最終話 ママの元カレ
週末の夜7時。
翼と葵は浅草にいた。今日は葵の言う「元彼」と一緒に食事をする日だ。
浅草寺近くにある酒場通り。
「この辺らしいんだけどぉ‥」
ずらりと並ぶ赤提灯の中に、葵はその男が指定した店を探す。“携帯に電話してみれば” と提案する翼に、葵は“彼、携帯持ってないから” と言って笑った。
「ウソでしょ? 今時、いい大人が携帯持ってないなんて..」
翼の言葉が終わる前に、酒場の喧騒を上回るデカイ声がした。
「あおい~!」
驚いて振り向いた翼の目に、バタバタと走って来る長身の男が映る。
”ゲゲッ、何じゃありゃ!?”
スリーピースのスーツにアクの強いストライプのボタンダウン。そ、そして真っ赤なネクタイ..
しかし次の瞬間、ドン引きしている翼を押しのけるように、 葵は歓声をあげてその男に駆け寄った。
「裕さぁ〜ん!」
ゆ、ゆうさん??
翼はあっけにとられて、抱き合う 2 人を見た。
細身のジーンズに、ナラカミーチェのイタリアンブラウスを着た葵と、スリーピースで赤ネクタイの大男..
“ぜ、全然似合ってないぞ、この 2 人”
「裕さん変わってなーい。相変わらず男前ね」
「当たり前だのクラッカー!お前もべっぴんやで、葵」
か、関西弁!? ひるむ翼を葵が返り見る。
「あっ裕さん、あれ私の息子。大きくなったでしょ」
「ガチョーン!お前、翼か」
男は右手で意味不明のアクションをしながら近づいてくると、痛いほどの力で翼の手を取り、強引に握手をさせられた。
角刈りのようなヘアースタイルに太い眉.. 何だか昔の映画にでも出てきそうな男だ。その角刈りに向かって葵が言った。
「裕さん、お店どこぉ?」
「せや。もう先に娘と一杯やってんねや。こっちやで」
”む、娘??”
男は片手で葵の肩を馴れ馴れしく抱き、もう片方の手で翼の背中をぞんざいに押しながら暖簾をくぐる。
同時に “いらっしゃいませー” と威勢のいい声が飛んできた。
煙が充満した店内。
その1番奥のテーブル席に、焼き鳥を頬張るおかっぱ頭の少女が見える。
“ま、まさか..”
「あれ?翼やん」
おかっぱ頭が顔を上げ、口元にたっぷりとタレをつけたままニカっと笑った。
「ゆ、雪竹菊美!」
『雪竹菊美には負けられない』第一部 完
<次回予告>
翼が密かに持ち歩く写真..実はその美少女の正体は、20年前の母親 葵であった。しかもそれは、菊美の父、裕次郎が写したものであることが発覚!
いったい2人にはどんな過去があるのか!?
次回 第二部 「あんたあの子のなんなのさ」
<次次回予告>
学校の遠足で鎌倉にやって来た菊美たちは、自由時間に綿あめ屋のオヤジさんから源氏山にまつわる蛇女の話を聞かされる。怖いもの 見たさで源氏山に向かった菊美たちは、その途中、髪の長い不思議 な女性に呼び止められた..
「お嬢さんたち、どこに行くんだい?」
次次回 第三部 「じょ、冗談はよし子サン!」
<次次次回予告>
担任のウォーリーの様子がおかしい。どうやら恋煩いらしい..
そんな噂を耳にした菊美たちは、先生の恋を応援しようと作戦を考える。
何とかしてメアドをゲットできないか画策するウォーリーに、 菊美はラブレターを書くことをすすめるが..
次次次回 「恋は手紙で OK 牧場!」
雪竹菊美には負けられない 麻美拓海 @kurasawa7129
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