Stone's throw (目と鼻の先)

 犬も歩けば棒に当たると言うけれど。行動すれば災難に遭うのか幸運に恵まれるのか、どっちの意味だっけ、と考える。


 通算99回目の告白が失敗してショックで泣き叫んでいたのは先日のこと。通りすがりのクラスメイトの田中くんにハンカチを貸して貰って、慰められたのか何なのかよく分からない状況で、彼から告白めいたものを受けた。


 された、よね?振られ続けの私に「俺にしとかない?」って言ってたよね?


 機械じゃないかと噂されるくらい無表情無感情な彼に急にそんな事を言われて、びっくりした私はその日何も言えずに家に帰り着いてしまった。

 でもあの日から田中くんの態度がおかしい。借りたハンカチを返そうと思っているのに、なんだか避けられている気がする。

 休み時間はどこかに消えるし、気付けば放課後もさっさと帰ってしまっている。同じクラスなのに話しかける隙がない。


「田中くん!」


 探し回って、あの日会った河原の土手にボーっと座ってる田中くんをやっと見つけた。

 彼はゆっくり振り向いて「あ」と短く言葉を発しながら立ち上がった。その顔にはやっぱりなんの感情も浮かんでいなくて、もしかしてあの日の言葉は全部幻だったんじゃないかと思った。

 だって私日頃から妄想癖すごいし。ショックで自分に都合のいい妄想をしたんじゃないだろうか。

 でも、ハンカチはこの手の中にある。これは現実。


「あの、ハンカチ返そうと思って」

「うん」

「ありがとう。返すの遅くなってごめんね。ちゃんと洗ってアイロン掛けたよ」

「うん」


 相変わらず反応が薄い彼。返すのが遅くなったのは田中くんがすぐ姿を消してたせいもあるんですけど!とは言えずに、ハンカチを差し出した。

 すると彼はなぜかハンカチごと私の手を握った。え?ちょ、何?気付けば目と鼻の先に彼がいる。


「好き」

「え?は?」

「何驚いてんの?この前誰でもいいから『好き』って言えって自分で言ったんでしょ」

「え?あ、言った……?うん、言ったね」

「好きです、音島瑠璃おとじまるりさん。俺と付き合ってください」


 田中くんの顔は今まで見た事もないくらい真っ赤だった。


 人生初の告白を受けて、あわあわした私がその後どうなったのかと言うと、めでたく彼とお付き合いする事になった。数日避けられていたのは、告白するのにかなりの勇気が要ったからだとずいぶん後になってから聞いた。


 田中くんは無表情無感情の機械なんかじゃなくて、とてもシャイだったのだ。

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アオハルディストピア 鳥尾巻 @toriokan

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