第6話 魔女との契約

 結局、我々四人では話し合いも儘ならないので、対戦内容は橋本さんの意見を考慮し、『ババ抜き』をするということで決定した。


 『偃武場』は『異能システム』を採用しており、特殊な力で多種多様のものを呼び出し可能となっている。当然、このトランプもその一つだ。


 しかし、それ以外は至って普通の演習場。二階の両サイドには観戦室が設けられており、小窓から日の光が差し込むテーブル席にて執り行うこととなった。


 チーム同士対面に座り、藤宮さんから順に、橋本さん、大和くん、私と反時計回りに取っていく流れだ。


「基本のルールは普通のババ抜きと同じです。違うところは能力の使用がアリということと、だけです。何かご質問は?」


 トランプを配り終えた私がそう尋ねると、いの一番に大和くんが問うてくる。


「最後まで残ったチームが負けってことか?」

「当然、そうなります」

「隣の相手チームが居なくなった時の差し込みは?」

「見せあうような直接的なものでなければ問題ありません」

「なるほどね……。先にアガればいいってもんじゃないわけか」


 そう。これはチーム戦。残ればその分だけ二人で回せることになる。まず狙うべきは一番気乗りしていないであろう藤宮さん。彼女をアガらせてから、私と橋本さんで一気に勝負をつける!


「では、藤宮さんから引いてってください」


 促された藤宮さんは心底面倒くさそうに私からカードを引き、ジャックのペアを出す。


「じゃあ、引くね。あ、そういえば牧瀬ちゃん、この前の小テスト何点だった?」


 次いで橋本さんが雑談と共にカードを引き、3のペアを捨てる。


「この前の小テスト……と言うと数学でしたね? 百点でしたよ」


 私がそう答えている間に大和くんが引き、そのままカードをこちらに向ける。


「相変わらずね~。私も普段から、調でいければいいんだけど……」

「橋本さんだっていつも高得点じゃないですか。文武両道だなんて凄いです」


 私は大和くんからカードを引くと、Aのペアを捨てたのち、


 そして藤宮さんは予想通り、私のからカードを引き、キングのペアを捨てた。気乗りしてない人が、わざわざ奥のカードを取ることはない。一番近場である右端で済ませる。一手目も二手目も。


 その結果――


「はい、アガり」


 何巡かしたのち、藤宮さんが一抜けした。

 これで場は整った。あとはこのババを橋本さん経由で大和くんに送りつけるだけ。それで私たちの勝ち……!


 そう思いながら大和くんに視線を移すと、当の本人はガラス張り越しに後方を眺めていた。特に動きもない演習場を。


 本来であれば能力は決められた授業でのみ使用可能。

 実技演習はその一つであり、数少ない『自由に能力が使える時間』だ。


 だからこそ生徒にも人気のある授業、だったはずなのだが……今は違う。皆一様に警戒していて普段の活気が見られない。それもそのはず……近くに『暴露バクロ』する可能性のある存在が居るのだ。おいそれと弱みは見せられないのだろう。


「じゃあ藤宮さんがアガったから、牧瀬ちゃんから引くね」


 橋本さんからのアイコンタクトに私は小さく頷き、作戦通りババを引き渡す。


 橋本さんの手札は残り三枚。ここでババを引かれなかったとしても、次のターンで私からの差し込みができる。そうすれば自ずと大和くんの下へババが行くはずだ。あとは私の能力で……!


「はい、大和くんの番だよ」


 橋本さんに促された大和くんは前へと向き直り、カードを引くと8のペアを捨てる。残りの手札は二枚。


「では、失礼します」


 私は大和くんからカードを引き、6のペアを捨てる。残りはAと9の二枚。どちらかを差し込めば橋本さんはアガり――


「そういえば藤宮。お前、なんで避けられてるんだ?」


 しかし、勝利一歩手前のところで、唐突に大和くんが触れてはならない話題を振ってしまう。


「は? 何よ急に?」


 当然、藤宮さんも疑問を呈す。それどころか少し怒ってさえいるようだった。


「聞いた話じゃ、他の生徒とヤリまくってるって噂だ。……本当か?」

「ハッ……アンタもその手合い? 少しはマシな奴かと思ったけど、アタシにまで喧嘩を売るバカだとは思わなかったわ」


 一触即発の状況に、思わず手が止まる私と橋本さん。


「で、そういう奴らを返り討ちにして付けられた異名が――『邀撃ようげきの魔女』」

「そこまで知ってんのに聞いてくんじゃないわよ。アンタも返り討ちにされたいの? 何? ドM?」


 さすがにこれ以上はマズいと、私が「あの……!」と取り持とうとするが――


「その噂、流してる奴……見つけてやろうか?」


 大和くんのその一言に私を含め、藤宮さんの怒りさえも逆に止められてしまう。


「……は? 何言ってんの……?」

「だから見つけてやるっつってんの。困ってんだろ? 妙な噂立てられて」

「なんでアンタがそんなこと……。何が目的?」


 大和くんは一拍置くと、カードを見せながら、こう述べる。


「オレはさ……負けず嫌いなんだよ」

「は……?」

「トランプのババ抜き如きでも負けたくない。言ってる意味、わかるよな?」

「……力を貸せってこと?」

「ああ。さらに付け加えると、犯人の目星はもうついてる」

「は⁉ マジ⁉ 嘘でしょ⁉」

「マジだ。乗らない手はないと思うが?」


 大和くんの大胆な物言いに、私たちは思わず度肝を抜かれてしまう。

 藤宮さんもそれは同じで、暫く考え込むように俯いていたが、恐らく答えは決まっているのだろう。だって、高ぶる口角がそれを隠せていなかったから。


「面白いじゃない! いいわよ? そこまで大口叩くなら乗ってあげる。でも、もし嘘ついたら……その時はタダじゃ置かないわよ?」

「契約成立だな」


 こうして大和くんと藤宮さんは今まさに――本当の意味でチームとなった。

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