第8話 仮定とした場合の仮定

 ツブヤキッターのフォロワーから頻繁にメッセージをやり取りしているフォロワーを探し出し、イチゴ氏のツブヤキッターの画像と同じ画像をあげているアカウントを見つけたらそれはご友人のアカウントで間違いない。そのご友人のツブヤキッターの投稿内容を精査し、それらから色々察するにイチゴ氏はサッカー部のマネージャーを務めていることがわかった。これはイチゴ氏のツブヤキッター、フォトスタには載っていなかった情報だ。サッカーに関することは少しも出てきていなかった。もしかすると他に別のアカウントを作っていて、サッカーに関することはそこで投稿しているのかもしれない。複数アカウントがあるのだとすると、それらすべてを精査し特定していくのは骨の折れる作業になるぞ。できれば、ご友人のアカウントを二、三人見つけたからそこからなにか情報を得たいものだが…………。



 ふと、ご友人のツブヤキッターのある投稿に『いいね』のボタンーーその投稿がグッドだと思ったときに、共感や同感の意味で押す、各投稿に付属しているツブヤキッターの機能のひとつーーを押しているとあるアカウントに目が止まった。気になったので押して見ると、そのアカウントはバイク乗りを豪語する男性と思われるアカウントであった。投稿されている画像や動画を見る限り、どう見てもバイクは違法改造だし、法律すれすれの走行ばかりを繰り返している、いわゆる走り屋、というか暴走族とまでは言わないまでも、少しワルの入ったそういう人であるらしかった。投稿を見る限りでは、なにか犯罪をしているわけでもないので、きっと本人たちにとってはやんちゃというか、悪ふざけというか楽しみの一環でやっている行為なのだろうと思えた。しかしそれは私のような凡人にとっては迷惑行為にしか思えず、まともな思考のやることではないように思えた。そんなやんちゃアカウントがなぜイチゴ氏のご友人、いち女子高校生の投稿にいいねボタンを押しているのだ? 



 私はこの二つのアカウントを記録し、無名無職掲示板を開いた。



〉〉この二つのアカウントの関連性を調べたい ノブ



〉ノブさん! こんにちは!

〉ノブさんからのお願い。これはツブヤキッターのアカウントかな?

〉なんだこれ

〉わからん

〉わからないですね……

〉もしかして→URL



 おっ。これは。



 掲示板無名無職にて問いかけたツブヤキッターの二つのアカウントの関係性という問いは、とある一つの回答が書き込まれたことによって、ある結論を導き出すことになった。そのURLはダイレクトメッセージ捜索アプリにつながるものだった。ダイレクトメッセージとは、公で誰でも閲覧可能な普通のツブヤキッターの投稿とは別にアカウントとアカウント同士でのみ閲覧可能な会話のようなメッセージやり取り機能のことをダイレクトメッセージという。つまり、この二つのアカウントの関係性は、ダイレクトメッセージでやり取りをしている関係性ではないかというわけだ。なるほど。それは可能性があるかもしれない。試して見る価値はありそうだ。私は掲示板メンバーに紹介されるがままに、捜索アプリをインストールして起動し、イチゴ氏のご友人と思われるアカウントと謎のバイク乗りアカウントを検索した。ダイレクトメッセージだけを捜索アプリがあるなんて、世の中便利なものだなぁ、これはこれで怖いものだなぁなんて思いながら数秒。結果が出た。答えは黒。二つのアカウントは睨んだ通りダイレクトメッセージによって繋がっていた。



 女子高校生とバイク乗りの男。一見すると全く関係のなさそうな、脈絡も縁もゆかりもなさそうな、そんな双者がどのようなやり取りをしていたのか。それはわからない。ダイレクトメッセージ捜索アプリはあくまでもダイレクトメッセージを行っているかどうかを捜索するアプリであって、その内容まで確認することができるわけではないのだ。中身がわからないと、しかしもやもやする。内緒話を陰でしているようなものだ。気になるよな。



〉バイクの男の方。もしかしたらとある半グレ集団の一員かもしれない。詳しいやつから聞いた人の中に似たようなのがいた気がする。



 は、半グレ集団?


 

 半グレ集団というのは、私の認識では暴力団に属さず犯罪を行う組織で、堅気とヤクザの間であること愚連るという意味、グレーゾーンのグレーなどから来ているというあの半グレ集団だろうか。暴力団に属さない以上、暴力団排除条例等の条例や法律が適用されないために厄介であると聞いたことがある。そんな半グレ集団なんて、突然言われても、しかしぜんぜん実感がなかった。暴力団がどこか自分とは関係ない世界の住人で、自分とは関係ないところにいて、自分が関わることのない存在であるかのようにずっと思っていて、錯覚なのかもしれないがそう感じていて、そう思ってしまっている自分がいたのだからしようがない。そこに半グレ集団である。それこそ、本当に存在したんだ、なんか怖いな、程度の感想を抱くしかない自分との関わりというか距離感を感じざるを得ないのが本当だった。



 〉それは本当か?



 私はこのように返信のメッセージを書き込んだ。そしてその返信に対して流れてきたコメントは、一つのニュース記事とニュース動画であった。ニュースは半グレ組織に警察が捜査に入ったというもの。ちょうど一年前くらいの記事。どうやらその動画にそのバイク乗りの人物が写っているのだというが、警察以外に写っている人物が小さくて分かりにくく、誰がどれだがいまいち判然としない。



 しかしこれが本当であるとするならば、それはなかなか怪しくなる。イチゴ氏の友人と思われる女子高校生と違法改造バイク乗りの半グレ組織のメンバーと疑わしき人物。なぜこの二人がダイレクトメッセージを交わしているのか。なにのメッセージを交わしているのか。疑わしい。半グレという言葉に誘拐したのはもしかしたら、という疑念が浮かんでくる。イチゴ氏の友人から脈絡があるというのもどうにもきな臭い。その友人と何らかの人間関係トラブルがあって、その友人がエスエヌエスで知り合った半グレ集団のメンバーに、なんの目的があってかは分からないが誘拐を依頼し、実行されたのではないのだろうか。いや、となると相手、つまり半グレ集団のメンバーは誘拐相手がヤクザの一人娘であることを知らなかった可能性が出てくるな。もし知っていたら、いくら知り合いの頼みとはいえ、女子高校生がどのような立場で関係なのかは不明だがその何らかの関係による依頼であるとはいえ、半グレ組織かヤクザ、暴力団に手を出すような真似をするだろうか。そんなことをしてタダですまないだろうというのは、一般人の私でさえ想像がつく。となると、つまりは半グレ組織のメンバーであるこのバイク乗りは何も知らない可能性があるということだな。すべてここまで仮定した仮定が事実だとしたらだけど。事実だとしたらだけど、半グレが何も知らずにヤクザの一人娘に手を出していた場合、その事実を知ったら、意外とあっさりその人質の身を開放するのではないだろうか。私はそんな気がした。事件は解決し、私がカラーギャングの長としての責任を負わされることも、カラーギャングのメンバーが誘拐したという疑念からリーダーである私がその責任を問われることもなくなるのではないか。すべて解決。万事解決。オールオッケー。よし、まだ仮定ではあるが可能性の高い仮定だ。



 ラ・エルソウ・ディスティアーナ。



 私は作戦を立てるべく、ひとりで夕飯までの時間と夕飯後から就寝までの時間を使い、計画書を立案しようと試行錯誤を始めたのだった。

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