第7話 待望の赤ちゃん

父、直克なおかつの一周忌法要が滞りなく済んだ。


と同時に、出産間際の咲は父親の部屋を片付けるために……


のだった。




書斎には、数え切れないほどの本や、ブルーレイがキッチリと

並んでいた。



その光景をしばらくの間、息を飲んで見つめていた。



咲にとっては、あっという間の

1年間であった。



父親が亡くなった寂しさを理解してくれた和哉かーくんの両親にも、


咲はとてつもなく大切にされていた。




咲はポツリと……

『お父さん、孫が見たいって、

言ってたね?』



部屋を眺めながらも




ある種の不思議な感覚に包まれていた咲は……


少しだけ足元がふらつき、ゴミ箱を蹴ってしまった!





『あ!……ごめん、お父さん!』



とその時だった。くしゃくしゃにされた1枚の紙が転がっていたのである。



咲は、不思議に思い紙を拾うと

意を決して広げてみた。





するとそこには、亡き父からの

言葉が綴られていた。



たった一言……。








幸せな人生だった。ありがとう。』



と、だけ書いてあった。



それを読んだ咲は、急に父親の

今までの姿の走馬燈がどんどんと溢れてきたのだった。




いつしか咲は、涙が溢れ出して

堰を切った様に泣き出した。






『お父さん!お父さん!うっ、うわぁ~~ッッ』




咲は、父親の性格をよく分かっていた。恥ずかしがり屋な一面も

強がりな一面も、



全て全て、咲は知っていた。





咲は父親の残した手紙を握りしめ

部屋からそっと出て行った。






その数週間後に、咲は待望の赤ちゃんを産み落とす。



名前は、優木ゆうき




男の子だ!優しい木と書いて、

優しさのタネをまいて、健やかに育つように。と……





優木ゆうきはなぜか、

おじいちゃんの話をすると、とびきりの笑顔を見せるのだった。




おじいちゃんの写真を見せても、

『じぃじ、、、。』



と、話すので咲と和哉かーくんは不思議に思っていた。




だが。優木ゆうきには分かっていたのだ。





自分の行く先、行く先で




天から微笑みを見せてくれることを……




あの日、じぃじと約束した事は

優木ゆうきは忘れてしまったが。




じぃじとばぁばが

常に守り抜いてくれているから




咲は、不思議な光景にまた遭遇する。それは……



『じぃじ、タッチ!』と言いながら、優木ゆうきは、まるでそこに父親が居るかの様にままごとをしている優木ゆうきの姿があった。

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渡せなかった手紙~父から娘へ~ たから聖 @08061012

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