僕はただ、ゲームをクリアしたいだけなのに

たなかし

僕はただ、ゲームをクリアしたいだけなのに

ピコピコピコピコ


バコン ドドー ウーウーウーウーウーウー


「くっそー、またここか……」

「サトル、そろそろご飯できるわよ。ゲームばかりやって、宿題は終わったの?」

「今やろうとしたとこ~……」


 もちろん、宿題なんて今の今まで忘れていた。だってそのくらい面白いゲームなんだもの、熱中するのも仕方ないよ。

 頭の中でさっきのゲームの攻略方法を考えながら、宿題のプリントを適当に片付けた。

 僕の名前は「サトル」。小学5年生。

 僕が夢中になってるゲームはAIに支配された町から逃げ切るという、サバイバルゲーム。僕だけじゃない。同級生もみんな夢中でやってる大人気ゲームだ。

 もう少しでクリアできるってところで毎回ガーディアンに捕まってゲームオーバーになってしまう。

 ネットでググろうとしても検索エラーが出てしまい、攻略情報を見ることができない。どうやらメーカーのほうからすごいプロテクトがかかってるって専らの噂だ。

 ご飯の間もお風呂の間もずっと攻略の仕方を考えているので、どんなもの食べたかもどうやってお風呂に入ったのかも忘れるほどだ。

 そして気付くといつものように布団の中でそれを考えながら寝落ちしてしまう。




 翌日。


「お前どうだった? クリアできた?」

「ううん、いつも通り最後で捕まっちゃうよ」


 クラスメートの「リョウタ」が僕に聞いてきた。やっぱりみんな同じ。クリアできたものはいない。


「サトル君すごいなぁ。最後まで行けるんだ? 私いつも最初に捕まっちゃって全然進まないの。もしよかったら私に序盤の攻略教えてくれない?」


 クラス1の人気女子「ハルナ」が僕に言ってきた。


「う、うん。いいよ別に……」


 僕は素っ気なく答えた。もちろん本心じゃない。本当はすごくびっくりしたし、すごくドキドキした。だってずっと僕が好きだった子だったから。でもそれを知られると恥ずかしいという気持ちが僕の言葉をそうさせた。


「じゃあ放課後、学校裏の公園でいいかな? 私ゲーム持っていくね」

「あ、うん。分かった」


 僕の心は高鳴っていた。だって大好きな彼女と大好きなゲームができるんだもの。


 学校が終わると急いで家に帰り、ゲームをバッグに入れて公園に向かった。




 そして僕は愕然とした。だってそこには期待していたのと違う光景があったから。


「やめて! か、返してください……」

「返してじゃねーよ。これはもう俺たちが貰ったんだ」


 中学生の不良たちが、ハルナが持っていたゲーム機を奪い取っていた。

 ハルナは泣いてお願いするしかない状態だった。それもそのはず、相手は年上の男2人組。力で到底及ぶはずもない。僕だって無理だ。

 僕だって取り返してあげたい。ハルナに嫌な思いをさせたこの2人を懲らしめてやりたい。だけど非力な僕にそんなことは無理。逆にハルナにかっこ悪いところを見せるだけだ。


「あ……」


 そう考えているうちに、ハルナは僕に気付いた。そして目で僕に助けを訴えた。


 無我夢中だった。今までの葛藤などどこかへ吹き飛んだ。気が付くと僕は中学生に体当たりしていた。


「いってぇ……てめぇなんだよいきなり」


 そいつは僕を睨んだけど僕は怯まなかった。そのまままたそいつに突進して倒し、馬乗りになった。


「返せよ! 奪ったゲーム返せよ!」


 僕がそう言った瞬間、僕の視界は180度回転した。後ろからもう1人が僕に蹴りを入れてきた。そのまま倒れそいつに馬乗りされ、ボコボコに殴られた。


「もうやめて、サトルくんを離して!」


 ハルナが僕を助けようと馬乗りのそいつを泣きながら叩き始めた。


「うるせえ! 引っ込んでろ!」


 そいつはハルナを腕で振り払った。その勢いでハルナは後ろに大きく倒れ鉄棒の角に頭をぶつけて動かなくなってしまった。


「お……おい、さすがにやばいんじゃねぇか……」

「わ、わざとじゃねーよ……俺は知らねーぞ! お前がゲーム奪えって言いだしたんだろう!」


 ハルナの様子を見たやつが、僕に馬乗りのそいつと口論を始めた。そんな場合じゃないだろ、僕の目の前には倒れて動かないハルナがいるんだ。


 あとはもう無意識だった。手に石を拾うと馬乗りのそいつの顔を何度も何度も、渾身の力で僕は殴り続けた。


 そいつはバタっと倒れて動かなくなった。それを見てもう1人は怯えて逃げていった。


「ハルナ!」


 ハルナを起こそうとしたけど全く反応がない。

 自分では無理だとすぐ分かった。救急車を呼ぶべく、僕は近所の家で電話を借りた。


『お客様のおかけになった電話番号は……』


 何度119にコールしても繋がらない。


「おばあさん、すいません。近くに病院はありませんか?!」

「病院? なんだい、それは?」


 話しにならなかった。ボケてるのか電話を借りた家のおばあさんは、病院を知らない風だった。

 僕は1度ハルナの下へ戻ろうと公園に急いだ。


『回収します。回収完了』


 そこにはゴミ収集車があった。僕に馬乗りしていたそいつは車から出てきたロボットによって収集車の中に入れられてしまった。


『2体目回収します』


 ロボットの視線は鉄棒下のハルナに向けられた。

 僕はダッシュしてハルナを背負い、その場を逃げ出した。

 訳が分からなかった。なんで人をゴミのように……。

 僕はハルナを背負って家に来た。ここしか安心できるところはなかった。




「やあサトル、おかえり」


 戸を開けると、玄関には父さんがいた。


「ただいま。父さん、病院は?!」

「病院? 何言ってるんだお前」


 ここでも父さんは期待外れな返答をした。


「あらサトル、お友達連れてきたの?」


 俺が背負っているハルナを見て母さんが言ってきた」


「そんな呑気な場合じゃないよ! 早く病院に!」

「病院って……サトルどうかしたの? ちょっと落ち着きなさい」

「これが落ち着いていられる訳ない! 動かないんだよ! ハルナが!」


 僕の必死の訴えに母さんと父さんは顔を見合わせ、一呼吸した後に言った。


「じゃあ早く処理してもらわないとね」


 処理ってなんだよ……何言ってるんだよ2人とも……。

 僕はまた逃げ出した。だめだ、みんな変だ。どうしちゃったんだよ。




 目的地のないまま走り続け、ビルの間の路地にやっと腰を落ち着けた。辺りはもう暗くなっていた。

 ハルナあのまま全く動かない。そんなに打ち所が悪かったのだろうか……。

 僕はハルナが鉄棒にぶつけた後頭部を見た。そこにはひとすじの切れ目があった。ぶつけたときの傷だろうか。でも血が出た様子はなかった。


「そこの君!」


 僕たちは突然ライトに照らされた。


「こんな暗い中子供が何をやっているんだい?」


 警察官だった。僕は安心して言った。


「この子が怪我をして動かないんです。早く病院に!」


 そう言いながらハルナを見た。ライトに照らされた傷口からは金属の機械のようなものが見えた。


「病院? 何を言ってるんだ。今処理させるから」


 警察官は無線を取り出しどこかに連絡を始めた。また、公園で見たような事態になるのを恐れた僕は警察官のライトを奪って、彼を殴り続けた。


 倒れた警察官の傷口からも機械が見えていた。


ウーウーウーウーウーウーウー


 響き渡るサイレンの音。さっきの無線でもうこっちに処理するものが向かっているのだろう。

 僕は逃げた。ハルナも置いたまま。




「父さん! 母さん!」


 家に入り両親に叫ぶと、僕は2人にガッチリ両手を掴まれた。

 2人は全く僕のほうを見ようとせず、その手には金属棒があった。

 そして無言のまま僕を殴り続けた。僕の意識はどんどん薄れていった。

 その中でサイレンの音が家の前で止まった。


 あぁ、僕が処理されるんだな。






ピコピコピコピコ


バコン ドドー ウーウーウーウーウーウー


「くっそー、ガーディアン突破したのに……」

「リョウタ、そろそろご飯できるわよ。ゲームばかりやって、宿題は終わったの?」

「今やろうとしたとこ~……」


 消えて行く意識の中、僕は画面越しになんだか見覚えのある光景が見えた。

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