ツリーキャット

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【Status】

 赤谷誠

 レベル:0

 体力 100 / 100

 魔力 10 / 10

 防御 0

 筋力 10,000

 技量 0

 知力 0

 抵抗 0

 敏捷 0

 神秘 0

 精神 0


【Skill】

 『基礎体力』

 『発展筋力』


【Equipment】

 『スキルツリー』


━━━━━━『スキルツリー』━━━━━━━

【Skill Tree】

 ツリーレベル:0

 スキルポイント:2

 ポイントミッション:完了

【Skill Menu】

 『基礎体力』

  取得可能回数:4

 『基礎魔力』

  取得可能回数:5

 『基礎防御』

  取得可能回数:5

 『発展筋力』 

  取得可能回数:4

 『基礎技量』

  取得可能回数:5

 『基礎知力』

  取得可能回数:5

 『基礎抵抗』

  取得可能回数:5

 『基礎敏捷』

  取得可能回数:5

 『基礎神秘』

  取得可能回数:5

 『基礎精神』

  取得可能回数:5


【Completed Skill】 

 『応用筋力』

  取得可能回数:0

 『基礎筋力』

  取得可能回数:0

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 さて、シルバー会員になってポイント倍キャンペーンがスタートしたわけですが、どうしましょうか。スキルポイントが2ありますが……。

 魁極振り塾の生徒としては、筋力にふりたい気持ちは強い。

 しかし、どう考えても現状の筋力をコントロールしきれず振り回されているので、ここでさらに追加で『発展筋力』を解放しにいくのは良くない。


 一方で俺は選ばれし者ではない。

 腕に変な木生やしてる貧才の一般人だ。

 器用貧乏になってしまっては成せることも成せなくなる。

 才能がないからこその一点特化だ。


 というわけで貧才なりの誇りをかけて『発展筋力』を解放しようと思う。

 何より考えるのが面倒だ。鉄は熱いうちに打て、迷ったらパワーだ。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【Status】

 赤谷誠

 レベル:0

 体力 100 / 100

 魔力 10 / 10

 防御 0

 筋力 30,000

 技量 0

 知力 0

 抵抗 0

 敏捷 0

 神秘 0

 精神 0


【Skill】

 『基礎体力』

 『発展筋力』×3


【Equipment】

 『スキルツリー』


━━━━━━『スキルツリー』━━━━━━━

【Skill Tree】

 ツリーレベル:0

 スキルポイント:0

 ポイントミッション:完了

【Skill Menu】

 『基礎体力』

  取得可能回数:4

 『基礎魔力』

  取得可能回数:5

 『基礎防御』

  取得可能回数:5

 『発展筋力』 

  取得可能回数:2

 『基礎技量』

  取得可能回数:5

 『基礎知力』

  取得可能回数:5

 『基礎抵抗』

  取得可能回数:5

 『基礎敏捷』

  取得可能回数:5

 『基礎神秘』

  取得可能回数:5

 『基礎精神』

  取得可能回数:5


【Completed Skill】 

 『応用筋力』

  取得可能回数:0

 『基礎筋力』

  取得可能回数:0

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 筋力30,000……! 10日前の俺とはもう別次元の存在だ!

 うおおおおっ、パワーを感じる、凄まじい力が溢れてくる!


 ゴキゴギ、ゴキ


「痛いっ、いたたた!」


 体の中から聞こえてはいけない音が響いてくる。

 すげえ痛いし、感覚も恐怖に塗れたものだ。肉と、骨、それらが意識を持ち始めたかのように動いて、繋がり、離れ、新しい形を求めて奔走している。


 化け物に成り果てる悪の科学者ってこんな気分なのかな、とか悠長なこと思っている場合ではない。俺は俺が俺でなくなってしまう恐ろしさにたまらず床のうえを転げ回った。


「すみませ、ん! ごめん、なさいい! もう筋力振りません、あああああ!」


 進化論を冒涜した罪だというだろうか。

 やがて痛みはおさまった。


「はぁはぁ、おさまったか……ど、どうして? 俺は許された?」


 いや、違う。そうかわかったぞ。

 授業で習ったやつだ。人体が組み変わり、それまでとは筋肉の構造が変化する現象。レベルアップによるステータス上昇は、人を遥か超生物へ至らせるという。きっと今の痛みは俺が生物学的な進化をしている証なのだろう。

 

 それは今の俺が従来の人間とは違うことを示している。

 きっと元の生物的な強度では至れない出力に発揮できる領域にやってきたんだ。


 俺は冷静さを取り戻し、皮膚の下のカーニバルが再びはじまらないことに怯えながら、そっと汗をぬぐった

 おもむろに洗面台に手を着く。台がひび割れ、崩れ落ちた。


「え……?」


 触っただけなのに。まさかこれもパワー?

 俺が自分の腕力で破壊してしまったというのか?

 いかん。覚悟はしていたが、いよいよ触れるものすべてを傷つける悪の実験生物兵器みたいになってきた。


「にゃん」

「ん? 猫の鳴き声?」


 俺は声の主人を探して視線を彷徨わせ、浴室で優雅に顔を洗う猫を発見した。

 真っ黒な猫である。どこにでもいそうな猫であるが、なぜか見覚えがあった。


「にゃん(訳:こんばんにゃん、赤谷くん)」

「しゃ、喋った……!」

「にゃんにゃん(訳:今時、喋る猫など珍しくもないにゃん)」

「今も昔も珍しいんじゃないか……?」

「にゃん(訳:私はそうは思わないにゃん)」


 なんだこの高飛車な猫は。でも、かあいいな。


「撫でていいか」

「にゃん(訳:やめるにゃん。今の君は力の加減ができないにゃん。こんな可愛い猫を醜い欲望のままに撫で回したら肉の塊がひとつでき上がってしまうにゃん)」

「忘れてた……俺はなんてことを」

「にゃん(訳:わかればいいにゃん)」


 黒猫は顔を洗う。

 立派なお髭がピンっと肉球で弾かれる。


「にゃんにゃん(訳:先日は助けてくれてありがとうにゃ。お礼を言いそびれてしまっていたにゃん)」

「先日? なんのことだよ。待てよ、もしかして、入学式の日のことか……?」

「にゃん(訳:赤谷くん、左様)」


 なにが左様じゃい。猫のくせに。かあいいな。


「あの時はお前たち猫のせいで小っ恥ずかしい目にあったんだぞ。志波姫のスクープを目撃して脅されるハメにもなったし。あれ以来、目の敵にされてるんだ」

「にゃん(訳:それは災難だったにゃん。でも、君の行いは立派だったにゃ)」

「お前なんなんだ。どうやって部屋に入った。窓は閉めたのに」

「にゃん(訳:それは些細な問題にゃ。ところで、赤谷くん、君はいま自分の身に起こっている不便な状況に困っているようにゃ)」


 猫はチラッと俺の背後を見やる。壊れ、砕けた洗面台がある。


「にゃん(訳:私は赤谷くんのことをこの1ヶ月見守ってきたにゃん。スキルツリーは無事に発芽したようでよかったにゃん)」

「いまなんて言った、発芽……? お前、スキルツリーについて知ってるのか?」


 木が生える奇病とか、呪いとか、血統とかいろいろ考えることはあったが、まさか猫が答えを持ってきてくれるなんて。


「にゃん(訳:私も記憶が曖昧にゃん。スキルツリーのこともよく覚えてないにゃん。覚えてるのは私がツリーキャットと名乗っていたことだけにゃ)」

「記憶が曖昧って……どうして?」

「にゃんにゃ(訳:私にもわからないにゃ。でも、きっと今はどうでもいいにゃ。重要なのは私は赤谷くんに助けられた時にうっかりスキルツリーをその右腕に植え付けてしまったということにゃ)」


 スキルツリーでさえ、俺の才能ではなかったということか。

 たまたま助けた猫が喋る化け猫で、そいつがうっかりした結果が今だ。


「にゃん(訳:普通の人間では発芽しないスキルツリーがなんでか赤谷くんだけ生えてるかは謎だけど……)」


 ボソッとつぶやく猫。

 それ俺が訊きたいんだが。

 はあ、でももう知る必要もないか。


「お前は俺の腕からスキルツリーを引っこ抜いて返してもらうためにわざわざ姿を現したってことだろ? ……俺は別に構わないぞ」


 俺はスキルツリーの根元をそっと掴む。

 猫は目を丸く開く。


「にゃん(訳:いいのかにゃ? それを失えば赤谷くんは本当にゴミカス雑魚雑魚借金まみれなんの取り柄なし高校生に逆戻りにゃ?)」

「口悪すぎだろ。借金まみれなのは本当だけど……。世の中には道理ってものがあるだろ。どんなにムカつくクソ親父でもでかくしてもらった恩はあるし、うっかり他人の大事なものを手に入れたからって、元の持ち主が返して欲しがってたら返してやるのが筋ってもんだ。もちろん、これがなかったら俺の未来が暗いことは間違いないけど……」


 スキルツリー。無知な俺でもわかる。

 とにかく特別で重要で価値がある。

 授業で習った異常物質アノマリーってやつかもしれない。



「にゃん(訳:返してもらわなくていいにゃ。赤谷くんはなんともまっすぐな奴にゃ。気に入ったにゃ。何より命を助けてもらった恩もあるにゃ。猫の恩返しということでそのスキルツリーは赤谷くんにあげるにゃ)」

「いいのか? てか、別に命は救ってないぞ。あの車、校門の前で止まったし。俺が助けなくてもお前は轢かれなかった」

「にゃん(訳:細かいことは気にしなくていいにゃ。ありがたく受け取っておくにゃ。あとこれもあげるにゃ」


 猫はどこからともなく奇妙なモノを取り出した。

 クルミのようだった。赤黒く、カピカピに乾いている。

 心臓のようにドクンドクンっと胎動している。

 触れるとほのかに温かかった。きめえな。なんだよコレ。

 

「あの、猫さん」

「にゃん(訳:ツリーキャットと呼ぶにゃ。それが私の名前なのにゃから)」

「おい、ツリーキャット、こんなキモい物を俺にどうしろと」

「にゃん(訳:食べるにゃん)」

「無理だろ」

「にゃん(訳:それは『血に枯れた種子アダムズシード』にゃん。赤谷くんの体に誤って植え付けてしまったのもそれにゃ)」

「それじゃあ、このキモいクルミがスキルツリーの正体?」

「にゃん(訳:そうなるにゃ。そして、スキルツリーを宿した者が『血に枯れた種子アダムズシード』を食べると……)」


 猫はそこで言葉を区切り、じーっと見つめてくる。

 いきなり食べろなんて無茶すぎるだろ。


「にゃん(訳:何をすればいいのかはスキルツリーの導きが教えてくれるはずにゃ)」


 俺は今までずっとダメなやつだった。

 これは数奇なチャンスだ。

 たまたま助けた化け猫の恩返し、善行が俺へ帰って来たんだ。

 他人にない唯一の才能をくれるというなら、拒むわけがない。


 俺は意を決してキモいクルミを飲みこんだ。

 途端、右腕に激痛が走り、皮膚を破りスキルツリーが飛び出した。


「ぎゃあああぁああッ!? いってぇぇええ!」


 サイズは見るからに太くなっており、枝も立派に育っていく。

 これまでより傷口がデカい。それに万力でゆっくり傷口を広げられているようで、耐え難い長い苦しみが襲ってくる。


 だが、強くなっている。

 スキルツリーが大きな進化をしたのだ。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【Status】

 赤谷誠

 レベル:0

 体力 1 / 100

 魔力 10 / 10

 防御 0

 筋力 30,000

 技量 0

 知力 0

 抵抗 0

 敏捷 0

 神秘 0

 精神 0


【Skill】

 『基礎体力』

 『発展筋力』×3


【Equipment】

 『スキルツリー』


━━━━━━『スキルツリー』━━━━━━━

【Skill Tree】

 ツリーレベル:1

 スキルポイント:0

 ポイントミッション:完了

【Skill Menu】

 『基礎体力』

  取得可能回数:4

 『基礎魔力』

  取得可能回数:5

 『基礎防御』

  取得可能回数:5

 『発展筋力』 

  取得可能回数:2

 『基礎技量』

  取得可能回数:5

 『基礎知力』

  取得可能回数:5

 『基礎抵抗』

  取得可能回数:5

 『基礎敏捷』

  取得可能回数:5

 『基礎神秘』

  取得可能回数:5

 『基礎精神』

  取得可能回数:5

 『かたくなる』 NEW!

  取得可能回数:1

 

【Completed Skill】

 『応用筋力』

  取得可能回数:0

 『基礎筋力』

  取得可能回数:0

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「にゃん(訳:おめでとうにゃん。ツリーレベルの上昇に成功したにゃん)」


 黒猫は楽しげににゃんにゃん言っている。

 反応を返してやる余裕はない。

 出血しずぎた。全身を虚脱感が襲ってくる。

 俺の意識は急速に暗闇のなかに沈んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る