とどめる

 朝のポメ狩りは続いた。

 だが、ポメ20匹を狩るにはなかなか時間がかかるもので、あと少しのところでタイムアップなった。朝のホームルームへ向かわなければ。


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【本日のポイントミッション】

  毎日コツコツ頑張ろう!

    『ポメ狩り』


 ポメ狩り 14/20


【継続日数】15日目

【コツコツランク】シルバー

【ポイント倍率】2.0倍

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 続きは放課後にやるとしよう。

 ジャーキーを捨てて、寮に戻り、制服に着替えて登校する。

 最近は真面目に授業を聞いたり、読書に時間を使うことが多くなったおかげで物を考える力が養われてきたような気がする。

 これが教育の力……? もしかしたら俺って実は頭よいのでは……いかんいかん、自惚れてはいけない。そうやって何度も同じ失敗をしてきたじゃないか。謙虚にいかなければまた失敗をしてしまう。


 俺は今日も一日勤勉に学校生活を送った。

 友達がひとりもいないというのは勉強にうってつけである。


 放課後、ポメ狩りに出かけようと疑似ダンジョンへ早速行こうとも思ったが、先にトレーニングルームへ足を運ぶことにした。

 これまでは『外周』とかいう重めのポイントミッションのせいで訓練棟で体力を消耗する気にはなれなかったが、『ポメ狩り』はかなり軽めなポイントミッションだ。十分にトレーニングへ意識を向ける余裕がある。


「赤谷来たんだ」


 相変わらず、アイザイア・ヴィルトはランニングマシンを目を疑う速度設定にして走っていた。俺も敏捷を上げたら彼女のようになれるんだろうか。

 俺はベンチプレスをしようとプレートをバーベルにはめていく。ふと、ある事に気づく。


「ヴィルト、探索者って筋トレして筋力ステータスあがるのか」

「あがったらよかったね」


 上がらないって事だな、これ。

 

「祝福を増加させる方法はレベルアップと異常物質、あるいはそれに準ずる神秘に頼るほかない」

「……だよな」


 授業で習った通りだ。


「なんでヴィルトはトレーニングしてるんだよ。いつもいつも一生懸命に」

「祝福を受ける人間の肉体強度が低かったら、祝福を十分に受けられないんだ」


 同じステータスだった場合、中性脂肪がついたデブや、体の細っちいガリガリより、鍛えられた人間の方が良いってわけだ。生身の人間、つまり祝福を完全に除いた状態での身体能力って関係してたんだな。


 だとすれば俺は筋力30,000を完全に発揮できてはいないのかもしれない。

 いや、かもしれないというか出来てないに違いない。

 俺の素の身体能力はせいぜい平均的な高校一年生だ。骨格や筋肉の構造が変わっている分、物理的な強化も多少はされているのだろうが。


 筋力にみくびられないように筋力を鍛えなければ。

 俺はベンチに背をつけ、ブリッジを作り、わずかに背中を浮かせ、軽い重量からアップしていく。10回やったらプレートを足してまた10回だ。


 そうしてプレートを足していると、気がつけばバーベルの総重量が300kgに達していた。まだ筋力的な限界値には達していない。


「赤谷……すごいね」


 プレートを足していると、ヴィルトがランニングマシンを使うのをやめて目を丸くしてこちらを見ていた。


「俺の筋力も成長してるからな」

「筋力いくつなの」

「30,000」

「あはは、それは凄いね」


 ヴィルトは朗らかなに笑う。

 流石は銀の聖女。俺が特化した筋力を聞いても驚かないとは。

 自慢げに語ったのが恥ずかしいな。ヴィルトとかなら全ステータス100万とか言っててもおかしくないもんな。もうステータス自慢するのやめよ……。


「で、本当の筋力は?」

「だから、30,000だって」

「わかった。で、本当の筋力は幾つなの。ジョークはもういいよ」

「いや、だから……」

「意地でもそういう感じなんだね」

「?」

「まあいいや。凄いよ、赤谷の努力が報われて嬉しいよ。だけど、一つアドバイス。祝福に頼らないイメージで筋トレすると、いいかもしれないよ。目を閉じて、神秘を感じて。自分を補強してるアダムズの力を感じて。それから脱却するイメージ」


 言われるままに、目を閉じる。

 ふと、手がフニャッと柔らかく包まれる。

 慌てて目を開くと、ヴィルトの無感情な顔が目の前にあった。


「うああ!?」

「どうしたの」

「い、いや、全然それ俺のセリフ」

「集中して」


 なんだよ、やめろよ、高校生には刺激が強過ぎますって。

 うあ、いい匂いがする、ヴィルトのお手手やわらかぁ。

 俺は目を再び閉じて、浸透滅却して集中する。できるか、あほ。


「自分を包む力を感じて」

「……全然わかんないんだが」

「まあ、最初は仕方ないよ。慣れれば祝福を意図的に弱められたりするよ。トレーニングして素の身体能力を強化したいならどれだけ祝福を弱められるかが鍵なんだ。頑張って、赤谷、応援してる」


 ヴィルトはスッと腰をあげ、タオルと水筒を手に取ると、トレーニングルームを出て行った。

 俺は手を持ち上げて、未だに残る彼女の掌の感触に感動していた。

 あの銀の聖女アイザイア・ヴィルトに手を握られてしまった。

 おそらく俺の人生で一番幸せな時間を更新した。


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【本日のポイントミッション】

  毎日コツコツ頑張ろう!

    『ポメ狩り』


ポメ狩り 20/20


【報酬】

 2スキルポイント獲得!


【継続日数】16日目

【コツコツランク】シルバー

【ポイント倍率】2.0倍

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 トレーニングルームで筋肉をいじめたあとは擬似ダンジョンで今朝のポメ狩りの続きに励んだ。2階層のポメラニアンたちを俺の黒くて硬くてデカいブツで破壊してまわり無事に本日のポイントミッションは完了だ。


 授業で習ったことだが、異常物質はただ異常物質というだけで壊れにくいらしく、『重たい球』もその例外にならず、非常に頑丈である。

 どんなに『飛ばす』で撃ち出しても壊れる気配は微塵もない。

 いい買い物をしてしまった。


━━━━━━『スキルツリー』━━━━━━━

【Skill Tree】

 ツリーレベル:1

 スキルポイント:2

 ポイントミッション:完了

【Skill Menu】

 『基礎体力』

  取得可能回数:4

 『基礎魔力』

  取得可能回数:3

 『基礎防御』

  取得可能回数:5

 『発展筋力』 

  取得可能回数:2

 『基礎技量』

  取得可能回数:2

 『基礎知力』

  取得可能回数:5

 『基礎抵抗』

  取得可能回数:5

 『基礎敏捷』

  取得可能回数:5

 『基礎神秘』

  取得可能回数:5

 『基礎精神』

  取得可能回数:5

 『とどめる』  

  取得可能回数:1

 『曲げる』   

  取得可能回数:1

 

【Completed Skill】

 『応用筋力』

  取得可能回数:0

 『基礎筋力』

  取得可能回数:0

 『かたくなる』 

  取得可能回数:0

 『やわらかくなる』 

  取得可能回数:0

 『くっつく』  

  取得可能回数:0

 『飛ばす』   

  取得可能回数:0

 『引きよせる』 

  取得可能回数:0


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 今日は何に振ろうかな。

 ワクワクしながら俺はスキルポイントを振り終えた。

 熟考の末に本日解放したスキルは『基礎魔力』と『とどめる』である。


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【Status】

 赤谷誠

 レベル:0

 体力 34 / 100

 魔力 30/ 300

 防御 0

 筋力 30,000

 技量 300

 知力 0

 抵抗 0

 敏捷 0

 神秘 0

 精神 0


【Skill】

 『基礎体力』

 『基礎魔力』×3

 『基礎技量』×3

 『発展筋力』×3

 『かたくなる』

 『やわらかくなる』

 『くっつく』

 『飛ばす』

 『引きよせる』

 『とどめる』


【Equipment】

 『スキルツリー』


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 なおHPとMPがボロボロなのはポメ狩りのせいである。

 あやうく俺が狩られそうになっているが、それはご愛嬌。


 MPはあればあるほどいいと最近、思うようになってきた。

 というか普通にポメ狩りするのにMPが足らなかった。後で新スキルを解放して試用することはわかっていたので、少しMPを残そうと思ったら、すぐに実質的なMP切れを起こした。


 最後の方なんてわざと腕を噛ませて、ダンジョンポメラニアンの動きが止まったところを首根っこ掴んで壁に叩きつけていた。あくまでリソースが尽きた場合の最終戦術だ。

 俺は防御も低いし、体力も少ないので、できるだけ近づかせないで倒したいのだが……MPが切れてしまっては、そうも言っていられない。削れる物を削るしかなくなる。


 痛いし、恐いし、命を危険に晒すのは2ゴメンなので、これから何回かはポイントを魔力に振って、MPを上げようと思っている。


「とどめるを使ってみるか」


 俺はモードを解除して鉄球をポイッと軽く上へ投げる。

 さまざまなスキルに触れてきたからか、直感的に『とどめる』の使い方もわかった。


「スキル発動━━『とどめる』」


 落ちてくる鉄球へ手をかざし、効果を適用させる。

 鉄球はゆっくりと減速する。完全に静止することはなく、ゆっくりと床の上に落ちた。ゆっくりにさせる、いや、これは動く何かを”元の状態に保とうとする力”と言えるかもしれない。


 ズゴン!


「え?」


 いきなりすごい音がした。

 床が陥没し、鉄球がそこにハマっていた。

 何が起こったと言うのか。


「ん? これは……まさかそう言うことなのか?」


 俺はあることを思いつく。

 悪魔的なひらめきだった。

 俺はすぐにでもその考えを試したくて仕方がなかった。


 翌日。

 俺は昨晩、思いついた閃きを試すために、鼻息荒く、なんなら口からよだれを垂らしながら「ポメポメ〜!」と叫んんで訓練棟へ駆け込んだ。


「朝から騒々しい」

「っ! 志波姫神華……っ!」

「何をそんなに興奮していると言うの」


 くっ、俺の恥ずかしいところを見られた。

 こうなったらただで逃すわけにはいかない。


「志波姫、そこを動くなよ、いいか、絶対に動くんじゃないぞ」

「前にもこんなことがあったような気がするのだけれど」


 志波姫はジトっとした眼差しでじーっと見つめてくる。

 

「用があるなら早くしてくれる。暇じゃないから」

「隙あり、『飛ばす』&『とどめる』!」


 俺は手のひらで手元の空気を押しだす。

 同時に『とどめる』を使って、押し出した空気をその場にとどめた。


「赤谷君が何をしたいのかまったくわからないのだけど。もう行っていい?」

「待て、あと4秒だけ!」


 なんだかんだ4秒待ってくれる志波姫。

 その直度、彼女の小さい体は突風に巻かれて吹っ飛んでいった。

 『とどめる』とはすなわち”元の状態を保とうとする力”である。

 スキルが解除された途端、本来のベクトル方向にかかっていた運動エネルギーは解放され、抑え込まれた分だけ、爆発的な勢いで解放されるのだ。

 クックック、志波姫神華、敗れたり……とか言ってる場合じゃねえな。


「志波姫ぇ! 本当にごめぇえー!」


 俺は大声で叫びながら、爆風に吹っ飛ばされた少女のもとへ駆け寄った。

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