第7話 エースを見つけ出せ

「で? 何から始める?」

「まずは部外者にご退場願おう。それからシャッフルだ」


 藤宮さんの申し出に、大和くんは淡々と契約内容を伝える。


 マズイ……! もうバレて――


 しかし、そう思った時にはもう、藤宮さんは右斜め後方へと視線を送っていた。

 その場所には小窓が設置してあり、外からは一羽の鳩が……


「逃げて! ポポちゃん!」


 突如、立ち上がる橋本さん。

 しかし、藤宮さんの能力の方が一手早く、鳩はまるで反発するかのように、空の彼方へと飛ばされてしまう。


「あぁ……ごめん、ポポちゃん……」


 謝りながら項垂れていく橋本さん。

 すると大和くんが、これ見よがしに解説を入れてくる。


「【異種疎通】……教えてくれた割には大胆に使うじゃないか、橋本さん? あの鳩に牧瀬と藤宮の手札を覗かせてゲームメイクしてたんだろ?」

「いや……そんなに大層なものじゃ……。あれはポポちゃんが気を遣ってくれただけで……」


 そう言いながら橋本さんが座ると、直後――藤宮さんは私へと視線を移し、隙を突くように手札を弾き飛ばす。


「――ッ⁉ これが……藤宮さんの力……?」


 思わず声が漏れる私。

 こうして形勢は振出しに戻った、はずなのだが……何故か藤宮さんは涙を流していた。


「それがお前の能力の代償か、藤宮?」


 と、大和くんが私よりも先に問う。


「不正解。アンタも『暴露』したって言う割にはまだまだね」


 藤宮さんは涙を拭いつつ、嘲りながらそう返した。


「そうかい……。じゃあ、再開と行こうか。拾えよ、牧瀬?」


 大和くんに促された私は、さぞ不服な面持ちをしていたことだろう。

 だが、ここは素直にカードを拾う。どちらにせよ残り手札は二枚だ。二分の一の確率で橋本さんはアガれる!


「どうぞ、橋本さん……」


 私はそう言いながら橋本さんの前へと手札を差し出す。

 これ以上のアイコンタクトは無用。妙な真似でもしようなら、また弾き飛ばされる可能性がある。あとは運に任せよう。


「うん……」


 橋本さんは小さく頷くと、手を右往左往と何度か行き来させ、私から見て右の9を取る。

 橋本さんは数字を確認するとすぐに笑みを浮かべ、9のペアを捨てたのち最後の一枚を大和くんへと差し出した。


「はい、大和くん」


 橋本さんの珍しいドヤ顔に対し、大和くんは若干不服げ。肩を竦めつつ、その一枚を受け取った。


「……ちょっとー? 意味あったのコレ?」


 すると藤宮さんが堪らず、溜息交じりに大和くんを睨む。


「あったさ。完全勝利が狙えたかもしれないだろ? ま、どうせ勝つことに変わりはないんだし気にするな」


 そう言って大和くんは手札を混ぜ、最後の一戦と私の前にカードを差し出す。


「随分、余裕ですね? もう勝つ気でいる」


 私も負けじと真っ直ぐ大和くんを見据える。


「当然だ。オレはこの学園で負けるつもりはない」

「そうですか……。では――」


 そこで私は満を持して――己が異能を使用した。

 私の異能力は【嘘見はけんの明】。対象者の嘘を見抜き、本当であれば青、嘘であれば赤で色分けすることができる。


「こちらが……Aでしょうか?」


 そして対象者に問いが投げかけられた時、発動する為の『条件』が満たされる。私の前では誰一人――嘘は付けない!


 左右の目が赤と青に光る中、私は自分から見て右のカードを指差し、続けざまに大和くんへと問いかけた。


「ああ……そうだ」


 端的にそう返す大和くん。これで私たちの勝利が確定――


「……あれ? 嘘……なんで……」


 ……したはずだった。


 しかし、私の目に映し出されたのは、青でも赤でもない無色透明の大和くん。いや、正確に言えばといった方が正しいか。なんにせよ、これでは見抜くことが……


「どうした? せっかく教えてやったんだ。早く取れよ?」

「大和くん……あなたは……」


 まるで見透かしてるかのような態度に私は焦った。他の二人からすれば、さぞ異様な光景に見えていることだろう。だが取り繕えるほど、今の私は冷静ではない。何せ、こんなこと初めてで……


「いくら考えたって、どうせ二分の一だ。だったらスパッと決めちまえよ?」


 こちらの気も知らず、更に催促を入れてくる大和くん。


 これだけ煽るということは……今のは嘘? ジョーカーを引かせる為の? いや、そう思わせておいて実は本当で……ダメだ! この行く末は堂々巡り……彼からヒントを得ようということ自体が間違ってる! もうここは直感で――


 そこで私は先程とは逆――左のカードを勢い良く引いた。


 考えることを辞めたら人間は終わり。この時ほど、そう思ったことはない。最後の最後で運任せでは勝利の女神だって――


「くっ……!」


 ……微笑むことはない。


 私は唇を嚙み締めながら、カードをシャッフルした。


「だから言ったのに……。じゃあ、オレは右を取ろうかな?」

「――ッ⁉」

「……やっぱり左か?」

「………………」

「右」

「――ッ⁉」


 そこで大和くんは盛大に笑ってみせる。

 その理由は私が一番……よく分かっていた。


「……どうやら、お前は『代償』として『噓がつけなくなる』ようだな? 全部、顔に出てる。バレバレだ」


 そう言って大和くんは右のカードを取り、Aのペアを捨てて勝利を掴み取った。

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