理由は簡単である。訓練棟を利用しているからだ。
英雄高校では日々の学園生活を豊かにするために英雄ポイント求める者が多い。学校は英雄ポイントを稼ぐルートをいくつか用意している。
英雄ポイント稼ぐルートの一つであり、代表的なものが訓練棟でトレーニングをすることだ。疑似ダンジョンやトレーニングルームで修行すれば、利用時間と利用回数などに応じて、英雄ポイントが付与される。
これは生徒たちに自主的なトレーニングを促すためのシステムであり、なるほどなかなか学校も頭が良いと感心する点だ。
俺は英雄ポイントが欲しかったわけではなく、ただ強くなりたいがために狂ったように訓練棟に足を運んでいたため、すでに20万という額が溜まっているのだ。
この数字はおそらく1年生のなかではトップクラスである。なお2位はたぶん志波姫だ。もしかしたらもう抜かれているかもしれないが、俺がポイントミッションを始める前の訓練棟狂いだったら、俺の方が英雄ポイントは溜まっていた。
「さて20万で何を買うか」
ウェポンショップへやってきた。
ここではダンジョン装備を買うことができる。
「魔法剣のショートモデルは……5,000英雄ポイントか」
短剣を飛ばすアイディアは俺のなかにうっすらとあったが、同時に、魔法剣でも刃こぼれすることを知っている身からすると、『飛ばす』ことにはちょっと抵抗があった。
俺の『飛ばす』は別に刃先を認識して、最適な角度で飛んでいくわけではない。もし飛ばした剣を避けられたりしたら、ダンジョンの固い岩壁に突き刺さるだろう。繰り返し使うとなれば、刃の寿命をガンガン削ることになる。
「案外、大丈夫だったりするのかな……あの店員さん」
「はいはい、なんですかあ」
「この短剣、ちょっとダンジョンの壁に叩きつけて耐久性確かめていいですか」
「お名前教えてくれますか。担任の先生に報告させていただきます」
ダメだった。
俺は短剣を頭の片隅に追いやり、別のところを見てみることにした。
「なんだ、あれ」
俺の視界に飛び込んできた異質なブツ。
そいつは俺のことを待っていたかのように、俺の視線を捉えて離さなかった。
「あれはなんですか」
「お目が高い」
ウェポンショップの店員は楽しげに、ブツの元へ案内してくる。
戸棚の隅っこにちょこんっと置かれた黒いトランク。トランクは半開きになっており、納めれている錆の浮いた黒い鉄球2つをのぞかせている。
「これは
「つまり、すごいってことですか」
「ええ、すごいってことです。……2年前からずっと置いてあるけど」
「え? なんか言いました?」
「いいえ、何も! どうぞ手にとってみてください」
へえ、ラッキーだな、そんな凄いものを見つけられるなんて。
黒い鉄球に触れてみるとアイテム名が表示された。
祝福を受けた探索者ならば、異常物質は触れれば一定の情報を閲覧できる。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
『重たい球』
伝説のビッグ・Pが使った異質な武器
血錆の鋼球は使用者に応え 重みを増す
命を奪うには相応の重みがあるのだ
━━━━━━━━━━━━━━━━━━
これ武器なのか?
砲丸にしか見えないのに。
「これは手で握って相手を殴りつけることで真価を発揮する武器です」
逆にソレ以外の使い方ないのでは。
でも、これ、『飛ばす』のに最適なのではなかろうか。
サイズはマグカップくらいだし、重さも十分にある。
「これ買います。いくらですか」
「正気かよ……」
「え? なんか言いました?」
さっきからボソッとなんか言われてる気がする。
店員さんはにこやかな笑顔を作り「何も」と返してきた。そうか。
「異常物質はそれだけで大変貴重ですからね、値札の通り200万英雄ポイントです」
「200万か……どうにかまけてもらえませんか」
「今、手持ちのポイントはいくらです?」
「20万なら出せます」
「新入生なのにソレは凄い……若き才能に投資したくなりました。今なら特別価格、英雄ポイント20万で売りましょう」
なんていい人なんだ。
俺は全力でお礼を言い、
トランクごと持っていっていいとのことだったので、俺はトランクを片手に早速疑似ダンジョンへと戻った。
「ぽめえ!」
「喰らえ、ヘヴィカノン!」
早速、技名をつけて俺は黒鉄球を『飛ばす』で発射した。
サイズの問題がクリアされているので、重たかろうと、一定の速度━━かなり速い━━で飛んでいく。ダンジョンポメラニアンは避けることできず、鉄球を喰らい、粉々に砕け散った。
「素晴らしい、破壊力だ」
「ぽめえ!」
「甘い! この赤谷誠の背後を取れると思うなよ!」
『飛ばす』で2つ目の鉄球を発射する。
だが、おかしなことに鉄球は飛んでいかない。
「ぽめえ!」
「ぎゃああ!?」
ダンジョンポメラニアンは獰猛な牙を俺の首に突き立ててきた。
首から血飛沫が上がり、激しい痛みが襲ってくる。
脳内でステータスを意識しウィンドウを開くと、みるみるうちにHPが減っていくのが視界に移った。その下、MPの欄には『0 / 200』と表示がある。
「しまった、MP切れか……っ」
「ぽめええ!!」
「舐めるなよ、このポメ畜生め!」
俺は首に噛みついてきているポメラニアンを鷲掴みにし、無理やり引き剥がす。
その際、首の肉がえぐれて持っていかれる。
「生憎と痛みには慣れてるんだ、うっひっヒヒ!」
「ぽ、ぽめえ〜……っ!?」
ダンジョンポメラニアンに俺はどう移っていたのだろうか。
腕力のままに小首をへし折り「パワぁぁぁああー!」と、壁にぶん投げた。
光の粒子が俺の体のなかへ入ってきて、静けさだけがあとには残った。
「……俺、意外と強いな」
ここはダンジョン1階層。
俺の腕力なら1階層のモンスターなら素手で殺せる?
「いってぇな」
俺は鉄球を回収し、傷口に布を当てて、早々に寮へ戻った。
しっかり回復薬を飲んで寝よう。
翌日。
朝、起きて、傷口が塞がっていることを確認する。
祝福者とはいうのは本当に超人的な能力を持っている。
ダンジョン財団が開発した回復薬を飲んで、一晩眠れば大体の傷は治ってしまうんだから。
洗面所で今日のポイントミッションを確認する。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【Status】
赤谷誠
レベル:0
体力 100 / 100
魔力 200 / 200
防御 0
筋力 30,000
技量 300
知力 0
抵抗 0
敏捷 0
神秘 0
精神 0
【Skill】
『基礎体力』
『基礎魔力』×2
『基礎技量』×3
『発展筋力』×3
『かたくなる』
『やわらかくなる』
『くっつく』
『飛ばす』
『引きよせる』
【Equipment】
『スキルツリー』
━━━━━━『スキルツリー』━━━━━━━
【Skill Tree】
ツリーレベル:1
スキルポイント:0
ポイントミッション:『ポメ狩り』
【Skill Menu】
『基礎体力』
取得可能回数:4
『基礎魔力』
取得可能回数:3
『基礎防御』
取得可能回数:5
『発展筋力』
取得可能回数:2
『基礎技量』
取得可能回数:2
『基礎知力』
取得可能回数:5
『基礎抵抗』
取得可能回数:5
『基礎敏捷』
取得可能回数:5
『基礎神秘』
取得可能回数:5
『基礎精神』
取得可能回数:5
『とどめる』
取得可能回数:1
『曲げる』
取得可能回数:1
【Completed Skill】
『応用筋力』
取得可能回数:0
『基礎筋力』
取得可能回数:0
『かたくなる』
取得可能回数:0
『やわらかくなる』
取得可能回数:0
『くっつく』
取得可能回数:0
『飛ばす』
取得可能回数:0
『引きよせる』
取得可能回数:0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【本日のポイントミッション】
毎日コツコツ頑張ろう!
『ポメ狩り』
ポメ狩り 0/20
【継続日数】15日目
【コツコツランク】シルバー
【ポイント倍率】2.0倍
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ほう、そうかそうか、今日は『ポメ狩り』か。
今朝はちょっと早く起きたし、珍しく朝のうちに片付けちゃいますかねえ。
俺は新しき武器『重たい球』を手に、疑似ダンジョンへ足を運んだ。
昨日はMP切れで試せなかったスキルの組み合わせも、試してみよう。
俺の『かたくなる』『やわらかくなる』『くっつく』『飛ばす』『引きよせる』……これらのスキルがあればかなり自由なことができる気がするのだ。
「今日は2階層へ降りてみようかな」
疑似ダンジョンの入り口の自販機で、2階層のジャーキーを買って足を踏み入れる。ジャーキーはダンジョンの設定をコントロールできる品だ。
持っているジャーキーを疑似ダンジョンが判別し、適当な脅威度のモンスターを自動生成してくれる。
「ぽめえ!」
「来たな……あれ、ちょっとでかくなった?」
ポメラニアンが微妙にデカくなっている。
階層が深くなるとモンスターは巨大化する。
授業で習ったので知ってはいたが、実際にみると圧迫感がある。
突っ込んできて、獰猛な牙を立ててくる。
俺は迷わずにヘヴィカノンで迎え撃つ。
鉄球は勢いよく飛んでいき、2階層のポメラニアンを打ち砕いた。
思ったより、威力がある。まさか2階層でも1撃で倒せてしまうなんて。
「ぽめえぽめえ!」
「これは昨日と同じ流れか!」
背後より迫ってくる2階層ポメ。
だが、賢さも2階層なのか、後ろ足でダンジョンの石ころを蹴っ飛ばして放ってくる。なんてクレバーなことをしやがる。まさか俺より賢い!?
「流石だと言いたいが、甘いぞ、ポメラニアン、マジックカード発動!」
俺は敏捷がゼロなのでとても攻撃を避けることはできない。
ゆえに攻撃を防ぐしかない。ただ、防御もゼロなので防げない。え、雑魚……と侮ることなかれ。俺なりに防御の算段は考えているのだ。
手元に残っていた鉄球に『やわらかくなる』を付与する。
拳でぶん殴るとぶわんっと鉄球はデカいピザの生地のように広がった。
そして今しがた拳で殴るのと同時に発動した『かたくなる』が作用し出す。
鉄球はデカピザのように広がった状態で固まり、広範囲をカバーする盾となり、ポメ石から俺を守ってくれた。
「ぽ、ぽめえ〜!?」
「人間を舐めるなよ、ポメ畜生め」
どうやら俺のほうがクレバーだったらしいな。
俺は展開した変形鉄球の盾をどかし、動揺するポメラニアンへ、ゆっくり近づいて「パワーぁああああ!」と叫びながら拳を叩き下ろした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます