かたくなる

 頬にあたるフローリングの硬い感触。 

 目覚めると俺は血溜まりのなかにいた。


 むせかえるような血の匂いから起き上がると、血みどろの洗面所が視界に入ってくる。最悪だ。これまた掃除しなくちゃいけないのかよ。ダビデ寮長にそろそろ大量のタオルを何に使ってるのか疑われるな。


「あの猫……ツリーキャットは」


 キョロキョロあたりを見渡すが、黒猫の姿は見当たらない。

 気絶している間にどっか行ってしまったようだ。

 猫は気まぐれな生き物だというが、血まみれの俺を無視とは辛辣なやつだ。

   

「開け、ステータス」

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【Status】

 赤谷誠

 レベル:0

 体力 1 / 100

 魔力 10 / 10

 防御 0

 筋力 30,000

 技量 0

 知力 0

 抵抗 0

 敏捷 0

 神秘 0

 精神 0


【Skill】

 『基礎体力』

 『発展筋力』×3


【Equipment】

 『スキルツリー』


━━━━━━『スキルツリー』━━━━━━━

【Skill Tree】

 ツリーレベル:1

 スキルポイント:0

 ポイントミッション:完了

【Skill Menu】

 『基礎体力』

  取得可能回数:4

 『基礎魔力』

  取得可能回数:5

 『基礎防御』

  取得可能回数:5

 『発展筋力』 

  取得可能回数:2

 『基礎技量』

  取得可能回数:5

 『基礎知力』

  取得可能回数:5

 『基礎抵抗』

  取得可能回数:5

 『基礎敏捷』

  取得可能回数:5

 『基礎神秘』

  取得可能回数:5

 『基礎精神』

  取得可能回数:5

 『かたくなる』 NEW!

  取得可能回数:1

 

【Completed Skill】

 『応用筋力』

  取得可能回数:0

 『基礎筋力』

  取得可能回数:0

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 相変わらず大量出血したせいで『HP 1/100』になっている。

 スキルツリー勢いよく出てきすぎなんだ。


 【Skill Tree】の欄にあるツリーレベルなるものが1に上昇してる。以前までは0だったというのに。

 気絶する前にツリーキャットに食べるように言われたアレ、キモいクルミ、名前はたしか……『血に枯れた種子アダムズシード』と言ったか、あれを俺が食べることでスキルツリーは成長するのだ。


 もしかしなくてもおそらくは異常物質アノマリーなのだろう。

 異常物質は不思議な能力を持ったモノ・コトの総称であり、探索者とダンジョンの奇怪な世界を語るうえでは避けて通れない概念だ。授業で習った。

 

「俺、異常物質食べたのか……大丈夫なんだろうな」


 体をペタペタと触る。

 肌は温かく、心臓の鼓動は規則的だ。

 今のところおかしなところはない。腕から木が生えてる以外は。


 スキルツリーウィンドウに追加された新しい取得可能スキルへ注視する。

 『かたくなる』か。これまで違う趣のスキルだ。ステータス関連のスキルではないのか。

 スキル名を指でなぞり詳細を確認する。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━

『かたくなる』

アクティブスキル

触れた物がかたくなる

【コスト】MP10


その者は儚きものを嫌った

━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 パッシブスキルではない。

 初めてのアクティブスキルだ。

 やはり、これまでとは違う。

 

「にゃん(訳:スキルツリーのツリーレベルが上がったから、ツリーは成長し、新しいスキルへアクセスできるようになったにゃん)」

「あっ、お前いつの間に。どこ行ってたんだよ」

「にゃん(訳:寝てる間に食堂が閉まっちゃうから夕ご飯を取ってきてあげたにゃん)」


 洗面所を出て、机のほうを見やる。

 ご飯に焼き魚に味噌汁と、今晩のメニューがお盆に乗せておいてあった。

 意外と良い猫だ。


「ごめん、俺、てっきり怪我人を置いてどっかいく薄情キャットかと」

「にゃん(訳:気にしなくていいにゃん。それよりスキルツリーについて聞きたいことがあると思うにゃん)」

「そういえば、さっき新しいスキルへアクセスできるようになったとかなんとか……『かたくなる』ってスキルツリーが成長したおかげで増えたのか」

「にゃん(訳:なんのスキルが増えたのかは私は知らにゃいけど、今のタイミングで増えたのなら、その可能性は高いにゃ。本来、スキルツリーは”現時点までに存在したすべてのスキルにアクセスできる”ものにゃん。でも、赤谷くんに宿ったスキルツリーも、いましがた取り込んだ『血に枯れた種子アダムズシード』も、血の樹のごく一部にすぎないにゃん。だからアクセス可能スキルは限定的にゃん。でも、『血に枯れた種子アダムズシード』を取り込むことでアクセス可能スキルを増やすことはできるにゃん)」

「すごいじゃないか。もっとキモいクルミくれよ!」

「にゃん(訳:『血に枯れた種子アダムズシード』にゃん)」

「なんでもいいさ、それがあれば俺みたいな才能ないやつでもすごい探索者になれるかもしれないんだろう」

「にゃん(訳:残念ながら私の手元にあった2つの『血に枯れた種子アダムズシード』はすでに赤谷くんに宿ってるにゃん)」

「そう、か。すべてのスキルにアクセスできれば好きなスキルを取得し放題だと思ったのに」


 そう上手くはいかないか。


「にゃん(訳:まあ、その話はおいおいするつもりにゃ。今は夕ご飯が冷める前に腹ごしらえするにゃ)」


 俺は血に塗れたシャツを脱ぎ、軽く体を拭いて食にありついた。

 

 翌日。

 朝起きると、お腹のうえでツリーキャットが丸くなっていた。

 起きれない。どうすればいいんだ。学校に遅刻してしまう。


「おい、起きろよ、撫でちゃうぞ」


 ツリーキャットはむくっと顔をあげ、しかめ面で横にずれて寝直し始めた。

 

 洗面所でステータスを確認する。

 洗面台が壊れているせいで、水を勢いよく流すと溢れてしまう。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【Status】

 赤谷誠

 レベル:0

 体力 100 / 100

 魔力 10 / 10

 防御 0

 筋力 30,000

 技量 0

 知力 0

 抵抗 0

 敏捷 0

 神秘 0

 精神 0


【Skill】

 『基礎体力』

 『発展筋力』×3


【Equipment】

 『スキルツリー』


━━━━━━『スキルツリー』━━━━━━━

【Skill Tree】

 ツリーレベル:1

 スキルポイント:0

 ポイントミッション:『外周』

【Skill Menu】

 『基礎体力』

  取得可能回数:4

 『基礎魔力』

  取得可能回数:5

 『基礎防御』

  取得可能回数:5

 『発展筋力』 

  取得可能回数:2

 『基礎技量』

  取得可能回数:5

 『基礎知力』

  取得可能回数:5

 『基礎抵抗』

  取得可能回数:5

 『基礎敏捷』

  取得可能回数:5

 『基礎神秘』

  取得可能回数:5

 『基礎精神』

  取得可能回数:5

 『かたくなる』 

  取得可能回数:1

 

【Completed Skill】

 『応用筋力』

  取得可能回数:0

 『基礎筋力』

  取得可能回数:0

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 本日のポイントミッションも『外周』だ。

 これ変わることあるのかな。

 できればもっと簡単なのに変わって欲しい。

 ただ、これに慣れてきたし、もっと厳しいのがくる可能性を考えると、今のミッションのままでもいい気がする。


 今日はぜひとも新しく増えたアクティブスキル『かたくなる』の解放を目指したい。シルバー会員なのできっと2スキルポイントもらえる。


「にゃん(訳:技量を取るとパワーのコントロールがしやすくなるにゃん)」


 突然とベッドの方から聞こえてくる。

 顔を向けると窓からツリーキャットが出ていくのがチラッと見えた。

 ワンポイントアドバイスということだろうか。


 その日、俺は学校生活をほとんど動かずに過ごした。

 人間には絶対に触れないようにし、授業の板書も取ってる風を装うだけで実際に書くことはしなかった。油断するとタッチペンでタブレットに穴をあけかねないからだ。それだけは絶対に避けなければならない。


 放課後、俺はいつもどおりジャージに着替えて外周をはじめた。

 夕食前に寮の自室に戻ってくる。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【本日のポイントミッション】

  毎日コツコツ頑張ろう!

    『外周』


英雄高校の敷地を外周する 10/10


【報酬】

 2スキルポイント獲得!


【継続日数】11日目

【コツコツランク】シルバー

【ポイント倍率】2.0倍

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 今日もありがとう、ポイントのおかげで生きていけます。

 

 本日取得したスキルは2種類だ。

 『基礎技量』と『かたくなる』である。

 取得理由はツリーキャットの助言と新スキルだからだ。。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

【Status】

 赤谷誠

 レベル:0

 体力 100 / 100

 魔力 10 / 10

 防御 0

 筋力 30,000

 技量 100

 知力 0

 抵抗 0

 敏捷 0

 神秘 0

 精神 0


【Skill】

 『基礎体力』

 『基礎技量』

 『発展筋力』×3

 『かたくなる』


【Equipment】

 『スキルツリー』

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「あっ、違う」


 取得してわかる。技量ええやん。

 自分の体が自分のものになった感覚がする。

 筋力系のステータスをとるたびに、ふわふわした感覚が俺の体を覆っていき、さっきまでは手で物に触れるとき、それが長い端の先でつまむかのような、融通の利かなさを感じていたというのに。

 今ではその箸はずっと短く感じられる。


 自分の肉体を操る技量を得たということか。

 『基礎技量』ひとつでこんなに変わるのなら、もっとはやく取っておけばよかった。

 

 して肝心の『かたくなる』だ。

 

「消費MP10か。何に試そうかな。どうすればいいかな、ツリーキャット」


 返事はない。

 部屋を見渡しても、姿はない。

 いつでもいてくれるわけじゃないのか。


 俺は自分で考え、タオルを手に取る。

 何度も血を拭いたせいで真っ白だったのが、今ではピンク色だ。

 瞳を閉じ、意識を集中すれば、スキルの使い方は不思議と理解できた。


「スキル発動━━『かたくなる』」


 たらーんっと垂らしていたピンク色のタオルを剣のように持ち上げる。

 タオルが天を突くように垂直に立っている。


「確かに固くなったな」


 コンコンっと机を叩く。硬度はなかなかのものだ。まるで金属でも触っているように完全にかたまっている。

 やがてピンク色のタオルはへにゃっとなって、重力に従って垂れさがった。効果時間は10秒と言ったところか。意外と短いな。


「疲れたな……MP切れのせいかな?」


 『かたくなる』一回使ったら、俺のMPは底を突く。

 これからアクティブスキルが増えることを考えれば、もう少しMPを増強しておいた方がいいかもな。だって……━━、


━━━━━━『スキルツリー』━━━━━━━

【Skill Tree】

 ツリーレベル:1

 スキルポイント:0

 ポイントミッション:完了

【Skill Menu】

 『基礎体力』

  取得可能回数:4

 『基礎魔力』

  取得可能回数:5

 『基礎防御』

  取得可能回数:5

 『発展筋力』 

  取得可能回数:2

 『基礎技量』

  取得可能回数:4

 『基礎知力』

  取得可能回数:5

 『基礎抵抗』

  取得可能回数:5

 『基礎敏捷』

  取得可能回数:5

 『基礎神秘』

  取得可能回数:5

 『基礎精神』

  取得可能回数:5

 『やわらかくなる』 NEW!

  取得可能回数:1

 『くっつく』    NEW!

  取得可能回数:1

 

【Completed Skill】

 『応用筋力』

  取得可能回数:0

 『基礎筋力』

  取得可能回数:0

 『かたくなる』 

  取得可能回数:0

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 【Skill Menu】がどんどん賑やかになっていくんだもん。

 新しい取得可能スキルが増えすぎである。

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